小生が学生時代に好きになった先輩が梶井基次郎の良き読者だった。当然その先輩は女性であり、好きというのは恋を含んだそれであった。一学年違うと世界が違う、経験値も違う、と思われたので、先輩に近づくためには、先輩のことを知らなければならないと感じた。けれども、日常会話だけではまったく先輩に近づけぬ。小生、生来の恥ずかしがり屋であった。だから、先輩の好きな作家を訊くことで、何とか日常会話以上の心の交流を成し遂げたい、という思いで一杯だった。 先輩は、好きな作家として、乱歩、久生十蘭、梶井基次郎、夢野久作を挙げた。今なら、この作家群をみて、傾向を瞬時に判読できると思うが、20歳当時、乱歩と梶井以外は誰だ…