『新装 柳宗悦選集』全十巻、『私家版 柳宗悦集』全六巻(いずれも春秋社) 勉強していたころ柳宗悦の著作親本は、すでに入手しがたい状況だった。もともと私家版とか愛好者向け限定刊行といった、趣向性の強い刊行物だったから、だれもがつね日ごろから書店店頭にて眼にできる本ではなかった。文庫本化されてもいなかった。今とは雲泥の差だ。有名ではあっても、とくに関心を抱く読者以外からは、読まれる機会のあまりない著者だった。 いくら白樺派の重要な一員とされたどころで、小説など書いたこともない柳は、世間の一般読書人の眼からは、武者小路実篤や志賀直哉や有島武郎とは無縁の著者と見えていた。むろん白樺派内部の交友関係につ…