寺尾には特別の思いがある。 別段相撲オタクでもなく、寺尾の取り口がどうのと語れる訳でもなく、ただ単に仕事で行かされたあるパーティで、当時現役の寺尾を間近に見たことがある、というだけのことだ。 それで何故特別の思いかというと、有名人のオーラという物を初めて実感したのがその時だったから。 光っていた。彼のいるそこだけスポットライトが当たっているかのように、文字通り、掛け値なしに光っていた。 TVで知る寺尾は小兵に見えていたが、大勢の一般人に混じると首一つ抜けていた。その髷は鬢付け油で光って当然だが、顔も、来ていた着物(浅黄色というのか、実に美しい明るい水色だった)も、すべてが光っていて、彼だけがぼ…