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2017-11-18

「保守速報」裁判の地裁判決と、「まとめサイト」の今後

2017年11月16日。京都地裁で、ライターの李信恵氏が、まとめサイト「保守速報」を相手取って訴えた裁判の判決が出た。李信恵氏が原告となり、「保守速報」が被告となったこの裁判では、「保守速報」に対し、200万円の支払いを命じるという判決がひとまずでた。


この判決で確定というわけではないため、今後、高裁などでどういった判断が下されるのかを見守りたい。というのもこの裁判は、今後「まとめサイト」の法的責任をどのように位置づけるかという重要な参考事例となりうるためだ。


以下、判決文から、原告と被告双方の主張と、それに対して地裁がどのような判断を行ったのか、気になった論点を自分なりに要約していきたい。


  • 争点1:原告の権利を侵害しているか

【原告の主張】

「朝鮮の工作員」「キチガイ」「寄生虫」「ゴキブリ」「ヒトモドキ」「クソアマ」「ババア」「ブサイク」「鏡見ろ」「死ね」などの数多くの書き込みが、名誉毀損、侮辱、人種差別、女性差別、いじめ、脅迫、業務妨害にあたる。


【被告の主張】

ブログ記事は、原告個人に対する批判ではなく、対立思想に対する批判又は保守的な政治思想に基づく意見ないし論評にすぎない。名誉感情を害するものや、差別などにはあたらない。


【判決】

本件各ブログ記事には、名誉毀損、社会通念上許される限度を超えた侮辱、人種差別、女性差別にあたる内容が含まれているというべきである。


  • 争点2:新たな権利侵害の有無

【原告の主張】

被告は、表題の作成、抜粋、強調、加工、転載などを行うことで、ブログ記事の内容を、引用元の投稿よりも集約的かつ先鋭的なものに変容させた。その結果、情報の伝播性が高まり、内容が広く知られた。したがって、原告の権利利益が新たに侵害された。


【被告の主張】

表題の作成、抜粋、協調、加工、転載などはまとめ記事を作成する上で当然必要となる行為だった。本件各ブログ記事の内容が2ちゃんねるのスレッド等の読者以外に広く知られたことは、何ら証明されていない。原告の権利利益は引用元の投稿の掲載行為により侵害されたのであって、本件各ブログ記事の掲載行為により新たに侵害されたものではない。


【判決】

本件各ブログ記事は、引用元の投稿を閲覧する場合と比較すると、記載内容を容易に、かつ効果的に把握することができるようになったというべきである。記事の内容は、2ちゃんねるのスレッド又はツイッターの読者以外にも広く知られるものとなったといえる。ブログ記事の掲載行為は、引用元の2ちゃんねるのスレッド等とは異なる、新たな意味合いを有するに至ったというべきである。被告がブログ記事を掲載した行為は、2ちゃんねるのスレッド又はツイッター上の投稿の掲載行為とは独立して、新たに憲法13条に由来する原告の人格権を侵害したものと認められる。


  • 争点3:違法性阻却事由の有無

【被告の主張】

(1)名誉毀損について:ブログ記事を掲載した目的は、原告を誹謗中傷することではなく、2ちゃんねるのスレッドに掲載された情報を集約し、読者に分かりやすく紹介するという、専ら公益を図ることである。原告は知名度のある記者として、記事等において発言したのに対し、レスの投稿者は、無名の私人として、2ちゃんねるのスレッドで原告の主張の過激さと同程度の過激さをもって原告個人ではなく対立思想を批判したに過ぎず、その方法及び内容は相当な限度を超えるものではない。

(2)対抗言論の奏功:原告は知名度のある記者として反論を繰り返しており、その対抗言論が奏功している。したがって、原告の社会的評価の低下が否定される、又はその違法性が阻却されるというべきである。

(3)インターネット上の表現であること:インターネット上の表現は従来型のメディア上の表現と比較し、一般の読者には信頼性の低い情報と受け取られるし、これにより一定程度名誉が毀損されても、被害者はインターネット上の反論によりその回復を図ることが可能である。インターネット上の表現は、より広く保護されるべきであるから、掲載行為による名誉棄損については、違法性が阻却されるというべきである。


【原告の主張】

(1)名誉毀損について:原告は私人に過ぎず、被告が各ブログ記事を掲載した目的は、原告を誹謗中傷することにあって、専ら公益を図ることにないのは明らかである。内容は、原告に対する人身攻撃に及んでおり、意見ないし論評の域を逸脱している。

