[覚え書]覚え書:「特集ワイド:組閣のウラを読む 「踊り場」「コスプレ」「応急処置」」、『毎日新聞』2014年09月04日(水)付、夕刊。

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特集ワイド:組閣のウラを読む 「踊り場」「コスプレ」「応急処置」
毎日新聞 2014年09月04日 東京夕刊

(写真キャプション)改造内閣の初閣議を終え、記念撮影に臨む安倍晋三首相と閣僚ら。女性が増え華やかな印象だが……=首相官邸で3日午後7時51分、藤井太郎撮影

 第2次安倍改造内閣が発足した。18の閣僚枠のうち12ポストが交代する大幅改造。女性閣僚は歴代最多タイの5人だ。長期安定政権を目指して閣僚待機組の「不満解消」を図っただけなのか。それとも深謀遠慮が隠されているのか。識者たちに聞いた。

 ◇石破騒動で党の安定優先に−−政治ジャーナリスト・後藤謙次さん

 安倍晋三首相は、攻めの人事を狙っていたが、「石破騒動」を受けてそれができなかった。新内閣はホップ・ステップのステップを欠いた「踊り場内閣」と言える。

 2日夜、首相に話を聞いたが「石破(茂)さんの問題から党内がガタガタして人事が別の性格を帯びた」と言っていた。騒動は政権中枢に動揺と混乱をもたらし、党の安定を優先せざるを得なくなった。「守りの人事」の象徴が谷垣禎一氏の幹事長就任だ。首相は「野に下った自民党をまとめきった谷垣さんしかいない」と、谷垣氏をかき口説いたという。総務会長に二階俊博氏を据えたのも、必ず結果を出すプロ中のプロだからだ。

 その分、「安倍カラー」が犠牲になるリスクも抱えた。谷垣、二階の両氏はいわゆる近隣外交重視派。首相は2人を利用して中韓外交を転換する腹づもりかもしれないが、意見の対立が生じるかもしれない。谷垣氏は「税と社会保障の一体改革」の3党合意の当事者でもある。消費増税が先送りされれば、外交、財政という主要テーマで首相と幹事長が真っ向からぶつかる事態になりかねない。

 一つ言えるのは、小泉純一郎政権時代の人事を踏襲していることだ。女性閣僚5人もそうだし、将来のリーダーとして小渕優子氏を経済産業相に起用したのも小泉氏が安倍氏を幹事長に抜てきしたのと似ている。一方、石破氏は入閣したことで、総裁候補として担がれた「みこし」から自ら降りた格好だ。しばらくは党内の「対安倍」の結集軸になるのは難しいだろう。

 今回の人事は全体に地味で、次期衆院選を意識して野党にやいばを向けたものとは言えない。来年、再び改造があるのではないか。【聞き手・樋口淳也】

 ◇表向きは女性重用、本質は保守−−和光大教授・竹信三恵子さん

 女性重視やハト派の扮装(ふんそう)で保守的な政策への女性の不安をまぎらす「コスプレ人事」ではないか。

 女性閣僚は歴代内閣最多と並ぶ5人。党三役を含め女性は6人になった。でも、顔ぶれを見ると、有村治子女性活躍担当相、高市早苗総務相山谷えり子国家公安委員長稲田朋美政調会長の4人は保守派と呼ばれる人たちだ。

 例えば、稲田氏らは女性の自己決定権を広げる選択的夫婦別姓に反対の立場だ。山谷氏や有村氏は学校などでの性教育を「過激」として批判してきた。NHKなど放送局を所管する総務相高市氏が据えられたことも、歴史認識報道での現場の萎縮を招く恐れがある。

 これでは「女性が輝く社会」というより、女性に性別役割分担を強いたまま仕事も目いっぱい頑張らせる「女性“で”輝く社会」になってしまう。少子化という「国難」に対応するための女性の動員という点で、戦時下、軍部の支援で各地に生まれた奉仕団体「国防婦人会」と構図が似てきた。

 リベラルな印象のある小渕優子経済産業相も、原発再稼働問題の深刻さをソフトイメージでカバーする役割を担わされかねない。改造前の安倍内閣森雅子特定秘密保護法担当相と似た役回りだ。

 ハト派と目される谷垣禎一幹事長や中国通の二階俊博総務会長の起用で、近隣諸国と対決するタカ派内閣との女性有権者の不安を拭おうとしている。だが、谷垣氏は消費増税推進論者、二階氏は国土強靱(きょうじん)化法の推進者。国民の実質賃金が目減りする中で、低所得層の負担が重い消費増税で歳入を増やし、公共工事で企業にばらまくアベノミクス路線は変わらず、生活重視へのシフトと言えるかは疑問だ。【聞き手・浦松丈二】

 ◇「矛盾」が多く方向性見えず−−北海道大准教授・中島岳志さん

 安倍政権はこの2年間、国土強靱化を掲げて公共事業を増やす一方、構造改革路線も強化するなど矛盾する政策をバラバラに打ち出し、何を目指しているのか全く分からなかった。今回の改造内閣にもその無定見ぶりが表れている。

