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2017-09-11

[]「netgeek」が流した「泉放送制作」デマについて

2017年6月20日の「netgeek」に、「日テレ・フジ・TBS・テレ朝の16番組以上を1つの制作会社が担当して偏向報道やりたい放題。日本は乗っ取られた」いうタイトルの記事が出ていた。内容は、「泉放送制作」という制作会社が各局のニュース番組を作っており、意図的に偏向報道を行っているというもの。

記事内容については、放送業界に関わっている者であれば、<放送現場を知らない人が、ネットで拾った言葉を繋ぎ合わせて作り上げたデタラメ>だと分かるもの。実際、放送業界の人などから、デマであるという旨の指摘も既に行われている。ただ、Twitterなどの反応を見ていると、真に受けている人も少なくなかった。国会議員であるとか評論家であるとか、社会的地位のある人もこのデマの拡散に加担していた。

テレビ局が放送する番組によっては、自社の社員だけでなく、制作会社からディレクター、AD、事務スタッフなどの派遣を受けて制作現場を回している。「泉放送制作」は、ウェブサイトによれば従業員170人。業界でも大きめの制作会社ではあるが、だからといってその制作会社が編集方針などを決めるわけではない。僕も出演したのことのあるいくつかの番組スタッフに確認しても、ある現場ではADさんだけとか、ある現場では事務スタッフだけといった具合で、制作会社のかかわり方も様々だ。まさか、ADがひとり関わっただけで、マスメディアを「乗っ取れる」と言うのだろうか。

制作会社は、各局・各番組の依頼に応じて、制作スタッフを派遣したり番組制作を補助するもの。ある制作会社が、複数の番組の仕事を請け負ったとしても、まるまる番組を作っているというようなものでは必ずしもない。「泉放送制作」のウェブサイトには、様々な局や番組の制作実績が掲載されている。それを見て、制作会社こそが何から何まで番組を作っていると想像を膨らませたのかもしれない。しかし実際には、それぞれの局や番組ごとに、複数の制作会社が関わる事も多く、特定の制作会社が「やりたい放題」というようなことではない。

なにより、特定の制作会社が複数の番組に関わっていることをもって、「日本が乗っ取られる」と表現する意味がよくわからない。複数の番組を作っている制作会社など、「泉」以外にもいくらでもある。「日本が乗っ取られる」とはあまりに妄想が過ぎる。「netgeek」は採用情報をウェブサイトに掲載しており、そこには「記事を書くライターを募集しております。採用対象は新聞レベルの文章が書ける経験者のみ」と書かれている。だが、同サイトの他記事を見ても、「新聞レベルの文章」とはとても思えない。

Twitterなどの反応では、「乗っ取り」「黒幕」といった言葉が並んでいて、ひとつの陰謀論として消費されている。何か気に入らない放送があると、「また泉さんかな?w」といった趣旨の書き込みが行われたりする。特定の記号を見つけるたびに壮大な物語と結び付けるという点で、陰謀論者ととてもよく似ている。というよりも、これ自体ももはや陰謀論の一種だと言っていいだろう。

メディアを正して社会をよくしたいというよりも、「メディアの裏を見抜いている自分たち」という消費が目的なのだろうか。もしそうでないのであれば、間違った知識で何かを叩くという行為は無駄であるため、こうしたデマにこそ厳しく対応したほうがいい。メディアチェックという言葉には、自分の書き込みも含めたネットへの投稿を含める必要がある。

国会議員がこのデマを訂正し、そのことを共同通信などが報じたことによって、いまは拡散がある程度鎮静化している。デマは放置しておくと、質的にも量的にも「育ってしまう」。だからこそ早めに是正されることが望ましい。報道が出たことはその点ではよかったと思う。

ところでこの記事には、冒頭部分にTBS社員である金富隆氏の写真が掲載されていた。使われていた画像は、2016年に放送された「TBSレビュー」からのキャプチャーだ。なぜこの画像が使われているのか。なぜ金富氏なのか。本文では一切触れられていない。

金富隆氏は僕の友人である。彼はTBS社員であり、泉放送制作とは何の関係もない。そして、彼が関わってる番組においてすら、最高責任者というわけでもない。彼は日本人であるが、在日韓国人・在日朝鮮人に対する差別的感情を煽るため、「金・富隆」とわざわざ分け、彼を「在日認定」する書き込みも多く見かけた。

「泉放送制作」や「金富隆」というワードでツイッターなどを検索すると、デマを拡散するだけでなく、メディアについての事情通ぶった書き込みが多く出てくる。「ようやくこの事実が知られるようになったか」といったような趣旨の書き込みをみた時は、痛々しすぎて見ていられなかった。

