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2018-07-04

「保守速報」裁判の高裁判決と、ヘイトスピーチ対策のこれから

昨年、地裁判決によって、まとめサイト「保守速報」によるライター李信恵氏への差別や名誉棄損などが認定された(詳細は→http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20171118/p1)。この判決を不服として、「保守速報」は控訴していたが、2018年6月28日、大阪高裁が1審の判決を支持し、「保守速報」の訴えをいずれも棄却するという判決を出した。


名誉毀損や差別が認定され、李信恵氏への慰謝料が必要だとした点は、一審と同様だ。但し、高裁判決では、より差別事象ごとに整理した判決文の書きぶりになっていた。その書きぶりは、あたかもウェブ上の排外的主張に対する、法的観点からの丁寧なQ&Aのようでもあった。


以下、判決文から、控訴人(保守速報)の主張に対する高裁の判断について、気になった論点を自分なりに要約していきたい。



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(1)各ブログの一体性及び新規性

【控訴人】

・本件各ブログ記事は複数の第三者による複数のレスで構成されており、各ブログ記事単位で集合体として一体をなしているわけではないから、各レスの表現が名誉棄損に当たるとしても、ブログ記事全体が名誉毀損、侮辱、人種差別、女性差別にあたるわけではない


【高裁判断】

・本件各ブログ記事は、控訴人がその相当数の表題を作成し、その表題の下に、2ちゃんねるのスレッド又は被控訴人(※李信恵氏)のツイッターに掲載されていたレス又は返答ツイートからごく一部を選択したうえで、順番を並び替え、表記文字を拡大・色付けするなどの加工をして編集・掲載したものである

・すなわち、本件各ブログ記事は、控訴人が一定の意図に基づき新たに作成した一本一本の記事(文書)であり、引用元の2ちゃんねるのスレッド等からは独立した別個の表現行為である

・(本ブログ記事は)各レスを個別にみるものではなく、当該レスを含むブログ記事が名誉毀損や侮辱罪にあたるかを判断するものである


【控訴人】

・各ブログは2ちゃんねるの記載内容以上の情報を伝えるものではない。


【高裁判断】

・素材は2ちゃんねるであるとしても、情報の質、性格は変わっている

・引用元の投稿を閲覧する場合よりも記載内容を容易かつ効果的に把握することができるようになっている上、読者に与える心理的な印象もより強烈かつ煽情的なものになっているというべきである

・2ちゃんねるの読者とは異なる新たな読者を獲得していることも否定しえない

・新たな文書の「配布」であり、新たな意味合いを有する


【控訴人】

・社会的評価の低下や名誉感情の侵害は、2ちゃんねるにおいて元のレスを閲覧し得る状態になった時点で発生しており、社会的評価を新たに低下させるなどすることはない


【高裁判断】

・保守速報には相当数の読者がいると認められる上、保守速報と2ちゃんねるとではその読者層も異なっているから、新たにより広範に社会に情報を広めたものと言える

・控訴人が各ブログ記事を掲載した行為は、その内容によっては、被控訴人の社会的評価をより低下させたものと認められる


(2)権利侵害又は悪質性の不存在について

【控訴人】

・トンスルの意味を理解できたとしても、それは被控訴人が朝鮮半島にルーツを持つというほどの意味にとどまる

・トンスルという用語が、2ちゃんねる等では侮辱的意味を有するとしても、このような論戦の場で使用される用語により被控訴人が名誉感情を害されたととることは困難である


【高裁判断】

・トンスルが韓国人又は朝鮮人を侮辱する際に用いられる言葉として理解される

・侮辱的表現である以上、これにより被控訴人が名誉感情を害されることがないとはいえない


【控訴人】

火病の語義は一般的ではなく、仮に「精神病又は一瞬の癇癪やヒステリー」を意味すると理解できたとしても、それはせいぜい被控訴人の言動が穏当でないというほどの意味にとどまる


【高裁判断】

・火病が韓国人又は朝鮮人を侮辱する際に用いられる言葉として理解される

・被控訴人の名誉感情が害されることはないとの控訴人の主張に理由がない


【控訴人】

・「マジこいつゴミ」「脳内お花畑」「浅はか」「コウモリ野郎」等の表現は、これが被控訴人個人にむけられた侮辱的表現であるとしても、議論の中で被控訴人の言動をからかう程度の意味合いしか読み取れず、社会通念上許される限度内にとどまる

