憲法改正を考える(その3)〜自民論点整理(2)〜

憲法改正を考える(その1)〜国民投票法(1)〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050314#1110803315
憲法改正を考える(その2)〜自民論点整理(1)〜+自民党ホームページについて
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050314#1110805753


つづきです。とりあえず、下記を。

<自民憲法起草委>中間報告 「表現の自由」に一定の制限も
 自民党憲法起草委員会(森喜朗委員長)は14日、新憲法草案試案の4月策定に向けた中間報告(論点整理)をまとめた。焦点である9条に関しては、自衛権や軍隊の保持を明確化し、国際協力を中心的業務として明記。政教分離を緩和し、社会的儀礼などの範囲内なら国や自治体の宗教活動を認めることや「表現の自由」などの権利に一定の制限を加える方向を打ち出した。合意を積み残した部分の調整をさらに進めるが、民主党などとの今後の協議をにらみ、国家主義的な内容を確定することに慎重論も根強い。来月の試案では当初予定していた「条文化」は見送られる情勢だ。
 中間報告は、10分野で構成される小委員会の議論を集約、整理したもの。安全保障に関しては戦争放棄を規定した9条1項を維持し、戦力不保持をうたった2項を改正する方向を示した。自衛隊を軍隊と位置付け、国際協力を中心的業務に明記すべきだとの意見を盛り込んだ。現行憲法が禁じる集団的自衛権の行使は認めるものの条文に明記せず「安全保障基本法」「国際協力基本法」などで別途規定する。文民統制や首相の指揮監督権、非常事態の規定を草案に置くよう求めた。
 前文は全面改定の方針を打ち出し、自主憲法であることや、自然に育まれた国民性や、歴史、伝統、文化を盛り込むことが固まった。また「国の独立と国民の安全を守る意思」も明記する方向で、保守回帰の国家像を描いた内容となっている。自民党がこだわってきた「愛国心」の明記も多数意見となっているが、結論には至らず今後の検討に委ねた。
 同時に前文には「個人の権利には義務が伴い、自由には責任が伴う」とも記す。(1)国防(2)社会的費用の負担(3)家庭の保護(4)生命の尊厳の尊重など四つの責務を国民に新たに課す。一方で、現行憲法にある「表現の自由」「結社の自由」「財産権」の三つの権利に対しては一定の制限を加える考えを示し(1)有害図書の出版・販売(2)社会秩序を害する目的の結社(3)公共の福祉や環境を保護と照らし合わせた財産権――の制限を例示した。
 憲法96条の改憲要件に関しては、現行の「各議院の総議員の3分の2以上の賛成と国民投票による承認」の緩和で一致したが、具体策は意見が分かれており、さらに調整を進める。【宮下正己】
自民党憲法起草委・中間報告の骨子■
◇前文◇
・わが国の自然とそれに育(はぐく)まれた国民性
・わが国の歴史、伝統、文化など
・国の独立、国民の安全を守る意思
天皇
・元首と明記すべきかは賛否両論
◇安全保障◇
自衛権自衛隊文民統制の明確化
・国際協力を自衛隊の中心的業務として位置付ける
・国民は国を守る義務を持つ
◇国民の権利・義務◇
政教分離原則の緩和
有害図書出版・販売など表現の自由を制限
・知る権利、プライバシー権、環境権などを追加
・国防、生命尊厳の尊重などの責務を追加
◇改正規定・最高法規
憲法改正の要件を緩和
毎日新聞) - 3月14日21時49分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050314-00000115-mai-pol

