吉川幸次郎(1904 - 1980) 考えが巧くまとまらぬままに、滑稽なことを云いだそうとしている。文章は生きものでありナマものであって、意味や形ばかりでなく、色も匂いもあるというようなことなんだが…。 聖徳太子『十七条憲法』の第十四条は、「官吏たるもの他人を嫉妬してはならぬ」の条文だ。なかに賢者・聖者の登場には五百年・千年を要するとの、中国の大古典を下敷きにしたらしい譬喩的云いまわしがある。現代の(といっても昭和の)学者による訳釈では、その箇所に註が付されて、参考として吉川幸次郎の見解が引かれてある。 吉川曰く。ほかの部分は文法的にも文体としても立派だ。ところがこの部分だけが、リズムに変調を…