物語、一巻。
作者と成立年がともに未詳。竹取翁の物語、かぐや姫の物語とも。
竹取の翁が竹の中から得たかぐや姫の成長と、五人の貴公子や帝の求婚、姫の月世界への昇天を描く。
仮名で書かれた最初の物語で、『源氏物語』では物語の祖とされる。
紀貫之、紀長谷雄、源融、僧正遍昭、源隆国、鳥羽僧正などの説がある。
引用、言及によって、『古事記』(和銅五年(712))から『源氏物語』(長保三年(1001)〜寛弘二年(1005))の間だと考えられる。
海山の道に心を盡くし果てないしの鉢の涙流れき
置く露の光をだにも宿さまし小倉山にて何求めけむ
白山に會へば光の失するかと缽を棄ててもたのまるるかな
吳竹のよよの竹取り野山にもさやはわびしきふしをのみ見し
わが袂けふかわければわびしさのちぐさの數も忘られぬべし
誠かと聞きて見つれば言の葉を飾れる玉の枝にぞありける
限りなき思ひに燒けぬ皮衣袂乾きて今日こそ履きめ
名殘無く燃ゆと知りせば皮衣思ひの外に置きて見ましを
年を經て浪立ちよらぬ住江の末貝無しと聞くはま事か
貝はかく有りけるものを詫びはてゝ死ぬる命をすくひやはせぬ
還るさのみゆき物うく思ほえてそむきて留まる輝夜姫故
葎はふ下にも年は經ぬる身の何かはたまのうてなをも見む
逢事も涙に浮かぶ我身には死なぬ薬も何にかはせむ