・そのほかの表現(カス・本当にくるってるなこのクソアマ・精神病・頭くるくるぱー・キチガイ・もはや狂ってます・頭おかしい・気違い女・馬鹿丸出し・バカ左翼鮮人・バカだろリンダ・アホウ・ボケ・バカ・どこまでアホなんだ、この婆は・寄生虫ばばあ・寄生虫・日本に寄生・日本にしがみついてタカって自分の存在を確認している・害毒・ゴキブリ・馬鹿なゴキブリ・ヒトモドキ・人外・朝鮮の工作員・このガラの悪さ、品のなさ、顔の不器用さが在日朝鮮人のリンダちゃんの特徴・外面も内面もブサイクな輩・ヘイトスピーチ増幅器)も、社会通念上許される限度を超えた侮辱に当たらない


【高裁判断】

・「マジこいつゴミ」等の4つの表現は、被控訴人の人格を貶める攻撃的表現又は被控訴人の精神状態や知性を揶揄する侮辱的表現とみるほかない

・その他の表現(頭くるくるパーや寄生虫、ゴキブリ、人外など)が、社会通念上許される範囲内の表現、このような言葉を相手方にいうことが本邦における常識である、言い換えれば、このような言葉を言われても大部分の者は名誉感情を害されないとは、認めることができない

・上記表現は、社会通念上許されう限度を超え、相手に言うことは常識に反し、このような言葉を言われれば名誉感情を害されるというべきである


【控訴人】

・外国人制度等に関する議論又は一定の者に日本を出ていくことを提案するにとどまる

・攻撃的な表現を用いたモノでも、「在日朝鮮人であることを理由に」被控訴人を排除することを扇動するものではない


【高裁判断】

・これらが何らかの議論であるなどとはいえず、単に日本からの出国を提案する内容でもない

・これらは、在日朝鮮人であることを理由に被控訴人に日本から出ていくよう求めているものというべきである

・ブログ記事は、被控訴人に対する人種差別にあたる

・これを閲覧した一般読者がおよそ具体的行為を扇動されたりすることもあり得ないとは言えない


【控訴人】

・「雌チョン」(※ほか、クソアマ、ババア、年中更年期障害みたいなもんだろ、BBA、ブス・ブサイク・鏡見ろ・醜いなど)などの表現及び本件似顔絵は女性であることを理由に差別することには当たらない

・侮辱的表現としては、社会通念上される限度に留まる


【高裁判断】

・女性又は高齢の女性に対する侮蔑的表現、被控訴人が中年以降の年代の女性であることに対する揶揄的表現、被控訴人が女性であることに着目してその容姿を貶める表現である

・このような用語を使用されて、自己に対する客観的、中立的な表現であると受け止める女性がいるとはおよそ考えられない


(3)違法性阻却事由の存在について

【控訴人】

・対立思想支持者全体に対する過激な批判的言動に対抗するための対抗言論として適当と認められる限度を超えていない


【高裁判断】

・言論の応酬の定理は適用されない

・その内容において適当と認められる限度を超えている


【控訴人】

・インターネット上、ことに2ちゃんねる上の表現については、その信頼度は低く、名誉が毀損されてもインターネット上で回復が可能である


【高裁判断】

・インターネット上の表現であるからとの理由で、一般の読者が信頼性の低い情報として受け取るとは限らない

・インターネット上に掲載された情報による名誉棄損の被害の回復がむしろ容易ではない


【控訴人】

・精神的苦痛を被ったとすれば、まずは削除依頼なり警告文なりで当該行為をやめさせるのが通常

・被控訴人が本件各ブログ記事の掲載をやめさせるための行為等(削除依頼等)をしなかったこと及びツイッターでの発言内容から、被控訴人は精神的被害を被っていない


【高裁判断】

・(※別件で要望された)保守速報で掲載された記事の削除依頼を拒否してさらに批判した上、その記事を固定記事にしている

・被控訴人が控訴人に対して削除依頼や講義等を行うのを躊躇するのは自然な事であり、削除依頼や抗議をしなかったことが、被控訴人が精神的苦痛を被っていないことにつながるものではない


