銀座とかの高い店も行くし、地方の名店も少し行くし、普通の鮨屋も入るし、回転寿司も行くし、自分でも握るし、豊洲にも行ってるし、あと色々背景事情知ってるし、なんなら諸事情で一枚板や内装費含めた全費用を数店舗知ってるので、鮨の解説を書いてみる。
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魚貝の美味しさについて
まず魚については、概ね3種類に分けられる
1. 鮮度が良いと美味しいもの(食べられないもの)
貝類や青魚、がこれに該当する。貝類は剥き立てが美味しい。青魚は当日~3日目くらいが美味しい(ヒスタミンの問題があるので悩ましいが)。関鯖とか良い物を当日使うと、味が全然出ていないので、これは3日目くらいが美味しい。
はてブにあるように、食感(テクスチャー)を味わいより重視する地域があり、その場合は多くの魚がこのカテゴリに含まれる。
なお、東京の飲食店には最短で釣れた当日のものが届く(多くは翌日のもの)ので、それは地方で釣れて当日夜食べるのと鮮度に違いは無い。加えて、日数が経っても鮮度が維持出来るように、例えばイカは生きたまま輸送できるイカ袋が開発されるなど、この20年程度?で異常に輸送は改善している。こうした輸送と、あと養殖の技術向上は素晴らしい。養殖の車海老を使う3万の鮨屋も多い(味が良いが、天然とさほど値段が変わらない)。
2. 寝かすと美味しいもの
鮪がこの代表。大型魚はこの傾向が強い。取れたては水っぽさが強く、旨味も弱い。身の引き締まり、筋肉の硬直、旨味への変換、脱水がポイントとなる。鮪は1週間程度~、平目は3日目とかが美味しいとされている。そもそも良い鮨屋が買う鮪は、仲買人がある程度寝かした状態で持ってくる。なんなら鮪が弱い夏のために、超低温で冷凍した状態の良い冬場の鮪を提供したりもしてる。
なお、10年前くらいから流行っている熟成鮨は、この日数を超えてさらに寝かせたものになる。有名な㐂邑さんは、鰆を1ヶ月寝かしたりしている。他の店でも、烏賊を1週間寝かせたりとか。熟成鮨は、味わいが通常の魚と変化しており、それが良いときもあれば悪いときもある。食感は柔らかくなり、香りはやや特徴的なものになる。個人的には一部の大型魚を1ヶ月程度寝かせた物は時折食べる分には素晴らしいが、2ヶ月寝かせた物はダメだった。
3. 鮮度が極限に良い瞬間が最高で、その次は寝かした方が美味しいもの
例外的な存在ではあるが、ピークが採れ立てと、寝かし後の2回あるものがある。例外的な取り扱いなので、何の魚でどこで食べられるかは秘密。漁場の良さ、漁師さんの釣り・締めの技術による特殊な魚となる。これは当日関西で採れた物が東京の夜に提供される速度で輸送されるので、産地からの距離は関係ない(もちろん関西でも食べられている)。
シャリについて
地方と東京で、はたまた名店と他の店でもっとも違うのがシャリのレベルになる。
シャリは4つポイントがある。
1.酢のきかせ方
基本的にいい魚は(同種の安い魚と比べて)味が強いため、ある程度シャリに味が求められる。回転寿司ではネタと食べやすさとのバランスで、ほとんど酢を効かせていないシャリだが、良い鮨屋は強く酢が効いている。特にこの20年は赤酢で酸味と旨味を強くしたシャリが流行り、回転ずしにもその流行が及んだ。
2. シャリの硬さ
シャリを口の中でほどけさせるためには、コメの炊き方を硬くする必要がある。通常の白米と同様に炊飯すると、酢による水分追加もありべっちょりとしたシャリになってしまい、おいしくない。そのため、白米の時と比べて80~85%程度の水分量で炊飯する。この水分量、そしてコメの種類と粒の大きさによって、シャリの硬さが決まる。硬すぎるシャリはネタとの違和感生み出したり、咀嚼が疲れたりする。程よい硬さが求められる。
3. シャリの温度
冷たいシャリにつめたいネタ、というのはもはや一昔前の鮨となっている。適温のネタ、適温のシャリのほうが、冷たいものより遥かにおいしい。30~45度のシャリで握り、出されたものをすぐ食べるのが良い。
これはオペレーションが大きく問題となり、ネタ毎に適温のシャリを提供するのは、シャリをもとにスケジューリングする必要がある。お店が流れをコントロールするおまかせコースでしか実現できない。
地方の鮨屋、東京の昔ながらの鮨屋のシャリは基本的に冷めており、コメとネタのポテンシャルを生かせれていない。