憲法学でいう憲法改正無限界説にたたないとこのような憲法改正はできないと思うのは私だけ?
もちろん、法律上の限界ですけど。この点については、憲法の本をみればわかるかと。
その点「憲法改正の要件を緩和」の是非については考えるべきでしょう。
さて、限界論をおいておいて少し考えてみると、すでにかなり国家主義的な内容ですね。
「国民は国を守る義務を持つ」「負う」でなく「持つ」というのがよくわかりませんが、
これなんかまさに国家主義的で、戦前の「御国ために」そのものです。
国を守るために個人があるのではなく、個人をまもるために国があり、そのために憲法があるのです。
このような提案が表にでてくる時点で自民党憲法認識を疑わざるを得ません。
いや、そもそも自民党は国民を「個人」ではなく「国のもの」としか思っていないのでしょう。
「安全保障」からみで触れておくと、「国際協力を自衛隊の中心的業務として位置付ける」というのは文言だけみればいいのですが、
「国際協力」が「集団的自衛権」につながるのであれば、賛否両論あるところでしょう。
また、法律上の限界ともかかわる問題にもなりかねません。
自衛権自衛隊文民統制の明確化」というのが現状を是正するという意味では問題ありませんが、
これも平和主義原則との関係などもあって賛否両論あるところでしょう。
天皇」については特に触れる必要はないと思います。
「前文」ですが、
「わが国の自然とそれに育(はぐく)まれた国民性」が何をいうのはわかりませんが、
「国民性」がなんなのかはよくわかりません。
「わが国の歴史、伝統、文化など」もよくわかりません。
堀江社長の買収行為は解釈上違法となるのでしょうか?
「国の独立、国民の安全を守る意思」の主体が政府であればいいのですが、あえて記載する必要があるのかどうかわかりません。
さいごに「国民の権利・義務」。
まず、「知る権利」「プライバシー権」を明文で認めることにはあまり異論はないと思います。
「環境権」についても、未来を考えるとあった方がいいのかもしれません。
ただし、環境義務ではないことは確認しておく必要があるでしょう。
「国防、生命尊厳の尊重などの責務を追加」ですが、まず国防責務はすでに述べた通りです。
国民のために政府があるのであって、政府ための個人は本末転倒です。
そんなに守りたいなら自民党で私設軍隊でもつくったらどうです?
「生命尊厳の尊重などの責務」の意図がわかりませんが、文言どおりならそれほど不都合なさそうです。
(むしろあえて書く必要性がわかりません。)
政教分離原則の緩和」も意図がわかりません。「憲法改正を考える(その2)〜自民論点整理(1)」で述べたとおりです。
有害図書出版・販売など表現の自由を制限」
「有害」の意味にもよりますが、あえて明文で「表現の自由を制限」する規定をおく意味がわかりません。
現在でも一定の場合には「表現の自由」が制限されるわけですから、
このような明文制限をおくと表現弾圧につながるおそれもあります。具体的明文にもよりますが…。


以上、ざっと検討しましたが、ろくな意見がでてませんね。
統治機構とつながる自衛隊の位置付けや人権拡大での「知る権利」「プライバシー権」はまだしも、
個人制限の憲法改正はどうかと思います。
憲法改正ではなく「新憲法起草」というのがミソかもしれませんが、どっちにしても同じです。

自民党憲法起草委員会メンバー
http://www.jimin.jp/jimin/yakuin/shinkenpo_1.html
デイリー自民
http://www.jimin.jp/jimin/daily/05_03/14/170314a.shtml

憲法改正を考える(その4)〜自民論点整理(3)〜

憲法改正を考える(その1)〜国民投票法(1)〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050314#1110803315
憲法改正を考える(その2)〜自民論点整理(1)〜+自民党ホームページについて
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050314#1110805753
憲法改正を考える(その3)〜自民論点整理(2)〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050315#1110816281


自民党憲法改正でしたいことは国民のためではなく、
国民をコントロールして自分達の思い通りにするためでは?とさえ思いたくなるような内容…。

憲法改正試案、自衛隊を「軍」と位置づけ…自民起草委
 自民党の新憲法起草委員会(委員長・森前首相)は14日、小委員長会議を党本部で開き、改正試案の論点整理(中間報告)をまとめた。
 自衛隊を「軍」と位置づけ、国際協力を中心業務の一つとするなど、憲法9条の抜本改正案を盛り込んだ。有事などを想定した「非常事態規定」や国民の「国防の責務」なども新設した。
 論点整理は10分野の小委の論議を基にまとめたもので、各小委は4月の試案策定に向けて3月中に要綱をまとめる予定だ。
 安全保障については、9条のうち、戦争放棄を定めた1項は基本的に維持する一方、2項を改正し、自衛隊については「軍として明確に位置づけるべきだ」とした。集団的自衛権を含む「自衛権」の保持を明記するほか、自衛隊に対する文民統制や、首相の自衛隊に対する指揮監督権を盛り込むとした。
 国民の権利・義務に関しては、法的に強制されない「責務」という規定を新設し、「国防の責務」や、「社会保障制度を維持するための費用負担の責務」などを挙げた。
 政教分離の原則を緩和し、国や自治体が行う宗教的活動については「社会的儀礼や習俗的、文化的行事の範囲内ならば許容される」との考えを打ち出した。「公共の福祉」の代わりに「公益」の規定を盛り込んでいる。憲法判断を専門に行う「憲法裁判所」については、見送る方向だ。 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050314-00000214-yom-pol
(読売新聞) - 3月14日23時59分更新