【控訴人】

・被控訴人が保守速報に自分に関する記事が掲載されていることを知ってから本件訴訟までに約1年を要したことから、被控訴人が損害の拡大に寄与した


【高裁判断】

・1年という期間は、訴訟を提起するのを不当に遅らせたと評価されるような期間ではない

・控訴人は、保守速報で本名を明らかにしておらず、被控訴人は、控訴人のIPアドレスや住所の特定など訴訟を提起するのに必要な情報を得るのに時間を要したことも認められる

・2ちゃんねるに対して削除依頼をしなかったからといって、損害の拡大に寄与したことにならない


*****


この判決は、「保守速報」が複合差別を行っていると明確に認めたものになっている。また、2ちゃんなどの匿名掲示板からのまとめのみならず、Twitterなどからのまとめであっても応用可能なものになっている。ウェブ上のヘイトスピーチ対応をめぐる議論において、重要な役割を果たす判例になると思われる。今回の判決に励まされて、新たな訴訟が行われるかもしれない。


現在、<ネトウヨ春のBAN祭り><広告剥がし>などの流れの中で、「保守速報」に対する広告出稿が控えられている。その文脈上でも、SNS運営元や広告出稿者が、この判決を議論の具体的材料にする可能性もある。いずれにせよ、インターネット史に残る裁判であることは間違いない。


なお、判決文で紹介されている文言を読むだけで、その言葉が向けられているわけではない僕でさえ、メンタルが削られ気分が悪くなった。こうした言葉を向けられた当事者にとって、その精神的苦痛は大変なものであったろう。


「まとめ」や記事作成、あるいはSNSや掲示板への投稿は短時間で可能だが、その書き込みによる攻撃は長期間にわたって被害者を苦しめ、読者を扇動し、誤った学習を促し、新たな差別を助長する。僕はヘイトスピーチなどは、「言葉の暴力」すなわち、心と脳味噌へのグーパン、人権や尊厳へのストンピングであると考える。ウェブ企業の中には、ヘイトスピーチに対する対応が消極的にみられるところも多々見られるが、実態に即した責任ある対応が求められる。

2017-11-18

「保守速報」裁判の地裁判決と、「まとめサイト」の今後

2017年11月16日。京都地裁で、ライターの李信恵氏が、まとめサイト「保守速報」を相手取って訴えた裁判の判決が出た。李信恵氏が原告となり、「保守速報」が被告となったこの裁判では、「保守速報」に対し、200万円の支払いを命じるという判決がひとまずでた。


この判決で確定というわけではないため、今後、高裁などでどういった判断が下されるのかを見守りたい。というのもこの裁判は、今後「まとめサイト」の法的責任をどのように位置づけるかという重要な参考事例となりうるためだ。


以下、判決文から、原告と被告双方の主張と、それに対して地裁がどのような判断を行ったのか、気になった論点を自分なりに要約していきたい。


  • 争点1:原告の権利を侵害しているか

【原告の主張】

「朝鮮の工作員」「キチガイ」「寄生虫」「ゴキブリ」「ヒトモドキ」「クソアマ」「ババア」「ブサイク」「鏡見ろ」「死ね」などの数多くの書き込みが、名誉毀損、侮辱、人種差別、女性差別、いじめ、脅迫、業務妨害にあたる。


【被告の主張】

ブログ記事は、原告個人に対する批判ではなく、対立思想に対する批判又は保守的な政治思想に基づく意見ないし論評にすぎない。名誉感情を害するものや、差別などにはあたらない。


【判決】

本件各ブログ記事には、名誉毀損、社会通念上許される限度を超えた侮辱、人種差別、女性差別にあたる内容が含まれているというべきである。


  • 争点2:新たな権利侵害の有無

【原告の主張】

被告は、表題の作成、抜粋、強調、加工、転載などを行うことで、ブログ記事の内容を、引用元の投稿よりも集約的かつ先鋭的なものに変容させた。その結果、情報の伝播性が高まり、内容が広く知られた。したがって、原告の権利利益が新たに侵害された。


【被告の主張】

表題の作成、抜粋、協調、加工、転載などはまとめ記事を作成する上で当然必要となる行為だった。本件各ブログ記事の内容が2ちゃんねるのスレッド等の読者以外に広く知られたことは、何ら証明されていない。原告の権利利益は引用元の投稿の掲載行為により侵害されたのであって、本件各ブログ記事の掲載行為により新たに侵害されたものではない。


