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みちの雑記帳

2017-06-18 映画「ある決闘 セントヘレナの掟」を見る(感想)

[]映画「ある決闘 セントヘレナの掟」を見る(感想)

ある決闘 セントヘレナの掟 THE DUEL  元のタイトル:BY WAY OF HELENA
2016年 アメリカ 110分
監督:キーラン・ダーシー=スミス
出演:エイブラハム・ブラント(ウディ・ハレルソン)、デヴィッド・キングストン(リアム・ヘムズワース)、マリソル(アリシー・ブラガ)、アイザック(エモリー・コーエン)、ナオミ(フェリシティ・プライス)、ロス知事(ウィリアム・サドラー)、モリス医師(ラファエル・スバージ)、マリア(キンバリー・ヒダルゴ)、カルデロン将軍(ホセ・ズニーガ)


★ネタバレあります★

「悪党に粛清を」に続くウェスタン・ノワール第二弾とか、「地獄の黙示録」西部版と聞いて、またも暗い西部劇かと思いつつも、せっかくの新作なので見に行った。
1886年、メキシコとアメリカの国境を流れるリオ・グランデ川に連日メキシコ人の遺体が流れ着く。州知事は、テキサス・レンジャーのデヴィッドに、上流の町マウント・ハーモンへの潜入捜査を命じる。町の有力者である説教師のエイブラハム・ブラントは、南北戦争中に名を知られた南軍兵士であったが、デヴィッドとはさらに深い因縁のある男だった。幼少のころ、ヘレナという町で、諍いからブラントに決闘を挑んだ父が彼に敗れて死んだのだった。その決闘はヘレナ式と呼ばれ、お互いの左手を縛った状態で小ぶりのナイフで攻撃するという過酷なものだった。(西部史に詳しい都築哲児氏によれば、これは実際にヘレナという町でこういう形式の決闘があったという記録が残っているらしい。)
デヴィッドは、いっしょに行きたいと言い張るメキシコ人の妻マリソルを伴ってマウント・ハーモンを訪れ、ブラントの勧めで新任保安官となる。説教師であるとともに資産家であるブラントは町に君臨していた。彼は美人のマリソルが気に入り、信仰を説いて彼女を取り込もうとする。町は閉鎖的で自ら訪れる旅行者はめったにいなかったが、ブラントが呼ぶ「客」は頻繁にやってきた。密偵を続けるデヴィッドは、ブラントとその一味が行っている残忍な「商売」を目撃する。
白い衣装に身をつつんだスキンヘッドのハレルソンが、派手で怖い説教師を不気味に演じて逆に爽快な感じさえする。対するヘムズワースも食われる主役に甘んじてはいない。腕の立つガンマンで、復讐心のみに捕らわれずブラントに対するのがよい。
ブラントの息子アイザックは、大物を父親にもつバカ息子で、かつての西部劇にもよく見られた役回り。だめな奴だが、父に認めてもらおうと悲壮な決意をしてデヴィッドにヘレナ式決闘を挑むものの、やはりあっさり敗れてしまって、ちょっと憐れを誘う。
最後の岩場でのデヴィッドとブラントの撃ち合いはたいへん見応えがある。血がやたら出るし、ブラントの動きに気づかないデヴィッドはいささか間抜け、それを女性に助けられるというのも定番すぎてなんだかなという感じだが、最近はとにかく多勢に無勢、敵が多けりゃ多いほど盛り上がるだろうといった設定のものが多くて(「マグニフィセント・セブン」も「グレート・ウォール」も然り)ちょっとうんざりしていたので、1対1の対決を丁寧に描いてくれたのが、よかった。

2017-06-04 映画「海洋天堂」をシネサロン和光の上映会で見る

[]映画「海洋天堂」をシネサロン和光の上映会で見る

海洋天堂  海洋天堂 OCEAN HEAVEN
2010年 中国 98分
監督・脚本:シュエ・シャオルー薛暁路
音楽:久石譲
出演:ワン・シンチョン王心誠(ジェット・リー李連杰)、ターフー大福(ウェン・ジャン文章)、リンリン鈴鈴(グイ・ルンメイ桂綸鎂)、チャイ柴(ジュー・ユアンユアン朱媛媛)、水族館館長(ドン・ヨン董勇)、ターフーの母(カオ・ユアンユアン高圓圓)


