奈良県橿原市に、穏やかな姿でたたずむ一峰がある。それが大和三山のひとつ、畝傍山である。標高198.8メートル。耳成山、天香久山と並び称され、三山の中で最も高い。古くから“火”と“祈り”の象徴として人々の信仰を集めてきた。 中大兄皇子(天智天皇)が詠んだ歌や、神武天皇の后が詠んだ歌にも登場し、神武天皇が最初に都を開いただけあって、大和三山の中で最も逞しく、男らしい。 「畝傍」とは、「火がうねる」という意味をもつ。田の畝のように重なる尾根を抱き、かつては「畝火山」「雲根火山」「宇禰縻夜摩」とも記され、『古事記』では「宇泥備夜麻」と書かれた。『万葉集』では“瑞山(みずやま)”の名でも詠まれ、火と水の…