https://mainichi.jp/articles/20180304/k00/00m/040/138000c
http://archive.today/2018.03.04-005127/https://mainichi.jp/articles/20180304/k00/00m/040/138000c
毎日新聞は、旧優生保護法(1948〜96年)下で不妊手術を強制された障害者らの個人名や手術理由を記した資料の保存状況を調べるため、全47都道府県を対象にアンケートと聞き取り調査を行った。資料が確認されたのは25道府県の計3596人(3日現在)分で、旧厚生省などの統計で強制手術を受けたとされる1万6475人の22%にとどまった。このうち全員分が残っていると推定されるのは千葉、和歌山、奈良、鳥取、長崎の5県。東京や大阪など残る22都府県は「現存しない」と回答した。
同法下での強制不妊手術をめぐっては、超党派の国会議員連盟が6日に東京で初会合を開き、救済の在り方について議論を始める。約8割の「記録のない被害者」をどう特定するかが大きな焦点になりそうだ。
調査期間は1月15日〜3月3日。文書の保存期間が終わっていたり、同法が母体保護法に改定され20年以上経過したりしているため、多くの都道府県で資料の所在確認に時間を要した。
全47都道府県からの回答を集計した結果、「現存しない」としたのは22都府県で、うち21都府県は保存期限切れなどを理由に資料を確認できないと回答した。熊本県は「(同法の)関連文書の保存期間は当時最長5年だった」とし、全国最少の沖縄県も「保存期間の20年が過ぎており、廃棄されたと推測される」と答えた。
一方、「現存」を確認したのは25道府県。確認された資料は、医師が提出した「優生手術申請書」▽強制手術の諾否を判断した審査会の関連資料▽手術の適否の参考となった「調査書」▽手術適否決定通知書−−など10種以上に及ぶ。
このうち和歌山県は、103人と記載している国の記録に対し、49〜85年に審査会に諮られた193人分の個人名の載った記録台帳を確認。同県担当者は「このうち何人が実際に手術を受けたかは不明」と回答したが、記録された期間から103人が含まれる可能性が高いという。千葉なども旧厚生省などの統計数字を上回るか同じで、全資料が現存しているとみられる。
また、強制手術が2593人と全国最多の北海道は、4割強に当たる1129人の手術申請書などを確認。さらに増える可能性がある。全国4番目に多い大分県も当初は「現存せず」と回答したが、後日、57年度と60年度の計101人の資料を発見。愛知県も「(条例で定める)保存期間は10年」を理由に破棄されたとしたが、その後、55人の資料を確認した。【遠藤大志、岩崎歩】
国と自治体連携を
旧優生保護法を巡る問題に詳しい松原洋子・立命館大教授(生命倫理学)の話 補償問題を考えた際、現段階で明らかになっている行政資料だけでは不十分だ。手術に関する手がかりは他にもある。国は、各都道府県と連携し、一日でも早く実態調査を始めるべきだ。
【ことば】強制手術の記録資料
旧優生保護法下で強制不妊手術を受けた都道府県ごとの人数は、旧厚生省の統計資料「衛生年報」や「優生保護統計報告」などから分かっているが、個人情報の記載はない。当事者の特定は、都道府県ごとに作られた手術の申請書や諾否を決めた審査会資料など個人情報を記した資料が現存するかにかかっている。