(2)対抗言論の奏功:保守速報が多数の読者を持つ影響力の大きいブログであることなどからすれば、十分な反論はできず、対抗言論の奏功をいう被告の主張には理由がない。

(3)インターネット上の表現であること:従来型のメディア上の表現とは異なり、誰もが容易に閲覧することができる上、削除されても複製や転載によって永続的に広まっていく性質があり、被害の程度は深刻。違法性が阻却されることはない。


【判決】

(1)名誉毀損について:ブログ記事全体において、侮辱的な表現、あるいは原告が人であることや通常の判断能力を有することを否定するような不穏当な表現を多数用いて、原告の精神状態、知的能力、人種、容姿等を揶揄するものである。これらはいずれも原告の言動を批判するにとどまらず、原告の人格そのものを攻撃するに至っていると認めるのが相当である。違法性が阻却されるという被告の主張は、採用することができない。

(2)言論の応酬の法理について:各ブログの掲載行為による名誉毀損は、原告の発言と対比して、その内容において適当と認められる限度を超えているというべきであるから、いわゆる言論の応酬の法理により違法性が阻却されるという被告の主張は、採用することができない。

(3)その他の違法性阻却事由について:インターネット上の表現であるからといって、一般の読者がおしなべて信頼性の低い情報として受け取るとは限らないこと、インターネットに掲載された情報は、不特定多数の者が瞬時に閲覧可能であり、これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること、一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく、インターネット上での反論によりその回復が十分に図られる保証があるわけではないことなどを考慮すると、違法性が阻却されるとは解し難い。被告の主張は、採用することができない。


  • 争点4:原告が被った被害の額

【原告の主張】

被告の違法行為は人種差別および女性差別の複合差別であり、原告が複合差別により精神的苦痛を被ったことを確かめてそのことを歓迎したり、原告を日本の地域社会から排除しようとしたりするもの。

また、被告は、過激な内容のブログ記事を掲載して多くの広告収入を得るという動機をも有していたこと、実際に約1年間に45本ものブログ記事を継続的に掲載し、その内容がインターネットを通じて広く知られていたことなどからしても、被告の不法行為は極めて悪質である。


【被告の主張】

原告には損害が生じていない。被告は各ブログ記事でバナー広告収入を得ていたが、過激な内容のブログ記事を掲載して多くの広告収入を得るという動機は有していない。このことは、本件各ブログ記事が被告の掲載した全ブログ記事のうち本数にして1%にも満たないことからも明らかである。

原告は、被告が削除要求に応じる旨を表示していたにも関わらず、被告に削除を要求せず、2ちゃんねるの管理者に対しても削除を要求していない。このように削除を要求せず長期間放置したことにより、自ら損害の拡大に寄与したというべきである。


【判決】

当該表現が原告の名誉感情、生活の平穏及び女性としての尊厳を害した程度は甚だしいものと認められる。特に、本件においては、複合差別に根差した表現が繰り返された点も考慮すべきである。

被告は、約1年間にわたって名誉毀損、社会通念上許される限度を超えた侮辱、人種差別又は女性差別に当たるブログ記事を40本以上も掲載したのであり、不法行為の態様は執拗である。情報を紹介する目的で掲載しただけではなく、原告の名誉を棄損し、侮辱し、人種差別及び女性差別を行う目的をも有していたと認めるのが相当である。

他方、被告が各ブログ記事の掲載行為により一定の広告収入を得ていたことに争いがないとはいえ、被告が過激な内容のブログ記事を掲載することにより多額の収入を得るという動機まで有していたことを認めるに足りる証拠はない。

原告が削除の要求をしなかったからといって、損害の拡大に寄与したことにはならない。


  • 争点5:権利濫用及び信義則違反

【被告の主張】

本件各ブログ記事の内容は、政治思想に関わるものであり、憲法21条の保障する表現の自由の中でも特に保護されるべきである。原告が本件訴訟を提起した目的は、被害からの救済ではなく、このような要保護性の高い政治思想に係る表現の自由を抑圧することになる。本件訴訟は、いわゆるSLAPP訴訟にほかならない。


【原告の主張】

原告が本件訴訟を提起した目的は、政治思想を抑圧することにあるのではない。表現の自由は無制限に保障されるものではなく、個人の権利利益を侵害する表現は、一定の要件を満たす場合には規制の対象となる。原告は、各ブログ記事により、憲法13条および14条1項で保護された自己の人格権及び平等権を侵害されたため、その被害からの救済を求める目的で本件訴訟を提起したのである。SLAPP訴訟には当たらない。