【判決】

本件各ブログ記事は、引用元の投稿を閲覧する場合と比較すると、記載内容を容易に、かつ効果的に把握することができるようになったというべきである。記事の内容は、2ちゃんねるのスレッド又はツイッターの読者以外にも広く知られるものとなったといえる。ブログ記事の掲載行為は、引用元の2ちゃんねるのスレッド等とは異なる、新たな意味合いを有するに至ったというべきである。被告がブログ記事を掲載した行為は、2ちゃんねるのスレッド又はツイッター上の投稿の掲載行為とは独立して、新たに憲法13条に由来する原告の人格権を侵害したものと認められる。


  • 争点3:違法性阻却事由の有無

【被告の主張】

(1)名誉毀損について:ブログ記事を掲載した目的は、原告を誹謗中傷することではなく、2ちゃんねるのスレッドに掲載された情報を集約し、読者に分かりやすく紹介するという、専ら公益を図ることである。原告は知名度のある記者として、記事等において発言したのに対し、レスの投稿者は、無名の私人として、2ちゃんねるのスレッドで原告の主張の過激さと同程度の過激さをもって原告個人ではなく対立思想を批判したに過ぎず、その方法及び内容は相当な限度を超えるものではない。

(2)対抗言論の奏功:原告は知名度のある記者として反論を繰り返しており、その対抗言論が奏功している。したがって、原告の社会的評価の低下が否定される、又はその違法性が阻却されるというべきである。

(3)インターネット上の表現であること:インターネット上の表現は従来型のメディア上の表現と比較し、一般の読者には信頼性の低い情報と受け取られるし、これにより一定程度名誉が毀損されても、被害者はインターネット上の反論によりその回復を図ることが可能である。インターネット上の表現は、より広く保護されるべきであるから、掲載行為による名誉棄損については、違法性が阻却されるというべきである。


【原告の主張】

(1)名誉毀損について:原告は私人に過ぎず、被告が各ブログ記事を掲載した目的は、原告を誹謗中傷することにあって、専ら公益を図ることにないのは明らかである。内容は、原告に対する人身攻撃に及んでおり、意見ないし論評の域を逸脱している。

(2)対抗言論の奏功:保守速報が多数の読者を持つ影響力の大きいブログであることなどからすれば、十分な反論はできず、対抗言論の奏功をいう被告の主張には理由がない。

(3)インターネット上の表現であること:従来型のメディア上の表現とは異なり、誰もが容易に閲覧することができる上、削除されても複製や転載によって永続的に広まっていく性質があり、被害の程度は深刻。違法性が阻却されることはない。


【判決】

(1)名誉毀損について:ブログ記事全体において、侮辱的な表現、あるいは原告が人であることや通常の判断能力を有することを否定するような不穏当な表現を多数用いて、原告の精神状態、知的能力、人種、容姿等を揶揄するものである。これらはいずれも原告の言動を批判するにとどまらず、原告の人格そのものを攻撃するに至っていると認めるのが相当である。違法性が阻却されるという被告の主張は、採用することができない。

(2)言論の応酬の法理について:各ブログの掲載行為による名誉毀損は、原告の発言と対比して、その内容において適当と認められる限度を超えているというべきであるから、いわゆる言論の応酬の法理により違法性が阻却されるという被告の主張は、採用することができない。

(3)その他の違法性阻却事由について:インターネット上の表現であるからといって、一般の読者がおしなべて信頼性の低い情報として受け取るとは限らないこと、インターネットに掲載された情報は、不特定多数の者が瞬時に閲覧可能であり、これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること、一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく、インターネット上での反論によりその回復が十分に図られる保証があるわけではないことなどを考慮すると、違法性が阻却されるとは解し難い。被告の主張は、採用することができない。


  • 争点4:原告が被った被害の額

【原告の主張】

被告の違法行為は人種差別および女性差別の複合差別であり、原告が複合差別により精神的苦痛を被ったことを確かめてそのことを歓迎したり、原告を日本の地域社会から排除しようとしたりするもの。

また、被告は、過激な内容のブログ記事を掲載して多くの広告収入を得るという動機をも有していたこと、実際に約1年間に45本ものブログ記事を継続的に掲載し、その内容がインターネットを通じて広く知られていたことなどからしても、被告の不法行為は極めて悪質である。