何かを「叩く」先には、ただの記号が横たわっているわけではない。「叩く」相手は、あなたや、あなたの友人や仲間、家族や親戚と同じ、生身の人間がいる。特にデマの場合、その是正のコストはとても大きく、流された側が多大なリソースを割かなければならなくなる。

共同通信の記事が出てから間もなく、「netgeek」から当該の記事が削除された。だが、このブログ記事を執筆している現在において、相手方への謝罪などは見当たらない。当該サイトがこれからどういう対応をするのかわからない。だが、一般的に、「デマを流し、お金を儲け、問題になったら逃げる」という手法が「得」になるようなウェブ社会のあり方は、改めていかなくてはいけないと思う。

2016-11-22

[]福島県沖地震に関する流言まとめ

本日11月22日の5時59分、福島県沖を震源とする震度5弱の地震があり、各地で津波も発生しました。地震・津波・原発に関する情報に多くの人が関心を寄せる中、いくつかの流言などがtwitter上に流れました。


  • 虚偽の被害報告

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あたかも今回発生した津波の写真をアップしているかのように書かれていますが、これは東日本大震災の際の写真です。そのことを把握した多くのユーザーが、不適切な投稿であると指摘・通報していました。熊本地震の際には、「動物園からライオンが逃げた」という趣旨の流言を流した男性が、偽計業務妨害の疑いで逮捕されています。


ニセの被害状況を煽り、周囲を不安にさせる。こうした行為は周囲にとって悪影響にしかなりませんし、いまや本人にとってもリスキーな行動であると言えます。(※多くの批判などが集まったためか、14時現在で当該の投稿は削除されています)


  • 外国人犯罪流言

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残念なことに今回も、「外国人犯罪流言」やヘイトスピーチが見受けられました。twitterでは15日から、新機能として「人種、宗教、性別、考え方などを誹謗中傷または差別している」投稿を、問題あるツイートとして報告できるようになりました。そのため、上の流言に対しても、ただ投稿を批判するだけでなく、多くのユーザーが通報を行っていました。


「ヘイトをたしなめる」「淡々と通報する」動きは、以前と比べてもスピーディになっていると感じられます。(※多くの批判などが集まったためか、14時現在で当該の両アカウントは鍵垢になっています)


  • 政治家の情報発信

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今回の地震の際には、福島第二原発3号機の使用済み核燃料プール冷却装置が停止しました(その後再開)。これについて、衆議院議員のあべともこ氏が、「使用済み燃料プールの冷却ポンプがつまり」と事実と異なる投稿をしました。この件について、多くの指摘が集まり、あべ氏は数時間後に訂正をしました(但し、その訂正の仕方も批判されています)。


災害時には、政治家のガバナンス能力や情報発信がより問われてきます。「確かな情報提供のための投稿」ではなく、「政権批判のための投稿」と捉えられれば、信頼を損なってしまいます。


  • 災害再来流言

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大きな災害発生時には、「災害再来流言」がしばしば発生します。おりしも数日前から、「11月23日に南海トラフ地震が起きる」といった流言がネット上に広まっていました。そのため、より不安を感じてる方も多く見受けられます。


但し、現在の地震研究では、「○月○日に地震が起きる」といった、事前の正確な予測はできません。皆さんも報道などで見聞きしたことがあると思いますが、「○年以内に発生する確率が○%」といった大まかな予測を元に、「いつ来てもおかしくない」と考えたうえで、日々備え続けるしかありません。予言して注目を集めようとする人の投稿に左右されたり、不確かな情報を拡散するよりも、しっかりと対応できるよう備えておくことのほうが重要です。


(適宜更新するかもしれません)

2016-11-17

毎日新聞の「ダム底セシウム」記事について、いち委員としての意見

9月25日の毎日新聞朝刊にて、「ダム底 高濃度セシウム 福島第1周辺 10カ所8000ベクレル超」と題された記事が掲載されました。この記事の中に、多くの誤りが含まれていると、ウェブ上で複数の方々が指摘していました。

http://togetter.com/li/1029155


毎日新聞は何度か小さな訂正記事を掲載しましたが、対応が不十分だったことから、「開かれた新聞委員会」で紙面審査を行うことになりました。「開かれた新聞委員会」は、紙面上に何かしらの問題があると議題化された際、それに対して「意見」を述べる組織です。


