てっきりこれこそが春一番かと思った。 どこからどこへ向う途中なのか、階上のベランダの手すりをいったん停止場所にして仲間と啼き交しては、またどこかへ飛んでゆく鳩たちが、みづから飛立つというよりは、風に押し出されるかのように発ってゆく。鳥たちも近所の木々も、時折りの突風にまるで追い立てられるかのようだ。耳に懐かしい音を急に聴きたくなって、ふいに散歩に出る気になった。 思ったとおり、神社の巨木たちの梢は轟ごうと鳴っている。常緑樹の枝えだは葉裏を見せて身をうねらせている。荘重たる音であり、眺めだった。 大鳥居をくぐった境内が外苑で、五段ほどの石段を登って二の鳥居をくぐれば内苑である。敷石上を直進すれば…