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4. 握りの技術
良く握り手によって味が違うといわれるが、実際どうかというと、かなり異なる。口の中でのシャリのほどけ方、ネタとの馴染み・バランスが大きく異なる。同じ店・シャリでも、大将の握りだと全て食べられたが、二番手の握りだと途中でお腹いっぱいになったというケースもある。
なお、個人的な所感としてはシャリが上手く炊けていれば、握りのレベルが低くても美味しさはかなり高まる。これはシャリは美味しいけど、握りはさしてうまくない自分で握っていて、かなり実感している(笑)。パラっとチャーハンとおなじで、技術に頼らずにある程度の握りは実現できる。名人と呼ばれる人は、良いシャリのポテンシャルを引き出している。
鮨に期待するポイント
魚、シャリがそろって握られて出される鮨だが、魚は色々と仕事がなされる。この仕事の多さが江戸前寿司の特徴ともいえる。
小肌は適度な酢締めをし、鮪は場合によっては隠し包丁を入れたり剝がしたり瞬間的にヅケたり、平目は適度な期間寝かし、牡蠣は酢絞めして握り、車海老は提供タイミングめがけて茹で上がり温度・時間を計算して完璧な火入れをする。
刺身をご飯に乗せただけ、ではなく、手を入れることでより魚のポテンシャルを引き出すことができる。
もちろん握りに入る前のつまみも、白子のすり流しだったり、アンキモだったり、自家製からすみだったり、創意工夫をしながら用意がされている。
一通り終わった後の玉は各店の特徴の見せ所でさり、またよくリクエストされる干瓢をいちから仕込むのは大変だ。
こうしたより魚の良さを出す仕事が行われたネタと、シャリが合わさり、鮨となる。
ネタがいいか、どうその良さを出しているか、シャリは良いか、シャリとの合わせは良いか、季節感があるか、新しさがあるか、面白さがあるか、そうしたことを期待して食べる。
コースに期待するポイント
僕は白身や烏賊が好きなので、ずっと白身・烏賊だけ、味付けも塩酢橘やポン酢といった流れも大歓迎なのだが、一般的には違うだろう。
鮨単品は当然として、それをより楽しめるよう仕組まれているコースの流れも重要になる。何品かつまんだ後に握りに入るのか、つまみと握りが交互に出るのか、最初から最後まで全て握りなのか。
味わいも、五味やネタの強さをどう捉えて構築するのか。やや弱いネタを、どう美味しく感じてもらえるような位置に配置するのか、特別良いネタを、どう魅せるか。
流れが単調にならないよう、メリハリを効かせながら、クライマックスへと盛り上げていく。コンサートのセトリと同じで、構成の上手さを期待する。
酒の評価ポイント
日本酒もやはり評価されるポイントで、レアな酒があるか、抜本的に料理に合うか、当然酒が美味しいか、酒器が良いか、見られることになる。
十四代祭りを売りにする店もあれば、酒は1種類のみで料理に集中を促す店もある。
個人的には熱燗が好きなので、燗酒の種類、燗の温度、提供までのスピード、土の器があるか、などなどが気になるところ。
ワインを出す店もあるが、その話をすると長くなるので割愛。
価格について
まず、悲しいことに銀座の3万の鮨屋でも美味しく無い店はある。また(おまかせでなく、メニューを注文する)有名な鮨屋でも、注文の仕方で出てくるものが変わり、然るべきメニューを注文しないと最上のものが出てこないこともある。これはどの価格帯でも同じことだが、当りと外れがあるのだ。5000円で美味しい店が、3万円の微妙な店より美味しいことはある。ただ、それは比較がおかしいだけで、比べるべきは5000円で美味しい店と、3万円で美味しい店だ。
鮨屋の価格が、高級フレンチ等と比べても高いのは、雲丹と鮪の仕入価格の問題が大きい。
やま幸さんの鮪、ハダテの雲丹などが美味しいが高い。
ピンの鮪の原価は安定して1貫1200~2500円程度かかる。赤身中トロ大トロの3貫合計で3500~7500円。
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雲丹弁当箱1箱で15万。ここから24貫程度握るので、6250円が原価。
まあこれはピンのピンだが、通常の雲丹でも1500~2500円が原価となる。
