2012-02-09
■[英文翻訳][BOOK]専門書翻訳をする前に読むべき本
英語がどれだけうまくても翻訳ができるわけではない。日本語の表現にすぐれていても,それだけではすばらしい翻訳はできない。心理学のどんなにすごい先生でも,専門書の翻訳はできない。
翻訳に必要なのは翻訳のための脳の使い方である。「翻訳筋」とでもいうべき筋肉を鍛えなくてはならない。
学校で習った「英文和訳」は翻訳ではない。英単語をそれに匹敵する日本語に移し変え(辞書にのっている言葉で),文法にあわせて正しく並べたものは翻訳ではない。別宮貞徳先生のことばを借りれば,「原文がその読者に与えたのと同等の効果を,訳文もその読者に与えなければいけない」のである(『裏返し文章講座―翻訳から考える日本語の品格 (ちくま学芸文庫)』)。
専門書を読んでいて腹ただしく,また残念にも思うのは,「悪訳」がそれらしい通常の訳としてまかりとおっているところである。わたし自身もそれをなんとかしたいと思い,すこしでも読みやすい訳をつくりたいとがんばっていたけれど,別宮先生の本を読んで初めて,自分自身もまだまだ「悪訳」をただしい訳だと思い込んでいたことに気づいた。あまりにも悪訳で書かれた専門書が多すぎるがために,「専門書はこのように訳さなくてはいけないのかな……」とすりこまれていたのだ。おそろしいことである。
たとえば,好きな日本の作家の本を読むように,翻訳ものの専門書を楽しむこともできるはず。翻訳さえよければ。もちろん原著がかたくるしいものであれば,当然かたくるしさは残るけれど,それでもやはり読みやすく,読んでいて心地よい,日本語として違和感のまったくないストレスフリーの翻訳ものの専門書は存在しうるはずである。
そのために,翻訳の指南書を探しては読んでいるが,気づくとこんなにたまってしまった。ちょっとまとめておきたい。やっぱりいちばんいいのは別宮先生の本! 直訳という悪訳からぬけだすときの「だめなんじゃないかな……」という罪悪感をみごとにけちらしてくれる。また,やっぱり越前敏弥先生の本も大切。わたしは翻訳をはじめて最初にこの本に出会って,「ああ,わたしの直訳は誤訳であり,悪訳なんだ!」と学ぶことができた。この本をきっかけに翻訳の専門的な指導を受けようと決意することができた。感謝でいっぱい。
裏返し文章講座―翻訳から考える日本語の品格 (ちくま学芸文庫)
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越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文 (ディスカヴァー携書)
- 作者: 越前敏弥
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越前敏弥の日本人なら必ず悪訳する英文 (ディスカヴァー携書)
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ほかにもまだあるだろうし,この中にももしかしたら翻訳の専門家からしたら意見の異なるものもあるのかもしれないけど,まだまだその域には達していない。翻訳道はたしかにあって,しっかり学ばなくては,「翻訳をした」と胸を張っていえない。でも,翻訳道は楽しくて,まさに「知的なパズル」(by 別宮先生)だなあと思う。
専門書翻訳は,いまのところそれだけで食べていけるものではないけれど(そうなったらうれしいけれど),趣味としても楽しく,同時に社会貢献もできるよい仕事だ。心理学の後輩たちが「翻訳ものの専門書ってなにかいてあるかわからん〜,読んでて眠くなる〜」という悲鳴をあげずに,楽しく熱中して読むことができるようにがんばりたい。そしてたくさんのセラピストたち,クライエントたちのよりより明日のヒントになる本を提供できたら,これ以上うれしいことはない。
2012-01-11
■[理系草食男子の夫 観察記録]フットワークが軽いのは……
夫は理系草食男子である。趣味はいろいろある。車をいじること,ケーキづくり(ふくらむ過程に興味を示す),写真,i-phone,そしてアクアリウムである。特技は家電の修理である。先日はカプチーノメーカーと灯油ストーブを直してくれた。なかなか便利である。工学部院卒の学歴はこのようなところに生かされている。
ところで,アクアリウムとはなにか。それは熱帯魚よりも水生植物に重きを置いた水中箱庭のようなものである。美しい透き通った水のなかにゆらゆらと水草がゆれうごくさまは,見ていて心が癒される。(ADA - アクアデザインアマノ 水槽や水草などのアクアリウム製品参照) わたし自身もいつかカウンセリングルームをオープンするとしたら,大きな水槽を置いて,待合室に水中箱庭を提供したいという思いはある。
しかし,しかし,しかし,
妻の妊娠が発覚したとき,彼はそれなりによろこびはしたものの,その日のうちに妊婦のためのプレゼントを買ってくることはなかった。
なのに,アクアリウムのめだかの妊娠がわかったとたん,その日のうちにフットワーク軽く車を30分以上かかるお店まで走らせ,産卵に適した水草やらエサやらをあっというまに買ってきた。
おいおい,妻よりめだかのケアのほうがフットワークが軽いとは,どういうことだ?