★ネタというか、あらすじバラしてます★

ジェット・リーが、ノーヒーロー、ノーアクション、ノーギャラで、挑戦した人間ドラマ。
シンチョンは、水族館の技師として働きながら、21歳になる自閉症の息子ターフーを男手ひとつで育ててきたが、癌に侵され、余命いくばくもないことを医師から宣告される。自分の死後、一人残されるターフーを思い、彼はターフーが自分で身の回りのことができるように厳しく教え始めると同時に、彼を受け入れてくれる施設探しに奔走する。
絵に描いたような難病家族愛ものの設定で、アクションなしのジェット・リーなど、チャンバラなしの時代劇、銃撃なしの西部劇と同様で通常ならパスするところなのだが、上映してくれたのが、シネサロン和光という地元の市民団体、映画館のない和光市で市民ホールを使って定期的に映画を上映してくれているありがたい団体なので、とりあえず見に行ったのだった。
だからアクション映画好きの身からすればあまり期待せずに行ったのだが、これが、大陸的おおらかさというか、ゆるやかで、おしつけがましくなくてよかった。なにより、こうした題材にも関わらず、主演のジェット・リーはじめ、誰も泣かない。隣人のチャイがちょっと涙ぐんだり、ターフーがシンチョンに怒られてちょっとべそをかく程度である。号泣しなくても、悲しみや親の愛の深さは見ている者に伝わってくるのが、ほんとうによかった。
冒頭いきなり、親子心中のシーンで始まる。シンチョンは、海上に浮かんだボートのヘリにターフーと並んで座り、自分と彼の足に縄で重りをつけて飛び込む。が、次のシーンでは二人で家に帰ってくる。一瞬、さっきのシーンはラストシーンの先見せカットだったのかと思ってちょっと暗い気分になったが、実は泳ぎのうまいターフーが縄をほどいて自分も父も助けてしまったことがわかる。
後の方でもターフーを助けに着衣のままプールに飛び込んだシンチョンが逆にターフーに助けられるシーンがある。泳ぎが好きなターフーは、シンチョンの勤務先の水族館館長の好意によっていつもプールで泳がせてもらっているのだ。
この水族館の水槽やプールの映像がとてもきれいで、悲しい話をさわやかなものにしている。
シンチョンが、ターフーに自分は海亀だと言って、わざわざ着ぐるみっぽい甲羅をつくって背負って、そこまでやるのかというくらい滑稽な様子を見せるのだが、これがまたわかっていても、ラスト、水族館の大きな水槽で海亀とともに泳ぐターフーの姿を見てじんときてしまうのだった。
ターフーはすぐぬいぐるみをテレビの上に置く。シンチョンは、テレビの上に置くなと何度も注意する。ターフーを施設に預け、家に一人となったシンチョンは、ぬいぐるみをわざわざテレビの上に置いてみる。そして、シンチョンの死後、ターフーは、テレビの上に置いたぬいぐるみを取って他のところに置く。そうした細部も気が利いている。
水族館の館長、雑貨屋を営む隣人の女性チャイ、水族館で興行したサーカス一座の女ピエロのリンリン、ターフーの恩師の先生などとの交流も人情味があってよかった。

2017-06-03 映画「スプリット」を見る(感想)

[]映画「スプリット」を見る(感想)

スプリット SPLIT
2017年 アメリカ 117分
監督・脚本:M・ナイト・シャマラン
出演:ケビン/バリー/デニス/パトリシア/ヘドウィグ/ビースト?/他(ジェームズ・マカヴォイ)、ケイシー(アニヤ・テイラー=ジョイ)、クレア(ヘイリー・ルー・リチャードソン)、マルシア(ジェシカ・スーラ)、ドクター・カレン・フィッチャー(ベティ・バックリー)、デヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)、ジャイ(フーターズ好きの男。シャマラン