 特徴的なのは地方創生だ。これからの地方は特長を伸ばし、持続可能な新産業を生み出すことが大切だ。競争をあおる新自由主義的な振興策はなじまない。ところが自民党が掲げる「地方創生」は、国家戦略特区という新自由主義的な政策とセットになっている。

 地方創生担当相に石破茂氏が就任したが、その一方で地方政策とかかわりの深い総務相には高市早苗氏が就いた。高市氏の方向性は新自由主義に近い。石破氏は農相を経験しているが、農業分野以外の地域政策での目立った発言は記憶にない。自民党の支持基盤である農協や青年会議所などにはアベノミクスへの不満が高まっており、石破氏が新自由主義的な政策に引っ張られれば、批判の矢面に立たされるだろう。

 同じ「矛盾」は党人事にも見て取れる。総務会長の二階俊博氏は公共事業を重視する再配分型、政調会長稲田朋美氏は新自由主義型。次の選挙を意識して財界には稲田氏的な政策、地方には二階氏的な政策を示し、両方にいい顔をしたいのかもしれない。

 しかし、我々国民にとっては何なんだという話だ。さまざまな制度疲労を抱え、国の体質をどう変えるべきかという時に「頭痛に効くのはこの薬、腰痛に効くのはこの薬」と対症療法を続けているようなものだ。「応急処置内閣」と言っていい。この内閣に「日本病」の治療を任せても症状は悪化するだけだ。【聞き手・小林祥晃

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 ■人物略歴

 ◇ごとう・けんじ

 1949年東京都生まれ。共同通信社政治部長、編集局長などを歴任。近著に「ドキュメント 平成政治史」。

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 ■人物略歴

 ◇たけのぶ・みえこ

 1953年東京都生まれ。朝日新聞労働担当編集委員を経て2011年から現職。著書に「家事労働ハラスメント」など。

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 ■人物略歴

 ◇なかじま・たけし

 1975年大阪府生まれ。「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞、アジア・太平洋賞大賞。著書に「『リベラル保守』宣言」。
    −−「特集ワイド:組閣のウラを読む 「踊り場」「コスプレ」「応急処置」」、『毎日新聞』2014年09月04日(水)付、夕刊。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140904dde012010002000c.html


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覚え書:「マリー・アントワネット―ファッションで世界を変えた女 [著]石井美樹子 [評者]水無田気流(詩人・社会学者)」、『朝日新聞』2014年08月31日(日)付。

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マリー・アントワネット―ファッションで世界を変えた女 [著]石井美樹子
[評者]水無田気流(詩人・社会学者)  [掲載]2014年08月31日   [ジャンル]歴史 
 
■時代を作った象徴的な身体

 歴史上の著名人とは、煌々(こうこう)とまばゆい闇である。ましてや、滅び去った側の者は歪曲(わいきょく)がまかり通る。文芸作品、映画、そして日本では漫画や宝塚でもお馴染(なじ)みの、フランス革命で処刑されたルイ16世の王妃、マリー・アントワネットはどうだろう。思い浮かぶのは、お洒落(しゃれ)や仮面舞踏会にうつつを抜かし、浅はかで遊び好き。財政破綻(はたん)に瀕(ひん)していたフランスで庶民の窮乏を理解せず、「パンがなければ、お菓子を食べなさい」と言い放ったという逸話……。
 著者は、これら誰もが知っているマリー・アントワネット像を、一つ一つ検証し実像に迫る。焦点となるのは、当時のファッションやメディアと政治の緊密な関係だ。当時、王の身体は、単に生身の肉体であるのみならず、統治する政治体であり、さらに肖像画や彫刻などで表される象徴的な身体でもあった。それゆえ、革命の完遂のためには、その身体を処刑せねばならなかった。ヨーロッパ史上、統治権を持たない王妃が処刑されるのは異例なこと。だがマリー・アントワネットは、かつてフランス王室の「ファッションリーダー」であり、その身体は実に象徴的な意味を持っていた。
 たとえば、高く結い上げた「プーフ」と呼ばれる髪形は、大きく膨らませたドレスに合わせ視覚効果を狙ったものだが、瞬く間に流行。その後簡素な「シミーズ・ドレス」を流行(はや)らせ、女性の身体をコルセットから解放するのに成功するが、根底にはルソーの思想「自然に帰れ」の影響があったという。さらに、新古典主義の芸術の育成にも貢献したというから、革命後の文化や気分を先取りしていたのは間違いない。最後まで気高く断頭台についた姿に鑑みれば、醜聞の数々は革命のスケープゴートとして捏造(ねつぞう)されたものとの見解は、信憑性(しんぴょうせい)が高い。時代の空気を作り出したがゆえに、時代にのまれた悲劇の王妃を再評価されたい。
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 河出書房新社・2592円/いしい・みきこ 42年生まれ。神奈川大学名誉教授(中世英文学・演劇)。『エリザベス』など。
    −−「マリー・アントワネット―ファッションで世界を変えた女 [著]石井美樹子 [評者]水無田気流(詩人・社会学者)」、『朝日新聞』2014年08月31日(日)付。

