読書メーター2012-5月分

5月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:3378ページ
ナイス数:31ナイス


新進気鋭の若手歴史研究者による今までの通説を覆す歴史観を展開している画期的な本。内藤湖南の「東洋文化史」から受けた影響を「中国化」として読み取り、そこから「中国化」と「日本化=江戸化」を対比していく。「中国化」と「江戸化」はまったく正反対の性質で、中国文明は近世(宋)ですでに今日のグローバル社会の先駆けになる特徴を達成していて、一方日本文明は近世である江戸時代で独自の文明を完成させた(江戸化)と考える。そして「江戸化」を引きずっている現代日本も少しづつ中国が達成したスタンダードに日本も近づいていく。
読了日:05月29日 著者:與那覇 潤

御伽草子―マンガ日本の古典〈21〉 (中公文庫)

御伽草子―マンガ日本の古典〈21〉 (中公文庫)

室町から江戸初期にかけて書かれたわかりやすい散文物語が江戸中期に「御伽草子」として出版された。幼い時に読んだ「一寸法師」とはこんな話だったかなと思ったり、「酒呑童子」の坂田金時って金太郎のことだよなと考えながら読んだ。本書で描かれる物語は「一寸法師」、「鉢かづき」、「長谷雄草子」、「物くさ太郎」、「酒呑童子」、「猫の草子」だけで、本格的に御伽草子を知りたい人には向かないかも。
読了日:05月28日 著者:やまだ 紫

日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

まず本書を読む上で知っておきたいところは、著者のイザヤ・ベンダサン山本七平だということが定説になっていることだろう。それを頭に入れて読むと、山本氏はユダヤ人の名前をあえて使って日本の宗教性や規律を相対化したかったのだろうと思う。その切り口は鋭く、日本教を人間教だと指摘し、西郷隆盛のありかたに典型を見出す。先に「空気の研究」を読んだ身から言わせてもらえば、山本氏の問題意識にはそのような多数派の日本教への距離感と、ユダヤキリスト教の日本でのありかたや山本氏が心中に秘めている物があるように感じる。
読了日:05月26日 著者:イザヤ・ベンダサン,Isaiah Ben-Dasan

黒い雨 (新潮文庫)

黒い雨 (新潮文庫)

太宰つながりから、井伏文学に挑戦する。骨太な文体で様々な人物の日記のように話が進むが、被曝と一言いっても様々な体験があって多くの人が原爆やその後遺症で死んでいった。原爆の熱線で死んだ人、吹き飛ばされた建物の下で生き埋めになった人、さらにその後の火事で死んだ人、飛び交う放射性物質が原因で死んだ人。原爆で死んだり、苦しめられた人達のことを決して教訓めいて語るのではなく、実際にあったことを淡々と語っているようでいても、底に流れる井伏氏の原爆に対する意識の強さを感じた。
読了日:05月23日 著者:井伏 鱒二

人間失格、グッド・バイ 他一篇 (岩波文庫)

人間失格、グッド・バイ 他一篇 (岩波文庫)

たぶん太宰治の作品で有名な「人間失格」。「斜陽」の残響が自分の中になり響きながら読んだせいか、お互いの作品が自分の中でぶつかり合っているのを感じる。この「人間失格」は、あまりに様々な出来事を恐れることでかぶった道化の仮面がはがれる恐怖や、弱さをもつ男の深淵を影日向に当てている感じだ。さらに思うことは、もし太宰がこのあとも生きて残っていたらどんな作品を書くのかと考える人は多いだろうが、もし以前の心中で死んでいたら太宰ってどう言われていたのだろう?もしかすると太宰治の作品はどこで終わってもいいのかもしれない。
読了日:05月21日 著者:太宰 治

斜陽 他1篇 (岩波文庫)

斜陽 他1篇 (岩波文庫)

斜陽 他1篇 (岩波文庫)
初めての太宰治だけど、驚いた。男性がここまで女性の視線で物事を見れることはちょっとやそっとでは真似できない。僕自身少女マンガを読むことは度々あるけれど、まだまだ自分が女性をわかっていないことを思い知らされた。これは先に「女生徒」を読むべきだったかと思ってます。高貴な精神を保ったまま死にゆくお母様、自分の弱さに溺れる放蕩息子、そして自分自身の戦いをする娘。この作品と少女マンガの先駆けである、大島弓子の初期作品群にも影響を与えているようなニオイはするのは僕だけでしょうか。
読了日:05月19日 著者:太宰 治