★ネタバレあります!!!★

シャマラン監督が、DID(解離性同一性障害)の男を犯人に据えた女子高生誘拐・監禁事件を描く。
3人の女子高校生が見知らぬ男に誘拐され、窓のない部屋に監禁される。犯人が多重人格者であることはすぐ明かされる。女子高校生たちは脱出を試み、男のかかりつけのドクターは面会に来た男の様子がいつもと違うことに気づく。
映画は、男の住まいとドクターの事務所兼住居のほぼ二つの建物内部のみを舞台として、進行していく。男の住まいは、コンクリートむき出しで、長い廊下に沿って部屋がたくさん並んでいて、窓がない、ちょっと不可思議な建物である。建物の外景はずっと示されず、いきなり拉致されてきた女子高生らと同様、見る側も閉塞感が高まる。もうひとつの場所、一人暮らしの老女であるドクター・フレッチャーの家は、マンションの高層階にある。らせん階段が何度も映し出される。
主な登場人物は、犯人の男と女子高生3人とドクターの5人だけ、でも男の中にはいくつもの人格があって彼らが入れ替わり立ち代わり登場する。男はケヴィンという名だが、3人を誘拐したのは潔癖症で用意周到なデニス、ドクターと面会するのは服飾関係の仕事をしていて物腰柔らかなバリーである。ほかにデニスと仲のいい女性のパトリシアと、9歳の少年ヘドウィグなどがいる。バリーからデニスに変わるマカヴォイの顔の演技(顔芸と言っては軽すぎるか)はかなりおもしろい。そしてドクターも知らない24番目の人格ビーストが誕生する。女子高生3人はビーストの生贄として拉致されてきたのだとパトリシアは言う。
浅はかではあるが、前向きに脱出を試みるクレアとそれに協力しようとするマルシア、しかしケイシーはあまり動こうとしない。ケイシーは普段から一人でいてみんなに打ち解けない娘なのだが、合間合間に彼女の過去が挿入される。狩猟好きの父に連れられて狩りにいった記憶。ケイシーは銃が扱えるという前振りにとどまらず、不穏な雰囲気の叔父が登場し、父親の死後彼に引き取られた彼女が虐待を受けてきた厳しい現実が示されていく。
映画には、デニス「たち」による犯罪の進行と同時に、母の虐待に耐えるために自分の中に多くの人格を誕生させたケヴィンと、すべてを諦め受け入れていた生活から逃れようとするケイシーの、二人のドラマが盛り込まれている。「シビル」「24人のビリー・ミリガン」などを読んだことがあり、多重人格について多少記憶が残っていたので、完璧を求める母の虐待からケヴィンを守るため、なんでもそつなくこなすデニスはケヴィンが3歳の時に生まれたという話が、わりとすっと頭に入ってきた。みんなのまとめ役のバリーが立場を侵食されていき、それをドクターも察するのだがすでに手遅れだったという展開である。
ビーストとはなんなのか、実在するのか、という謎が彼が正体を現すことで明かされるが、それにより、物語は複雑な精神世界の話から一気にサスペンス・ホラー・アクションの様相を呈してくる。迫ってくるビーストに対し、ケイシーはショットガンを向ける。
救助され、パトカーで待つケイシーに、叔父が迎えに来たと女性警官が告げに来る。家に帰ればまたひどい境遇が待っている。ケイシーは、呼びに来た警官をじっと見る。この警官が女性であることが大事で、今まですべてをあきらめていたケイシーが、未来を切り開こうとしているのではないかということが暗示される。
格調の高さと俗っぽさの混じりあいを絶妙と感じるか、唖然とするか。私は絶妙と感じた。シャマラン監督による低予算映画ならではの味わいが、個人的にかなりツボである。

ラストは次回作告知のおまけつきで、意外な人が顔を見せるが、「アンブレイカブル」を見ていないのでピンと来なかった。

2017-05-24 映画「いぬむこいり」を4時間かけて見る

[]映画「いぬむこいり」を4時間かけて見る

いぬむこいり
2017年 日本 製作:ドッグシュガー 公開:太秦 4時間(245分)
監督:片島一貴
主題歌:「カオス」勝手にしやがれ
出演:二宮梓(有森也実)、アキラ(武藤昭平)、奥本健吉(柄本明)、沢村芳雄(石橋蓮司)、堅(笠井薫明)、鈴木海老蔵市長(ベンガル)、レイコ(江口のりこ)、ユリナ(尚文)、翔太(山根和馬)、花子(韓英恵)、米兵(パスカル・クロード)、ナマゴン(PANTA)、卑弥呼緑魔子


