『細雪』に見る女性像の神話的構造――宗像三女神と木花咲耶姫との照応を通して 谷崎潤一郎の代表作『細雪』には、戦前の大阪・神戸を舞台に、蒔岡家の四姉妹がそれぞれの人生を歩むさまが丹念に描かれている。この作品はしばしば、没落貴族の哀愁や、旧家の女性たちの美学を讃える作品と評されるが、四姉妹の性格やふるまいには、単なる家父長的な時代の鏡像以上の、深い象徴性が秘められているように思われる。 本稿では、蒔岡家の三姉妹――鶴子、幸子、雪子――に対し、日本神話における宗像三女神(多紀理毘売命・市寸島比売命・多岐都比売命)の姿を重ね合わせ、さらに四女・妙子の存在を木花咲耶姫命と照応させることで、『細雪』におけ…