すっかり今の心理学の主流から外れてしまった精神分析だけど、本書をパーソナリティ障害の心理分析とその社会性についての記述と読むと、まだまだ読む価値はあるように感じる。ただその場合は自分自身の精神傾向や、他者の精神分析とその社会での付き合いにしか使えないかもしれない。僕の経験からすれば心理の病気な部分は直せる可能性があるということだ。精神分析から実際の症状を割り出して、その後の尿検査と血液と脳波検査で症状を判断する。それからは薬などで改善できる場合がある。本書はあくまで普通に暮らす人の精神分析と考えた方がいい
読了日:05月16日 著者:小此木 啓吾

機関車先生 (講談社文庫)

機関車先生 (講談社文庫)

声が出ない機関車先生が、母親の縁から瀬戸内海の葉名島の先生として赴任してくることから話が始まる。ストーリーの時代は戦後10年ほどたった頃で、まだまだハンディキャップをもっている人に厳しい時代だったが、強く優しい先生は頼もしいだけでなくいろんな夢を生徒に与えたのが、手をとるようにわかる。機関車先生のような先生にいろんな理想を押し付けたくなるけれど、現実の先生には機関車先生のような先生像を押し付けてはいけないように感じる。機関車先生の強さはみんながそれぞれ心のなかに持ち言葉やコミュニケーションで分かり合いたい
読了日:05月13日 著者:伊集院 静

無縁・公界・楽 増補 (平凡社ライブラリー)

無縁・公界・楽 増補 (平凡社ライブラリー)

無縁・公界・楽―日本中世の自由と平和 (平凡社ライブラリー (150))
いわゆる網野史学と言われる原点になった本。それまで中世の通説だった封建君主が農民を支配して搾取するという考えを批判して、世俗の縁の切れる場所(アジール)があり、そこで世俗の縁の切れた人々が中世で大きな役割を担っていたのではないかと提起した。無縁所ということと公界所の意味はかなり似ていて、似たような機能を発揮した。どちらも表(有主・有縁)がしだいにアジールをほとんど取り込んでしまったことが、日本の歴史にとって良いことなのか悪いことなのかわからない。ただ本書は様々な歴史の可能性があることを考えさせてくれる。
読了日:05月12日 著者:網野 善彦
読了日:05月06日 著者:速水 融

歴史とは何か (岩波新書)

歴史とは何か (岩波新書)

歴史とはなにかについてカー氏自身の哲学を語った本だが、いかにもオックスブリッジの講義らしさを感じた。いわゆる「歴史哲学」に属する本なので敷居はとても高いけれど、歴史について考えたことのある人には読んで見る価値があることを保証します。僕は本書を読んで、カー氏の哲学と重なっていることも感覚があることを確認できましたし、また今日からみてカー氏を批判できるところをいくつか見つけました。しかしそれができることこそ歴史なのです。過去と未来は教訓ではないつながりがあるのだと僕は思います。
読了日:05月05日 著者:E.H. カー

教育学 (ヒューマニティーズ)

教育学 (ヒューマニティーズ)

おそらく教育学の入門書の「入門書」といっていい本。こういうタイプの本を書くのは意外に難しく、変な自説とテキトウな学問の流れを中心に書かれることがあるけれど、本書は教育が必然としてもっている矛盾をしっかり指摘している。たとえば教育科学という科学の裏付けが多少ある分野と、実践的教育学という科学の裏付けできない私的な実践理論が存在する。これはすべての人文学が共通している矛盾だが、科学的でない部分がたくさんある。その中で「何に向かって教育するのか」という問題は大きく、目的のなくなった技術知(教え方)が迷走した。
読了日:05月02日 著者:広田 照幸

試験に受かる1日15分速読勉強法

試験に受かる1日15分速読勉強法

古本屋でBTR本を見つける。図書館で本書の元になった「知的速読の技術」を借りて約二ヶ月。本書に載っていた一分間に理解できる文字数は1800文字となっていました。Aの一番上ぐらいには成長したようですが、まだまだ伸びしろがありそうな気になります。「知的速読の技術」からこっちの訓練に切り替えよう。もともと15分程度の訓練を毎日して、たまに40分ぐらいの訓練をするならこっちのほうが効率がいいかも。
読了日:05月01日 著者:松田 真澄

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