かんたは、新しい道を走っていました。いつもの山道ではなく、いくつもの四角い建物が並ぶ、団地の横を通る道です。かんたの仕事は、この道を通り過ぎて、ずっと先にある海辺の町まで本を届けることでした。 初めてその道を通ったとき、かんたは、ふと気づきました。団地の建物の間に、公園でもない、ただの空き地のような場所がありました。そこに、ぽつんとひとつだけ、鉄棒くらいの大きさのブランコが置かれていたのです。そして、そのブランコに、ひとりの女の子が座っていました。赤いワンピースを着た女の子は、誰と話すでもなく、ただ静かに、ゆっくりとブランコを漕いでいました。「こんにちは」とクラクションを鳴らすには、少し距離が…