石川啄木『一握の砂』には、「かなし」という表現が多数出てくる。 いのちなき砂のかなしさよ さらさらと 握れば指のあひだより落つ かなしきは 喉のかわきをこらへつつ 夜寒の夜具にちぢこまる時 人といふ人のこころに 一人づつ囚人がゐて うめくかなしさ 握りしめた指のあいだから落ちる砂も、各々の心にいるという囚人も、見たり触れたりできるモノの奥、容易には知覚することができない「かなし」の姿の一つである。 「かなし」は全人類が持つ共通のものでありながら、誰とも分かち合うことのできない個別のものである。 私の「かなし」のすべてを他者に伝えることはできないし、他者の「かなし」のすべてを知ることもできない。…