別の記事から前回触れなかったところを中心に。
「軍として明確に位置づけるべきだ」これも現在の憲法の法律上の限界論からは微妙なところ。
自衛隊憲法上の機関とするのはいいけれでも、「軍」としたいならなお一層限界を明記するべきであろう。
(たとえば、同時に非核三原則を明文化するという選択肢もある。)
そうでないと法律でどんどん拡大していくことは自衛隊の歴史的変遷からも明白である。
「国防の責務」「社会保障制度を維持するための費用負担の責務」をおくらしい。
「義務」と異なり「法的に強制されない」らしいが、だとすれば、こんな規定は不要である。
それとも「義務」でないことを確認してくれるのであろうか。
さらに進んで実質上の「国防非協力の権利」、「社会保障未加入の権利」である。
社会保障未加入の権利」の行使は社会保障を受けれないだけど、
「国防非協力の権利」の行使でそのものを放置することは国家の本質に反するから無理だと思うけどね。
また、責務となることで、少なくとも生存権はプログラム規定ではなくなるということになるように思われる。
おそらくは国民年金の不払いに対処するということであろうが、これをすると、
権利は義務を伴うの逆で、義務(責務を果たした以上)は権利を伴うことになり、逆に政府は困ることになりかねない。
納税の義務以上に使途限定なわけだし、少なくとも社会保障費の流用はできなくなるように思われる。
今の社会保険庁がやっている財源流用は違憲なる。
でも、それを争うための「憲法裁判所」については、見送る方向だそうで。
(なんででしょう?統治分野こそ憲法改正の本来の姿だと思うのだが…)
ちょっと何をしたいのかわかりません。
あくまで「論点整理」であるが、整理の時点で「憲法裁判所」についてはこれを見送るという判断をしているのだから、
これがそのまま条文化される公算は大きいように思われる。
いずれにせよ、自民党憲法を政府をしばる法ではなく、国民をしばる法と考えているように思えてならない。
このことは「公共の福祉」を「公益」と考えていることにもあらわれている。
公益で人権制限できては、人権などなきに等しいのである。
結局は立法府さえよければ、なんでもありになってしまう。(戦前の「法律による行政」)
こんな憲法が「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」と小学校で習った3原則をもつ憲法より優れていると思うのか?
国民は、この憲法案が意図するところを見極める必要があろう。
この記事をみた国民の多くがどう思っているのか非常に気になるところである。


比較法的な憲法改正の考察もしてみたいが、
少なくともアメリカ合衆国憲法には国民を制限する改正は禁酒法(修正18)を除いてはないし、
その条項も修正21条により廃止されているところである。


「人権保障」を謳っているはずの政府与党がこのような憲法改正案を考えている。
国民は政府による人権侵害にもっと敏感になるべきであろう。

車検延長見送りへ。

自家用車の車検延長、見送りへ
 政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)は14日、小泉首相に3月下旬に提出する追加答申に、自動車検査制度での自家用乗用車の検査有効期間延長に関する具体的提案を盛り込まない方針を決めた。
 同会議は当初、来年度から初回の有効期間を3年から4年に延長するよう求める考えだったが、「延長すると交通事故の死傷者が増える」とする国土交通省の抵抗が強く、見送ることにした。継続的な課題に掲げるかどうかは今後検討する。
 二輪車については、初回車検の有効期間を2年から3年に延長することを盛り込む方針だ。
(読売新聞) - 3月15日0時4分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050314-00000012-yom-pol

官僚が反対するなら、是非とも議員立法で、と思う。
そもそも「延長すると交通事故の死傷者が増える」との主張になんらの合理性はない。
車の故障に基因する事故は人為的なものに比べ圧倒的に少ないし、立ち往生で渋滞もあまりない。
(実際みるのは、むしろ路上駐車の方が問題であろう)
もちろん、現在の状況が車検の賜物だ、といえなくないが、外国ではどうなのだろうか?
車検が日本より長い国、そのような制度がない国との比較が可能であろう。
日本車もたくさん海外にあるのだし、車そのものの性能なのだから、国民性も関係ない。
十分に比較できる資料が取得できるだろう。
結局は車検制度によって存在する天下り企業の確保という自己の利益確保なのだろう。
そうではない、と否定するのであれば、
車検認定要件に天下りの人がいる企業は認めないという条項でもつくってください。