宇治の茶商、上林竹庵の茶会に、利休が招かれたときのことです。 弟子をともなった利休の来訪は、竹庵にとってたいへんな栄誉でした。懐石を運び出し中立に至るまでは大過なく茶事は進みましたが、濃茶の点前になると天下の茶匠を迎えた緊張から、竹庵の手もとはふるえ、茶杓を滑り落とす、茶筅を倒すという粗相をしでかし、散々な点前になってしまいました。利休の弟子たちは、目配せをして腹の中で笑っていましたが、利休の反応は違いました。利休は「本日の点前は天下一である」と言って褒めたのです。 茶会からの帰り道、弟子のひとりが利休の意図するところを尋ねると、利休はこう答えたのだそうです。竹庵は点前を見せる為に我々を招いた…