開かれた新聞委員会とは

http://www.mainichi.co.jp/corporate/hirakareta.html


「開かれた新聞委員会」で審査の対象になるということは、毎日新聞がこれまでの訂正では不十分であり、再発防止に努めるべき案件と認めていることが前提です。こうした対応をとるに至ったということは、読者の方からの「外からの指摘」も、記事を問題視した記者ら「内からの指摘」も、相応の機能を持ったということです。審査の結果、改めての訂正趣旨説明と、各委員のコメントが、本日・11月17日の紙面上に掲載されました。以下がそのURLです。


委員会から 「ダム底にセシウム」の訂正 専門記事、チェック徹底を

http://mainichi.jp/articles/20161117/ddm/012/070/134000c


記事上には、各委員のコメントが一部だけ紹介されていますが、具体的にどのようなコメントだったのかの全文は紹介されていません(編集権は毎日新聞にあるので、それは構いません)。そこで、私個人が毎日新聞社に寄せたコメントの全体を以下に掲載します。

***

原発事故以降、多くの人が、放射性物質や被曝を巡る議論に大きな関心を寄せています。そして多くの市民が、被曝をめぐるに状況認識をめぐって、大きく分断されるという状況が生まれています。そうした中、メディアに期待されているのは、確かな根拠に基づく記事を配信することです。

今回、毎日新聞は、一面トップおよび解説コーナー等において、複数の誤報を行いました。ウェブ上では、記事についてすぐさま多くの反応がありました。専門家を含む多くの読者が、記事の問題点を指摘していたのです。それらの指摘は、Twitterアカウントを持つ毎日新聞記者の元にも届いており、専門知を持つ記者個人がそれに対して説明する場面もありました。

そうした中、訂正コメントが複数回にわたって出されました。しかしそれらは、ウェブ上のタイムリーさに反し、とても遅い対応でした。また、いずれのコメントも、その訂正によって記事の趣旨がどう変わるのかという説明がなされておらず、わかりづらいものとなっていました。数字を誤って伝えた結果、実際以上に不安を煽る内容(センセーショナリズム)になっていたにも関わらず、訂正によって文脈や趣旨がどう変わるのかという説明がなされていないためです。さらに、一面トップなどででかでかと紹介された記事のインパクトに比して、訂正コメントそのものが目立たず届きにくいという問題点もありました。加えて、外部から指摘された疑問に対して、応えきれていないという問題も残ります。

今回、開かれた新聞委員会あてに、毎日新聞より、この問題を社内検証した報告書が提示されました。私からは、まずはこの報告書を元に、読者に経緯の説明をしっかり提示すること、特にウェブメディアを通じて丹念な報告を行うことを求めます。その際には、さらなる疑問点が読者から寄せられることを想定されますので、それにも応答することを求めます。

但しこの報告書では、再発防止については書かれているものの、本件に関する信頼回復について触れられていません。今回の検証、および開かれた新聞委員会からの応答がその一環として期待されているのは承知していますが、例えば「毎日メディアカフェ」のような場所で、記者と専門家・読者とがオープンな議論を行い、その模様を中継・レポートするといった、より開かれた試みも模索してほしいと思います。

今回は、SNSなど、開かれたメディアからの指摘によって、不十分ながらも訂正が行われるという経緯がありました。そうした集合知の役割は重要ですが、さらに自主努力により開かれた場所を設けていくことで、本件に関心を寄せ、意見をくれた読者の方々の信頼を得る試みが重要であると思います。今回の「誤報」をたたき台として、記者と読者が放射性物質や被曝に関する基礎知識・現状を改めて学び直す機会を設けたり、それを記事化するなども重要でしょう。

もうひとつ、報告書で触れられていない論点について指摘しておきます。記事中に「専門家」のコメントもありました。いかなる「専門家」を選ぶのかという段階からして、そのメディアの特色が出ますし、記事の方向性にも大きな影響が出ます。また、コメントをとる際、「専門家」に、記者がいかなる情報を与えるのかによっても、コメントの質が変化します。さらには「専門家」が一時間レクチャーしても、記事になるのは数行であり、内容の事前確認がされないというケースもあるため、専門家の意図、専門知に基づくポイントが適切に反映されないこともしばしばありえます。日々の紙面づくりの中で、記者たちが時間に追われるあまり、「本人に原稿チェックをしてもらう」という文化が、新聞ではおろそかにされがちです。私自身、しばしば取材を受ける立場ということもあって、その点も、今後の課題としてもらいたいと思います。

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記事上では私の「意見」が引用・紹介されていはいますが、いくつかの具体的提案に対しては応えられてはいません。委員には、これらの提案を強制する権限は与えられていませんが、今後も議論を通じて、より「開かれた」対応を行うよう求めていきたいと思います。