★ネタバレあります★

4時間の長尺である。私は、理想的な映画の尺は100分以内と常々思っているので、2時間半超える映画は内容にかかわらず腰が引けるのだが、監督の片島さんは、大学時代のシネ研の先輩、Facebookで、「いぬむこいり」ページの更新お知らせを目にするたびに、「俺がこれだけ気合入れて撮ったんだから、おまえの4時間を俺にくれよ!」と、昔と変わらぬ口調で言われているような気がして、見に行ったのだった。
先に見た知人からは、あまり長さを感じなかったよという感想を耳にしていたのだが、やっぱり4時間は長かった。でも、最近は、主にマンガを原作とする映画において1つの作品を2つに分けて作る傾向がみられ、中でも「進撃の巨人」など1本分の内容を無理に2本に分けているようでなんだかなあと思っていたのだが、それに比べればこれだけのものを1本として一気に見てくれという姿勢は潔いと思った。
冴えない中年女性の自分探しの旅に、革命と戦争が絡んだ、犬婿伝説ファンタジーである。
4章構成で、1章「悪意とお告げ×東京」、2章「ゲバラとレノン×沖之大島」、3章「犬男×無人島」、4章「戦争×伊藻礼(イモレ)島」というタイトルがついている。
東京の小学校教師の梓は、唐突に神のお告げを受け、宝物を求めて沖之大島の近くにあるというイモレ島を目指す。が、沖之大島で詐欺師のアキラに持ち物を盗まれ、奥本という老人が営む三線屋に住み込みで働くこととなる。その後、島を牛耳る悪徳市長を倒そうとする革命グループのリーダー沢村(奥村とは旧知である)に押されて市長選に立候補する羽目になりと、話はヘンテコな方向に進んでいく。お告げが梓に示したイモレ島では、ナマ族とキョラ族が70年もの間戦争を続けていて、沢村はそのナマ族に武器を売って活動資金を稼いでいるのだった。彼の取引を横取りしようとするレイコとユリナの小悪党カップルが登場し、さらに沢村率いる革命集団、沢村の息子の堅とバンド仲間、市長のバカ息子とその取り巻き、梓の支援ボランティア、市長の支持者らなど、たくさんの人々が顔を出すが、結局梓は選挙に負け、沢村は選挙法違反の罪で逮捕されて拷問され、奥本は抗議の焼身自殺を図るという割と凄惨な展開となる。後半に入り、梓は、危険を承知でアキラとともに船でイモレ島を目指すが、嵐に遭って遭難、無人島に漂着する。彼女は島に1人でいた青年翔太と暮らし始めるが、翔太はナマ族の王子であり、実は犬男だった。普段は菜食主義でおだやかな性格の翔太だが、犬男に変身すると獰猛な肉食動物(食欲的にも性欲的にも)と化すのだった。そこに翔太の許嫁の花子が現れて三角関係になったり、オスプレイが不時着して瀕死のアメリカ兵を助けたりとまたまたヘンテコな展開があるが、結局やっぱり梓は一人でイモレ島を目指す。イモレ島にたどり着いた彼女はナマ族の王ナマゴンの保護を受け、アキラと再会する。激しい戦闘が続く中、梓はお告げの宝物を求めて、アキラとともに犬神が祀られる島の聖地を目指す。そのとき彼女のお腹には翔太の子どもが宿っていたのだった。
雑多な話やイメージが入り乱れての4時間である。あれはなんだったのかと突っ込むとキリがないし、理論的な解釈は苦手なので、目に入ったものをそのまま見て楽しんだ。
鹿児島県の指宿市を主としたロケ地の風景が美しい。特に無人島の廃墟がとてもよい。
登場人物が海に落ちたり、イモレ島でのシーンではひっきりなしに雨が降っていたり、とにかく後半は人がよくびしょぬれになる、そこに作り手側の並々ならぬパワーを感じた。
話はずっと梓を追っているのだが、彼女に絡むアキラ役の武藤昭平が魅力的だった。特にラストは、愛する女を守ろうとして守り切れない男の切なさがひしひしと伝わってきて、とてもよかった。それは「たとえば檸檬」の伊原剛志にも(言ってしまえば片嶋さんが学生時代に撮った8ミリの自主製作映画などでも)感じられたものだ。(「アジアの純真」を始め他の作品はあまり見ていないのでわからないのだが。)
アキラは、前半は、軽薄だけど憎めないペテン師として登場し、梓の夫を自称したいかがわしさ丸出しの選挙支援要員となるが、後半は、キョラ族に捕虜として捕らえられ脱走して、ナマ族の兵士となる。梓との関係では、似非夫からやがて本当の夫らしくなり、最後は血のつながらない異形の子の父親となっていく未来を思わせて映画は終わる。このアキラの身の上の変遷を見るのはおもしろく、そしてそれは4時間という長丁場を経ないと味わえなかったのではないかと思う。

いぬむこいり公式HP
http://dogsugar.co.jp/inumuko.html

2017-05-07 映画「グレートウォール」を見る

[]映画「グレートウォール」を見る

グレートウォール  長城 THE GREAT WALL
2016年 中国/アメリカ 103分
監督:チャン・イーモウ
出演:ウィリアム(マット・デイモン)、トバール(ペドロ・パスカル)、バラード(ウィレム・デフォー
リン・メイ隊長/将軍(ジン・ティエン)、ワン軍師(アンディ・ラウ)、ポン・ヨン(ルハン)、シャオ将軍(チャン・ハンユー)、ウー隊長(エディ・ポン)、チェン隊長(ケニー・リン)、ドン隊長(ホアン・シュアン)、皇帝(ワン・ジュンカイ)


