風吹けば浪《なみ》の花さへ色見えてこや名に立てる山吹の崎《さき》 春の池や井手の河瀬《かはせ》に通ふらん岸の山吹底も匂《にほ》へり 亀《かめ》の上の山も訪《たづ》ねじ船の中に老いせぬ名をばここに残さん 春の日のうららにさして行く船は竿《さを》の雫《しづく》も花と散りける こんな歌などを各自が詠《よ》んで、 行く先をも帰る所をも忘れるほど若い人たちのおもしろがって 遊ぶのに適した水の上であった。 暮れかかるころに「皇章」《こうじょう》」という楽の吹奏が波を渡ってきて、 人々の船は歓楽陶酔の中に岸へ着き、 設けられた釣殿《つりどの》の休息所へはいった。 ここの室内の装飾は簡単なふうにしてあって、し…