街中では強風でも、山に入るとそうでもない。 草木が防風林の役割をしている。 風は感じないが、風の音はすごい。 杉林の中「ごぉぉぉ」という音に仰ぎ見れば、枝がわっさわっさと生き物のように動いている。 上空に枯葉が舞う。 木の幹が擦れて「ぎぃぃぎぃぃ」という不気味な音を出している。 登山道脇の藪を見れば、そこだけ風の通り道があるのか、一枚の葉が「おいでおいで」をするように揺れている。 山全体が一つの巨大な生き物みたい。 風の音を聞いてると、私はいつも旧約聖書の『カインとアベル』を思い出す。 カインはアベルを殺害した罪で、追放され村を去る。 安寧の土地を追われる道中で聞いた音は、きっとこんな物寂しい…