★ねたばれあります!★

万里の長城という雄大な建造物を題材に、豪快にでっちあげられた、ファンタジー・歴史アクション。昨年、中国を訪れ、長城の上を実際に歩いてその雄大な景色に大いに感じ入ったので、長城目的で見に行った。
西欧の傭兵ウィリアムとトバールは、中国にあると言われる黒色火薬を手に入れて一儲けしようと部隊を組んで旅をするが、中国との国境近くで馬賊の襲撃に遭ったうえに、謎の怪物に襲われ、二人だけになってしまう。二人は、国境に築かれた巨大な壁(長城)の砦に駐留している禁軍に捕らえられる。禁軍は皇帝直属の軍で、彼らは60年に一度やってきて国を食い荒らす恐ろしい怪物、饕餮(とうてつ)の大群の襲撃に備えているのだった。ウィリアムらを襲った怪物がそれであり、一人で怪物を倒したウィリアムは戦士として一目置かれることになる。(後でそれは磁石の影響もあったことが明かされるが。)
時代は、解説では宋朝(960年〜1279年)とある。ウィリアムは黒色火薬を求めて中国に来ているのでまだ火薬が西欧に広まっていない時代であり、また彼はフランク王国(481年〜987年)で戦ったことがあると言っていることから、10世後半くらいかと推測される。武器は剣と弓と投石器である。
チャン・イーモウ監督は、「HERO英雄」などで極彩色の衣装が宙を舞う活劇を見せてくれたが、本作でもそれぞれの役目によって色分けされた部隊が登場する。これらの部隊は否が応でも黒澤明監督の「乱」における風林火山の軍隊を思い出させるが、公式HPのニュースによれば、この軍隊のデザインや色は中国の歴史伝統に基づいているという。「強さと工学知識を兼ね備えた猛虎軍団“虎軍”」は黄、「鷲のごとく鋭い矢を放つ射手隊 “鹰軍”」は赤、「歩兵と騎兵の混合部隊で機動力自慢の“鹿軍”」は紫、接近戦を得意とする五軍中最強の“熊軍”」は黒、そして、「鶴のように舞い華麗に敵を駆逐する“鶴軍”」は青である。
この鶴軍の兵士は全員女性であり、長城の天辺からバンジージャンプのようにロープを腰に巻いて飛び降り、地上にいる怪物たちを撃退する。「進撃の巨人」の「立体機動」を思い出させる戦法であるが(「壁」で怪物の侵入を防ぐというのも「進撃の巨人」ぽい)、飛び降りた彼女らが腰に付けた「輪」だけが血痕とともに引き揚げられ、砦の隅に積み重ねられていくのをウィリアムが目撃する場面などはなんとも悲壮である。
軍を指揮する将軍があっさり死んで、そのあとを若くて美人のリン隊長が継ぐ。リンとウィリアムの間に好感と信頼は生まれるが、恋愛の描写はごく薄めである。ウィリアムと相棒のトバールの連係プレイは見ていて楽しく、トバールは後半はあまり活躍せず、ウィリアムを置いていったりもするが、でも、この二人の相棒ぶりはなかなかよい。若い兵士ポン・ヨンとウィリアムの心の通い合いなどもよい。アンディ・ラウは、実践的で頭のよい軍師役で、アクションは見せないが、怪物が磁石に弱いことを発見し、磁石を翳して立ち回るところなど味わい深い。ウィリアム・デフォーは、あまりいいとこがなくてちょっと気の毒な役回りであった。
鶴軍の「立体機動」的攻撃法の他にも、城壁の上の太鼓を一斉に叩いて怪物の襲来を報せたり、都までの移動にまだ不完全で危険なランタン(熱気球のようなもの。その前に将軍の葬式で小型のランタンがたくさん空を舞う様を見せている)を使ったり、怪物がなぜ60年周期で来てまたなぜ磁石に弱いのかは不明のままだったり、そもそも万里の長城が怪物を迎え撃つために造られたものであるということになっていたり、割とむちゃなとこはいろいろあるし見る人によっては突っ込みどころ満載かもしれないが、細かいことは置いといて、力強くカラフルな映像を楽しめばよいと思う。
ただひとつ私にとっての難点は、せっかくの長城がトンネルを掘られてあっさり通り抜けられてしまい、最後の決戦は都が舞台となったことだ。捕らえた怪物に黒色火薬をつけて女王のところに向かわせ、その爆弾を塔の上から(この塔がまたきれい)射るといった展開はよかったが、できれば長城で豪快にクライマックスを迎えてほしかったと思う。