私が仁科芳雄の生涯を追うきっかけは、「高橋源一郎の歩きながら考える」と題する『朝日新聞』(2018年4月18日付け)の記事を偶然目にしたことにある。 高橋源一郎氏は文京区本駒込の旧理化学研究所37号館2階にあった仁科芳雄執務室を訪れ、この部屋の主人、仁科芳雄に関するレポートエッセイを寄稿した。仁科芳雄といえば、「日本の現代物理学の父」として、理科系の間で知らない人がいないほど有名な科学者で、湯川秀雄や朝永振一郎をはじめとする日本のノーベル物理学賞受賞者の多くが師と仰ぎ尊敬する人物だ。 その輝かしい功績をもつ一方、仁科には自身の名を取った「ニ号研究」の符合で呼ばれる戦時研究を任されていた。もっと…