【被告の主張】

原告には損害が生じていない。被告は各ブログ記事でバナー広告収入を得ていたが、過激な内容のブログ記事を掲載して多くの広告収入を得るという動機は有していない。このことは、本件各ブログ記事が被告の掲載した全ブログ記事のうち本数にして1%にも満たないことからも明らかである。

原告は、被告が削除要求に応じる旨を表示していたにも関わらず、被告に削除を要求せず、2ちゃんねるの管理者に対しても削除を要求していない。このように削除を要求せず長期間放置したことにより、自ら損害の拡大に寄与したというべきである。


【判決】

当該表現が原告の名誉感情、生活の平穏及び女性としての尊厳を害した程度は甚だしいものと認められる。特に、本件においては、複合差別に根差した表現が繰り返された点も考慮すべきである。

被告は、約1年間にわたって名誉毀損、社会通念上許される限度を超えた侮辱、人種差別又は女性差別に当たるブログ記事を40本以上も掲載したのであり、不法行為の態様は執拗である。情報を紹介する目的で掲載しただけではなく、原告の名誉を棄損し、侮辱し、人種差別及び女性差別を行う目的をも有していたと認めるのが相当である。

他方、被告が各ブログ記事の掲載行為により一定の広告収入を得ていたことに争いがないとはいえ、被告が過激な内容のブログ記事を掲載することにより多額の収入を得るという動機まで有していたことを認めるに足りる証拠はない。

原告が削除の要求をしなかったからといって、損害の拡大に寄与したことにはならない。


  • 争点5:権利濫用及び信義則違反

【被告の主張】

本件各ブログ記事の内容は、政治思想に関わるものであり、憲法21条の保障する表現の自由の中でも特に保護されるべきである。原告が本件訴訟を提起した目的は、被害からの救済ではなく、このような要保護性の高い政治思想に係る表現の自由を抑圧することになる。本件訴訟は、いわゆるSLAPP訴訟にほかならない。


【原告の主張】

原告が本件訴訟を提起した目的は、政治思想を抑圧することにあるのではない。表現の自由は無制限に保障されるものではなく、個人の権利利益を侵害する表現は、一定の要件を満たす場合には規制の対象となる。原告は、各ブログ記事により、憲法13条および14条1項で保護された自己の人格権及び平等権を侵害されたため、その被害からの救済を求める目的で本件訴訟を提起したのである。SLAPP訴訟には当たらない。


【判決】

本件訴訟における請求が権利の濫用に当たり、信義則に反するものとは認められない。


以上、判決文を自分なりに整理した。地裁の判断は、書き込み内容の問題点だけではなく、「まとめただけ」「ネットだから」では済まされないという、ウェブ上の表現形式についても触れるものとなっている。今後の裁判のゆくえ、および類似の係争について、どのような判断が下されていくのか、見ていきたい。


私見では、この判決はいわゆる「まとめブログ」だけでなく、togetterやNAVERまとめなどのサービスにおいても重要な意味を持つと考える。「まとめ」もまた、主体的な表現である以上、様々な責任が問われる行為だ。このことを前提としたコミュニケーションが必要となってくる。

2017-09-11

[]「netgeek」が流した「泉放送制作」デマについて

2017年6月20日の「netgeek」に、「日テレ・フジ・TBS・テレ朝の16番組以上を1つの制作会社が担当して偏向報道やりたい放題。日本は乗っ取られた」いうタイトルの記事が出ていた。内容は、「泉放送制作」という制作会社が各局のニュース番組を作っており、意図的に偏向報道を行っているというもの。

記事内容については、放送業界に関わっている者であれば、<放送現場を知らない人が、ネットで拾った言葉を繋ぎ合わせて作り上げたデタラメ>だと分かるもの。実際、放送業界の人などから、デマであるという旨の指摘も既に行われている。ただ、Twitterなどの反応を見ていると、真に受けている人も少なくなかった。国会議員であるとか評論家であるとか、社会的地位のある人もこのデマの拡散に加担していた。