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時代を作った象徴的な身体|好書好日





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覚え書:「史料としての猫絵 [著]藤原重雄 [評者]本郷和人(東京大学教授・日本中世史)」、『朝日新聞』2014年08月31日(日)付。

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史料としての猫絵 [著]藤原重雄
[評者]本郷和人(東京大学教授・日本中世史)  [掲載]2014年08月31日   [ジャンル]歴史 
■芸術の深淵への知的な冒険

 ここに1枚の猫絵がある。リアルに描かれた猫は白地に黒いぶち。首には赤くて太い首輪を結び、金の鈴を下げている。からだを丸まるとかがめたまま静止し、顔をかしげて右ななめ上方を注意深くさぐっている。耳とヒゲはぴんと立っていて、視線の先にある何ものかに集中している。
 「かわいい」で済ませてはもったいない。まっとうな好奇心をもつ大人には、たくさんの「知りたい」が生じるはずだ。だれが、いつ描いたのか。だれに向けて、なにを目的として描いたのか。こうしたモチーフにはどんな歴史的背景があるのか。それから何より、猫が見つめる先には何があるのか、等々。これらを考え・調べる営みが、絵画史という学問ジャンルに他ならない。
 芸術には素直な心で接するべし、との意見がある。能書きは必要ない。それは往々にして、真の理解をそこなう要因となる、という。あなたの感想ってライナーノートのコピーね。コンサートの帰路、妻にそう笑われた経験をもつ私は、かつてその意見に一定の理を認めていた。
 だが今は、それは違う、と断言したい。作品と向きあうべき自分とは、実は情報の積み重ねに他ならない。感情や感動もまた、自己の中の理論だとか体験を経由して、相対的に生み出される。だから、芸術の深淵(しんえん)をうかがおうとしても、自分以上のものを見て取るのはむずかしい。その代わりこちらが勉強を続ければ、奥行きのある作品はきっとそれに応えてくれる。
 その時にどういう手順をふめば良いか。どういう性質の考察を重ねるべきなのか。本書は猫をテーマに、それを的確かつ楽しく教え示す。しかも1枚の猫絵からスタートして、さまざまな猫たちに会わせてくれる。コンパクトでありながら、豊富な図版を駆使していて(著作権の処理がさぞたいへんだったろう)、知的な冒険へのすてきな招待状に仕上がっているのだ。
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 山川出版社・864円/ふじわら・しげお 71年生まれ。東京大学史料編纂所助教(日本中世史)。 
    −−「史料としての猫絵 [著]藤原重雄 [評者]本郷和人(東京大学教授・日本中世史)」、『朝日新聞』2014年08月31日(日)付。

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芸術の深淵への知的な冒険|好書好日





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史料としての猫絵 (日本史リブレット)
藤原 重雄
山川出版社
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覚え書:「フードトラップ―食品に仕掛けられた至福の罠 [著]マイケル・モス [訳]本間徳子 [評者]萱野稔人(津田塾大学教授・哲学)」、『朝日新聞』2014年08月31日(日)付。

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フードトラップ―食品に仕掛けられた至福の罠 [著]マイケル・モス [訳]本間徳子
[評者]萱野稔人(津田塾大学教授・哲学)  [掲載]2014年08月31日   [ジャンル]
 
■加工食品の「魔力」、取材で示す

 よく米国の食事情を表すときに、貧困層ほど肥満が多くエリートほど健康だ、ということが言われるが、はたしてそれは本当なのだろうか。本書を読むと、どうやらそれはある程度本当のようだ。スナック菓子や朝食用シリアル、清涼飲料水などの加工食品を製造している食品メーカーの幹部たちには、自分たちが手がけた商品を避ける食生活を送っている人が多いという。なぜ避けるのかといえば、それらの商品には、安価に食品の「魔力」を高めてくれる塩、脂肪、糖が大量に使われているからだ。塩は味蕾(みらい)の刺激を増大させるし、脂肪は食べる量がつい多くなるという作用をもつ。最も恐るべきは糖の作用だろう。糖は脳に興奮作用をもたらすからだ。脳のスキャンで調べると、糖に対する脳の反応は薬物への反応と類似していることがわかるという。これら三つを組み合わせて味覚の「至福ポイント」をみつけることが加工食品の開発だということを、本書は圧倒的な取材によって示す。
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 日経BP社・2160円 
    −−「フードトラップ―食品に仕掛けられた至福の罠 [著]マイケル・モス [訳]本間徳子 [評者]萱野稔人(津田塾大学教授・哲学)」、『朝日新聞』2014年08月31日(日)付。

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加工食品の「魔力」、取材で示す|好書好日





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フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠
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