【判決】

本件訴訟における請求が権利の濫用に当たり、信義則に反するものとは認められない。


以上、判決文を自分なりに整理した。地裁の判断は、書き込み内容の問題点だけではなく、「まとめただけ」「ネットだから」では済まされないという、ウェブ上の表現形式についても触れるものとなっている。今後の裁判のゆくえ、および類似の係争について、どのような判断が下されていくのか、見ていきたい。


私見では、この判決はいわゆる「まとめブログ」だけでなく、togetterやNAVERまとめなどのサービスにおいても重要な意味を持つと考える。「まとめ」もまた、主体的な表現である以上、様々な責任が問われる行為だ。このことを前提としたコミュニケーションが必要となってくる。

2017-09-11

[]「netgeek」が流した「泉放送制作」デマについて

2017年6月20日の「netgeek」に、「日テレ・フジ・TBS・テレ朝の16番組以上を1つの制作会社が担当して偏向報道やりたい放題。日本は乗っ取られた」いうタイトルの記事が出ていた。内容は、「泉放送制作」という制作会社が各局のニュース番組を作っており、意図的に偏向報道を行っているというもの。

記事内容については、放送業界に関わっている者であれば、<放送現場を知らない人が、ネットで拾った言葉を繋ぎ合わせて作り上げたデタラメ>だと分かるもの。実際、放送業界の人などから、デマであるという旨の指摘も既に行われている。ただ、Twitterなどの反応を見ていると、真に受けている人も少なくなかった。国会議員であるとか評論家であるとか、社会的地位のある人もこのデマの拡散に加担していた。

テレビ局が放送する番組によっては、自社の社員だけでなく、制作会社からディレクター、AD、事務スタッフなどの派遣を受けて制作現場を回している。「泉放送制作」は、ウェブサイトによれば従業員170人。業界でも大きめの制作会社ではあるが、だからといってその制作会社が編集方針などを決めるわけではない。僕も出演したのことのあるいくつかの番組スタッフに確認しても、ある現場ではADさんだけとか、ある現場では事務スタッフだけといった具合で、制作会社のかかわり方も様々だ。まさか、ADがひとり関わっただけで、マスメディアを「乗っ取れる」と言うのだろうか。

制作会社は、各局・各番組の依頼に応じて、制作スタッフを派遣したり番組制作を補助するもの。ある制作会社が、複数の番組の仕事を請け負ったとしても、まるまる番組を作っているというようなものでは必ずしもない。「泉放送制作」のウェブサイトには、様々な局や番組の制作実績が掲載されている。それを見て、制作会社こそが何から何まで番組を作っていると想像を膨らませたのかもしれない。しかし実際には、それぞれの局や番組ごとに、複数の制作会社が関わる事も多く、特定の制作会社が「やりたい放題」というようなことではない。

なにより、特定の制作会社が複数の番組に関わっていることをもって、「日本が乗っ取られる」と表現する意味がよくわからない。複数の番組を作っている制作会社など、「泉」以外にもいくらでもある。「日本が乗っ取られる」とはあまりに妄想が過ぎる。「netgeek」は採用情報をウェブサイトに掲載しており、そこには「記事を書くライターを募集しております。採用対象は新聞レベルの文章が書ける経験者のみ」と書かれている。だが、同サイトの他記事を見ても、「新聞レベルの文章」とはとても思えない。

Twitterなどの反応では、「乗っ取り」「黒幕」といった言葉が並んでいて、ひとつの陰謀論として消費されている。何か気に入らない放送があると、「また泉さんかな?w」といった趣旨の書き込みが行われたりする。特定の記号を見つけるたびに壮大な物語と結び付けるという点で、陰謀論者ととてもよく似ている。というよりも、これ自体ももはや陰謀論の一種だと言っていいだろう。

メディアを正して社会をよくしたいというよりも、「メディアの裏を見抜いている自分たち」という消費が目的なのだろうか。もしそうでないのであれば、間違った知識で何かを叩くという行為は無駄であるため、こうしたデマにこそ厳しく対応したほうがいい。メディアチェックという言葉には、自分の書き込みも含めたネットへの投稿を含める必要がある。

国会議員がこのデマを訂正し、そのことを共同通信などが報じたことによって、いまは拡散がある程度鎮静化している。デマは放置しておくと、質的にも量的にも「育ってしまう」。だからこそ早めに是正されることが望ましい。報道が出たことはその点ではよかったと思う。

