『行為の意味』

一条真也です。

『行為の意味』宮澤章二著(ごま書房新社)を読みました。
もう1ヵ月も前からアマゾンで注文していたのですが、品薄で、やっと届いたのです。
「出発の季節」「前進の季節」「結実の季節」「黎明の季節」の4章に、77編の詩が収められています。この詩集の中の1編の詩が震災直後に民放テレビ局で大量に流されたACのコマーシャルで紹介され、ほとんどすべての日本人が目にしました。


                    青春前期のきみたちに


ブログ「AC大量CM」に書いたように、ACについては多くの人々が誤解し、筋違いの批判も見られました。仁科明子・仁美の母娘など、本当に気の毒でした。
わたしは、基本的にACが選んだCMは名作揃いだと思います。
でも、あまりにも大量のCMが放映されてしまいました。
そのため、何も知らない人たちのストレスを高めたことも事実です。


しかし、多くの視聴者の意見を聞くと、宮澤章二の「行為の意味」という詩を使った「見える気持ちに。」というCMだけは不快感が少なかったようです。
「だれにも『こころ』は見えないけれども、『こころづかい』は見える。『思い』は見えないけれども、『思いやり』はだれにでも見える」という詩ですね。
同じく、金子みすずの詩を使ったCMなども不快感が少なかったようです。
やはり、商業用のコピーライターが作った言葉よりも、金子みすず宮澤章二といった本物の詩人の言葉には魂に訴えるものがあるように思いますね。
その「行為の意味」という詩の全文は以下の通りです。



「行為の意味」


――あなたの〈こころ〉はどんな形ですか
と ひとに聞かれても答えようがない
自分にも他人にも〈こころ〉は見えない
けれど ほんとうに見えないのであろうか


確かに〈こころ〉はだれにも見えない
けれど〈こころづかい〉は見えるのだ
それは 人に対する積極的な行為だから


同じように胸の中の〈思い〉は見えない
けれど〈思いやり〉はだれにでも見える
それも人に対する積極的な行為なのだから


あたたかい心が あたたかい行為になり
やさしい思いが やさしい行為になるとき
〈心〉も〈思い〉も 初めて美しく生きる
――それは 人が人として生きることだ   (『行為の意味』「結実の季節」より)



この詩集に収められている詩のほとんどは、中学生のために書かれたものだそうです。
著者は、小中高約300校の校歌を作詞した人です。
また、埼玉県の中学生のために、ある教育関係の出版社が毎月発行している冊子に詩を書き続けましたが、それが、なんと30年も続いたというのです。
中学生のために、毎月、30年間も詩を書き続ける・・・・・こんな人は、日本の詩人の中でも宮澤章二ただ1人でしょう。
それで、本書の副題は「青春前期のきみたちに」となっているわけです。
人生のスタート地点に立ったばかりの読者を想定している宮澤章二の詩は、「人間としての基本」を教えてくれるものが多いです。
たとえば、「原点について」という詩は、基本中の基本を教えてくれます。



「原点について」


鳥が鳥である 原点
それは つばさを持ったこと
魚が魚である 原点
それは 水中に生まれたこと


ぼくらは ぼくら人間の原点について
一度でも考えてみたことがあるか・・・・・・


鳥たちは つばさを持ったから 飛ぶ


魚たちは 水中に生まれたから 泳ぐ


ぼくら人間は 直立する人類として
生き 歩く その意識を初めから持った


――歩いていこう 生きていこう
それが 意思する人間の原点であるなら
ぼくらは 常に その原点に立とう   (『行為の意味』「出発の季節」より)




人生には希望が必要です。でも、人生は楽しいことばかりではありません。
逆に、つらいこと、苦しいことが多いのが人生でもあるのです。このたびの東日本大震災で甚大な被害を受け、今も避難所での生活を強いられている人々がいます。
岩手県出身の詩人・宮沢賢治は「雨ニモマケズ」を書きましたが、宮澤章二は「耐える」という詩を書きました。



「耐える」


風や雨に 耐える
長い時間に 耐える
すべて 耐えることの意味の深さ


自然は決して急ぎはしない
冬が終われば 春が来て
草木 おのずから 花ひらき・・・・・・


春はまた つぎの夏を招き


大木に透明の樹液は流れつづけて
新緑となり 茂る青葉となり
とだえるものなど なにひとつない

急ぐことなく 耐えて
耐えながら おのれを鍛えて
そこに初めて開ける 真新しい風景よ
私たち一人一人に 成長の重さを 語れ   (『行為の意味』「出発の季節」より)




人生は、「別れ」に満ちています。
そのことを若い人たちは、まだ知りません。
人生とは、新しい出会いの連続であると思っていることでしょう。
しかし、これから多くの大切なものを失い、「小さな死」を繰り返していくのが人生です。
東日本大震災でも、多くの「別れ」があり、愛する人を亡くした人たちが生まれました。
「ほんとうの決別は 一生に一度しかない」という言葉が心に沁みます。



