「どうぞ、中でお茶でも」 僧はほうきを壁に立てかけ、私を本堂の脇にある庫裡(くり)へ案内した。 畳に座ると、静かな香の香りが鼻をくすぐった。 それは、どこか懐かしく、子どもの頃に戻るような感覚だった。 「あの、和尚さん」 私が口を開いたのは、ほうじ茶を一口飲んだあとだった。 「人は……どうして生きてるんでしょうね」 僧は笑った。 「お、来ましたな。その質問」 「来ましたって……そんなによくあるんですか?」 「ありますとも。ワシも五十年聞かれてきたけどな、まだ“完璧な答え”は見つからんわ」 「じゃあ……どうやって答えるんです?」 僧は茶碗を持ち上げ、ゆっくりと回しながら言った。 「人はな、答えを…