テレビ局が放送する番組によっては、自社の社員だけでなく、制作会社からディレクター、AD、事務スタッフなどの派遣を受けて制作現場を回している。「泉放送制作」は、ウェブサイトによれば従業員170人。業界でも大きめの制作会社ではあるが、だからといってその制作会社が編集方針などを決めるわけではない。僕も出演したのことのあるいくつかの番組スタッフに確認しても、ある現場ではADさんだけとか、ある現場では事務スタッフだけといった具合で、制作会社のかかわり方も様々だ。まさか、ADがひとり関わっただけで、マスメディアを「乗っ取れる」と言うのだろうか。

制作会社は、各局・各番組の依頼に応じて、制作スタッフを派遣したり番組制作を補助するもの。ある制作会社が、複数の番組の仕事を請け負ったとしても、まるまる番組を作っているというようなものでは必ずしもない。「泉放送制作」のウェブサイトには、様々な局や番組の制作実績が掲載されている。それを見て、制作会社こそが何から何まで番組を作っていると想像を膨らませたのかもしれない。しかし実際には、それぞれの局や番組ごとに、複数の制作会社が関わる事も多く、特定の制作会社が「やりたい放題」というようなことではない。

なにより、特定の制作会社が複数の番組に関わっていることをもって、「日本が乗っ取られる」と表現する意味がよくわからない。複数の番組を作っている制作会社など、「泉」以外にもいくらでもある。「日本が乗っ取られる」とはあまりに妄想が過ぎる。「netgeek」は採用情報をウェブサイトに掲載しており、そこには「記事を書くライターを募集しております。採用対象は新聞レベルの文章が書ける経験者のみ」と書かれている。だが、同サイトの他記事を見ても、「新聞レベルの文章」とはとても思えない。

Twitterなどの反応では、「乗っ取り」「黒幕」といった言葉が並んでいて、ひとつの陰謀論として消費されている。何か気に入らない放送があると、「また泉さんかな?w」といった趣旨の書き込みが行われたりする。特定の記号を見つけるたびに壮大な物語と結び付けるという点で、陰謀論者ととてもよく似ている。というよりも、これ自体ももはや陰謀論の一種だと言っていいだろう。

メディアを正して社会をよくしたいというよりも、「メディアの裏を見抜いている自分たち」という消費が目的なのだろうか。もしそうでないのであれば、間違った知識で何かを叩くという行為は無駄であるため、こうしたデマにこそ厳しく対応したほうがいい。メディアチェックという言葉には、自分の書き込みも含めたネットへの投稿を含める必要がある。

国会議員がこのデマを訂正し、そのことを共同通信などが報じたことによって、いまは拡散がある程度鎮静化している。デマは放置しておくと、質的にも量的にも「育ってしまう」。だからこそ早めに是正されることが望ましい。報道が出たことはその点ではよかったと思う。

ところでこの記事には、冒頭部分にTBS社員である金富隆氏の写真が掲載されていた。使われていた画像は、2016年に放送された「TBSレビュー」からのキャプチャーだ。なぜこの画像が使われているのか。なぜ金富氏なのか。本文では一切触れられていない。

金富隆氏は僕の友人である。彼はTBS社員であり、泉放送制作とは何の関係もない。そして、彼が関わってる番組においてすら、最高責任者というわけでもない。彼は日本人であるが、在日韓国人・在日朝鮮人に対する差別的感情を煽るため、「金・富隆」とわざわざ分け、彼を「在日認定」する書き込みも多く見かけた。

「泉放送制作」や「金富隆」というワードでツイッターなどを検索すると、デマを拡散するだけでなく、メディアについての事情通ぶった書き込みが多く出てくる。「ようやくこの事実が知られるようになったか」といったような趣旨の書き込みをみた時は、痛々しすぎて見ていられなかった。

何かを「叩く」先には、ただの記号が横たわっているわけではない。「叩く」相手は、あなたや、あなたの友人や仲間、家族や親戚と同じ、生身の人間がいる。特にデマの場合、その是正のコストはとても大きく、流された側が多大なリソースを割かなければならなくなる。

共同通信の記事が出てから間もなく、「netgeek」から当該の記事が削除された。だが、このブログ記事を執筆している現在において、相手方への謝罪などは見当たらない。当該サイトがこれからどういう対応をするのかわからない。だが、一般的に、「デマを流し、お金を儲け、問題になったら逃げる」という手法が「得」になるようなウェブ社会のあり方は、改めていかなくてはいけないと思う。