訓読 >>> 丹生(にふ)の川(かは)瀬(せ)は渡らずてゆくゆくと恋痛(こひた)し我が弟(せ)いで通ひ来(こ)ね 要旨 >>> 丹生の川の瀬は渡ろうとせずに、まっすぐに私のところにやって来なさい。恋しさに心痛む我が弟よ。 鑑賞 >>> 長皇子(ながのみこ)の歌。題詞に「皇弟に与ふる御歌」とあり、「皇弟」は、異母弟の弓削皇子(ゆげのみこ)を指すとみられています。「丹生の川」は、吉野川の支流。「瀬は渡らずて」は、瀬を渡れずにいて、で、第三者の障害によって逢えないこと。「ゆくゆく」は、思う気持ちが遂げられずに逡巡している、あるいは、心がはやる意か。「恋痛し」は「恋ひ痛き」の略で、恋しさが募る。「いで…