富士山と海──日々目にするのが、あたりまえの景色。 色鮮やかな大漁旗を掲げた船が入港する姿は、今ではあまり見かけなくなった。夫の祖父は漁師だった。網を繕うその手先で、長い航海の合間に編み物をしていたという。寡黙で頑固、まさに「海の男」そのものだったそうだ。 漁を生業とする者が、海で命を落とすことは珍しいことではなかった。だから、自分と分かるように「身体に墨を入れる」のだと──夫が一度だけ、言いにくそうにその話をしてくれたことがある。 この町は、漁師の町。口調も荒く、風体も近寄りがたい。嫁いで間もない頃は、言葉の激しさに、いつも叱られているような気がしていた。 海水浴──子供が幼い頃に、家族で海…