2012-01-05 感情増幅期
■[臨床心理士の妊婦日記]
大暴れをする夢を見た。車のリアシートをぶちっとちぎりとってうおーっとブン投げて怒っていた。そのくらい妊婦の怒りは激しい。いつも怒っているわけではない。怒るべきできごとがあったとき,それがほんとうにささいなできごとで,妊婦ではないときの自分ならちょっとムッとする程度のものであったとしても,妊婦のわたしは怒り狂ってしまうのである。大暴れをして泣き喚いてこんにゃろ〜と叫ぶのである。
妊婦の感情は通常の10倍程度に増幅されている。ゆれ幅がぐぐーんと広くなる。ストレスを検出しやすくするためなのかもしれない。これまでは見過ごされてきたようなレベルの些細なストレスであっても,妊婦は許さない。赤ちゃんのためにささっと検知し,ストレス源を排除しなくてはならない。
夫そのたの家族は,ちょっとした言葉づかいであっても,それについて泣きながら抗議されたら,そしてそこに恐るべき妊婦の権力と破壊力がそなわっているとしたら,言うことを聞かざるを得ないだろう。触らぬ神にたたりなしとばかりに,その地雷ゾーンを慎重に避けるようになるだろう。家庭内の平和のためにも,妊婦の感情は日々増幅されている。きたるべき赤子の日々のためにも妊婦の感情は増幅されている。妊婦が涙と怒りによって掃き清めた安全な空間で赤ちゃんは育つ。そう,妊婦の感情はあくまでも自分と子どもを守るという自己中心的な防衛本能によって増幅されているのだ。……たぶん。
2012-01-04 妊娠3ヶ月目の考察
■[臨床心理士の妊婦日記]
臨床心理士が妊娠すると,どうなるのか?
まったく普通の妊婦である。
ただし,自己を客観的にみつめるもうひとつの目がある。
その目にうつったものを書いていこうと思う。
妊婦は自己中心的である。
妊娠したとたん,自分のこと,自分の体調のこと,自分の赤ちゃんのことしか考えられなくなった。
仕事をしようとするとイライラし,いやなことをしようとすると涙が出て,外出しようとすると気持ちが悪くなる。
そう,クライエントのために,カウンセリングのために自己管理をすることはもはやできない。感情も,体調も管理できない。
どんなに寝ても眠く,どんなに食べてもお腹がすく。
ストレスをためないように努めてもイライラする。
はやく寝たところで,トイレが近いので何回も目が覚める。
便秘と吐き気を抑える食べ物のことばかり考える。
妊婦というのはもっともカウンセリングに不向きな状態なのではないだろうか。
自分と赤ちゃんのことが優先されてしまい,クライエントを中心にものごとを考えることができなくなるのだ。
こうなってしまうと仕事は休むしかない。もちろん,つわりも体調不良もなく元気いっぱい仕事ができる妊婦もいるし,体調不良をおしてがんばらざるを得ない妊婦もいる。けれど,妊娠というのは,一生のうちでもっとも自己中心的になることが許される(あるいは遺伝的にそうなることがプログラミングされている)リフレッシュ休暇なのかもしれないとも思う。
このところ自分がずいぶんと本能に支配されているのを感じる。
妊娠という原始的な営みによって,脳と身体は本能に刻まれた自己防衛手段を実行している。
安全なところから出たがらず,自分を守ってくれる存在のみを許し,それ以外を完全に排除しようとする。
1日中食べ物と自分の体調のことばかり考える。なにを食べようか,なにが食べたいか。
自分の心が研ぎ澄まされ,自分の身体がなにを食べたいのかすぐにぴんとわかる。
「自分の身体の状態がわかること,内臓感覚がわかること,自分の心の声が聞こえることが,共感性につながり,情緒的知性につながる」と,いま訳しているすばらしい本に書かれている。
妊婦になると,自分の脳は自分の子宮を中心として身体のすみずみと直結する。
いや,もともと直結するラインはあったのだと思うが,理性や思考を優先して弱まっていたはずのラインが,いまやなによりも太くなっている。
自分のつらさ,お腹の痛み,空腹の具合,便秘の具合,疲労の度合い,お昼寝のタイミング・・・・・・
きっとこうして9ヶ月間,妊婦は母体をなによりも優先するようにできているのだろう。
自分の身体をほかのなによりもいたわるという,ふだんは忘れられている課題が最重要のものとなってあらわれる。自分と大切にすること以外なにもできなくなる。それが妊娠という身体と脳のシステムなのかもしれない。
2010-11-26 今日の専門書
■[BOOK][カウンセラーが読むべき小説]
成人の高機能広汎性発達障害とアスペルガー症候群―社会に生きる彼らの精神行動特性
- 作者: 広沢正孝
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今日うっかりぽちっとやっちゃった本。医学書院の新刊。大人の発達障害について専門的に扱った書。買うしかないですな…。仕方がありません。次の翻訳の資料にもなるし。専門書の翻訳って収入はわずか,支出はけっこう大きい。ついつい資料を購入してしまう。でもいちばん勉強をさせてもらえるのでそこはありがたい。勉強にもなって,お金もちょっと入る。うむ。いい趣味だ。
- 作者: 湊かなえ
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図書館にリクエストしてさくっとゲット。田舎はいいわぁ〜。
これはぜひ心理職に読んでもらいたい。高校のスクールカウンセリングのお昼休みに読んでいたら,午後からの男子高校生のケースに深く感じ入るものがありました…。この小説の題材は「エリート医師が息子に勉強を強要,見かねた妻が夫を殺害」なのですが,その見かけ上の事件の背景に潜む家族の闇とあたたかさ…,紙一重のお隣の家族…。ページをめくる手が止まらず,一気に読んでしまう小説です。『告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)』の作者だけに,ラストは「もうちょっと…!」と期待してしまうのですが,そこはしょうがないよね。
- 作者: 七河迦南
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本屋で見かけて気になって,図書館でリクエスト。児童養護施設での出来事を児童相談所の児童福祉司さんが謎解きをするというミステリー。連作のようになっていて,最初の短編では,母親が息子を崖から突き落としたという出来事の裏に潜む母親の愛を探偵ならぬ児童福祉司さんが見つけ出す。なかなか新しいミステリーだ。ぜひ臨床心理士もミステリーの主役になりたいものだ。
睡眠をとるふっくらネコてとさん
いつものことながら,やはり目つきが悪い。