こうして雲丹と鮪だけで、原価が5,000~14,000円程度かかり、原価率50%(一般的な飲食は20~30%で、鮨屋は30~50%)と高くしても1~3万円が請求額になる。
ピンのピンを食べて支払が3万というのは、店としては赤字状態なのだ。
他、鮑、赤貝、キンキ、新子、新烏賊、喉黒、カラスミあたりが高いネタ(つまみ)となる。
白トリュフとキャビアは知らん。
なお、12月はネタの状態がピークになり、正月相場直前はまだ平和なので、コスパを考えるとクリスマスは鮨が正しい。
鮪や雲丹が何故ここまで高いかというと、漁獲量の低下(漁師さんの超高齢化と資源)と、鮨需要の拡大という分かりやすい需給バランスの影響となる。
週5日フレンチはしんどい人が多いが、週5日鮨は大丈夫な人は多いのが需要拡大の要因とも言える。
銀座の鮨屋が高いのは土地代という話があったが、些か的外れだ。
3万の鮨屋の広さは基本的に15坪前後で、銀座の坪単価4万を鑑みると60万が家賃となる。
売上は 8席×1日2回×26日営業×席100%(空席無し)×3万=1248万
となるので、60 / 1248 = 4.8%が売上に占める家賃額となる。
地方の5000円の鮨屋は、25坪前後の店が多いと思われ(小さい物件があまりない)、坪単価は5000円なので、12.5万が家賃となる。
売上は 18席×1日2回×26日営業×席70%×0.5万=327.6万
となるので、12.5 / 327.6 = 3.8% が売上に占める家賃額になる。
ということで、銀座だと4.8%が家賃の味、地方だと3.8%が家賃の味となり、違いは1%程度となる。
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人件費についても、席数よりスタッフが多いことは無いので、料理単価と席数を考えると、和食やフレンチほどはかかっていない(この2種類は席数よりスタッフが多いことがままある)。
なお、既に人気高級鮨屋があるのは銀座では無くなっている。
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雑な見方になるが、食べログの東京TOP20鮨店の中で、銀座に店舗があるのは僅か5店舗のみ。
美味しいものが好きな人は、どこに店があっても、美味しければ食べに行っている。
という訳で;
という訳で、ネタ、シャリ、鮨、コースの完成度や突き抜け度が鮨に期待しているものとなる。
自分の味覚の好みもあるので、それぞれにどう期待するかは個々人で違いがあるが、「地方の新鮮なネタが最高」というのは部分的には正しくとも、全面的に正解ではない。
かといって銀座の3万の鮨が最高でも無く、今は東京や地方の研究熱心な店が素材のポテンシャルとコースの完成度を追求していて、店毎に違う良さがあるのだ。
なお、(鮨でなく)鮎と蟹は完全に地方が正義である。うぐぅ。
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予約について
鮨需要が高まりすぎた結果、人気店の予約は極めて困難になっている。1月時点で2021年の予約が終了している店も多い。。。。。多いんですよ!
こうした中、いつでも予約が取れる美味しい鮨屋という存在は空想上の存在になりつつあるが、僕は何軒か知っているので全く困ってないし、なんなら自分で握るのでいつだって鮨が食べられる。
最新のSaaSでAWS※を実装済みですが何か?
※Sushi as a Service, Akami Wasabi Syari
追記;
>id:onionskin つまり鮪と雲丹を出さなきゃ値段抑えられるって話?
このブコメの指摘通り、鮪と雲丹を出さなければ、価格は抑えられる。
他のネタで高いと言っても、この2つほどは高く無いので、ピンを使ったとしても1.5~1.8万程度に抑えられると思う。
鮪メインの鮨屋があるので、白身・烏賊・貝類・青魚メインの鮨屋があってもいいと思うし行きたい。
ただ、やはり殆どの人には鮪と雲丹が必須なので、店が続けられるかどうかは難しいと思う。
以前、築地に白身尽くしを出すお店があった(閉店してしまった)。
恐ろしいことにネタの説明があったり無かったりするので、ハイレベルなブラインドテイスティング状態になることがあった。
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