ところでこの記事には、冒頭部分にTBS社員である金富隆氏の写真が掲載されていた。使われていた画像は、2016年に放送された「TBSレビュー」からのキャプチャーだ。なぜこの画像が使われているのか。なぜ金富氏なのか。本文では一切触れられていない。

金富隆氏は僕の友人である。彼はTBS社員であり、泉放送制作とは何の関係もない。そして、彼が関わってる番組においてすら、最高責任者というわけでもない。彼は日本人であるが、在日韓国人・在日朝鮮人に対する差別的感情を煽るため、「金・富隆」とわざわざ分け、彼を「在日認定」する書き込みも多く見かけた。

「泉放送制作」や「金富隆」というワードでツイッターなどを検索すると、デマを拡散するだけでなく、メディアについての事情通ぶった書き込みが多く出てくる。「ようやくこの事実が知られるようになったか」といったような趣旨の書き込みをみた時は、痛々しすぎて見ていられなかった。

何かを「叩く」先には、ただの記号が横たわっているわけではない。「叩く」相手は、あなたや、あなたの友人や仲間、家族や親戚と同じ、生身の人間がいる。特にデマの場合、その是正のコストはとても大きく、流された側が多大なリソースを割かなければならなくなる。

共同通信の記事が出てから間もなく、「netgeek」から当該の記事が削除された。だが、このブログ記事を執筆している現在において、相手方への謝罪などは見当たらない。当該サイトがこれからどういう対応をするのかわからない。だが、一般的に、「デマを流し、お金を儲け、問題になったら逃げる」という手法が「得」になるようなウェブ社会のあり方は、改めていかなくてはいけないと思う。

2016-11-22

[]福島県沖地震に関する流言まとめ

本日11月22日の5時59分、福島県沖を震源とする震度5弱の地震があり、各地で津波も発生しました。地震・津波・原発に関する情報に多くの人が関心を寄せる中、いくつかの流言などがtwitter上に流れました。


  • 虚偽の被害報告

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あたかも今回発生した津波の写真をアップしているかのように書かれていますが、これは東日本大震災の際の写真です。そのことを把握した多くのユーザーが、不適切な投稿であると指摘・通報していました。熊本地震の際には、「動物園からライオンが逃げた」という趣旨の流言を流した男性が、偽計業務妨害の疑いで逮捕されています。


ニセの被害状況を煽り、周囲を不安にさせる。こうした行為は周囲にとって悪影響にしかなりませんし、いまや本人にとってもリスキーな行動であると言えます。(※多くの批判などが集まったためか、14時現在で当該の投稿は削除されています)


  • 外国人犯罪流言

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残念なことに今回も、「外国人犯罪流言」やヘイトスピーチが見受けられました。twitterでは15日から、新機能として「人種、宗教、性別、考え方などを誹謗中傷または差別している」投稿を、問題あるツイートとして報告できるようになりました。そのため、上の流言に対しても、ただ投稿を批判するだけでなく、多くのユーザーが通報を行っていました。


「ヘイトをたしなめる」「淡々と通報する」動きは、以前と比べてもスピーディになっていると感じられます。(※多くの批判などが集まったためか、14時現在で当該の両アカウントは鍵垢になっています)


  • 政治家の情報発信

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今回の地震の際には、福島第二原発3号機の使用済み核燃料プール冷却装置が停止しました(その後再開)。これについて、衆議院議員のあべともこ氏が、「使用済み燃料プールの冷却ポンプがつまり」と事実と異なる投稿をしました。この件について、多くの指摘が集まり、あべ氏は数時間後に訂正をしました(但し、その訂正の仕方も批判されています)。


災害時には、政治家のガバナンス能力や情報発信がより問われてきます。「確かな情報提供のための投稿」ではなく、「政権批判のための投稿」と捉えられれば、信頼を損なってしまいます。


  • 災害再来流言

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大きな災害発生時には、「災害再来流言」がしばしば発生します。おりしも数日前から、「11月23日に南海トラフ地震が起きる」といった流言がネット上に広まっていました。そのため、より不安を感じてる方も多く見受けられます。


但し、現在の地震研究では、「○月○日に地震が起きる」といった、事前の正確な予測はできません。皆さんも報道などで見聞きしたことがあると思いますが、「○年以内に発生する確率が○%」といった大まかな予測を元に、「いつ来てもおかしくない」と考えたうえで、日々備え続けるしかありません。予言して注目を集めようとする人の投稿に左右されたり、不確かな情報を拡散するよりも、しっかりと対応できるよう備えておくことのほうが重要です。


(適宜更新するかもしれません)