「別れの季節」


〈成長したね〉という言葉に うそはない
〈これからだね〉というのも 正直な言葉


〈がんばれよ〉と励ましてくれる言葉を
素直に信じて 前進を心に誓う季節
――人の好意を その時疑ってはいけない


季節がめぐむ心の躍動は 本物だ
別れの握手も なみだも みな本物だ


だから 春の光に 濁りなく輝く


美しい別れを 幾たびも繰り返しながら
強く 健やかに育ってゆく 私たちの精神


ほんとうの決別は 一生に一度しかない
その日まで 着実に歩みつづける決意を
たくさんの 新しい出会いが飾ってくれる   (『行為の意味』「前進の季節」より)




「別れの季節」の後には、「出発の季節」があります。
そう、3月の卒業式の後には、4月の入学式があるのです。
これから輝かしい人生が待っている少年たちは、未来への希望にあふれています。
そんな希望を描いた詩が「出発の季節」です。
これは、東日本大震災の被災者への「魂のエール」にも思えます。



「出発の季節」


言葉の持つ ふしぎな響き
たとえば――出発
なんという明るい匂いだろう


けれど 遠いむかし
暗い響きを帯びる出発もあった


この地球が砲煙弾雨に包まれた日だ
――ひとびとは死への道を出発し続けた


出発 という心打つ言葉に
いつでも 明るさを持たせたい
さわやかな喜びと光を担わせたい


未知なるもの に向かう道を
四月 あなたが出発する
わたしも 花を求めて出発する
目立たぬ草木にも 春は花を恵むのだ   (『行為の意味』「出発の季節」より)




このように、この詩集に収められている詩は、まさに今読まれるべきものばかりです。
まるで、これらの詩が被災者の人々のために書かれたような錯覚さえしてきます。
30年間も、ひたすら中学のために詩を書き続けた宮澤章二
しかし、「まえがきにかえて」で、著者の息子である宮澤鏡一さんは、「中学生ばかりでなく、老若男女、世代を問わず、たくさんの方々に読んでいただければと思います」と書かれています。不幸な大震災あってのことだとはいえ、宮澤章二の「行為の意味」の一節をあらゆる日本人が知ったことは、今後の日本人の「こころ」にとって大きな意味があったのではないかと思います。
そう、「だれにも『こころ』は見えないけれども、『こころづかい』は見える。『思い』は見えないけれども、『思いやり』はだれにでも見える」という真理を数日間で全日本人が知ったのです。それを「快挙」と呼んでも、けっして不謹慎ではないと思います。



鏡一さんは「あとがきに代えて〜使命」で、亡き父について次のように述べます。
「詩人は いつも自分の死に様を考えていた
 人は必ず死ぬ
 だから 死に際は取り乱すまい
 詩人は いつもそんな思いを抱いて生きてきた」
また、父である詩人は、「人間なんて、なんのことはない。死んであの世とやらに行ってしまえば、それで終わりだ」と考えていたのではないかと述べています。
では、宮澤章二の心情は奈落にあったのでしょうか。
もちろん、そんなことはありません。
詩人は、死んであの世に行くまでの心構えをきちんと言葉で残してくれました。
その言葉は、本書の巻頭詩「君たちが歩くとき」の最後にも残されています。
それは、次のような言葉です。
「君たちが歩くとき 
 君たちは一人ではない
 隣りにも 前にも 後ろにも
 同じ道を歩く仲間がいる
 互いに支え合う仲間がいる」
これは、まさに『隣人の時代』(三五館)のメッセージと重なります。
大震災後に注目を浴びた詩人・宮澤章二は、「隣人の時代」の宣言者だったのです! 


2011年4月22日 一条真也

守礼企業をめざして

一条真也です。

ブログ「中部紫雲閣竣工式」で紹介しましたように、今月の19日(火)に沖縄県沖縄市にわが社の新しいセレモニーホール「中部紫雲閣」が完成しました。
正式なオープンは25日(月)ですが、それに先立って館内見学会を開催します。


                  「琉球新報」4月22日朝刊


本日の「琉球新報」「沖縄タイムス」という沖縄を代表する2大新聞に、その全面広告が掲載されました。「中部紫雲閣」の館内見学会は、23日(土)・24日(日)の午前10時〜午後6時まで開催されます。
その内容は、空くじなしの豪華抽選会、青空野菜市、ふっくらパン販売会、花木コーナー、屋台コーナー(沖縄そば・ポップコーン・わた菓子・かき氷)、冠婚通過儀礼コーナー、互助会相談コーナー、無料の行政書士コーナー(日曜のみ)・・・・・と、盛りだくさん!
抽選で20名様に拙著『隣人の時代』(三五館)もプレゼントいたします。
多くの方々のご来館を心よりお待ちしております。



中部紫雲閣」は建物も大きく、駐車場も非常に広いので、今後もさまざまなイベントを開催する予定です。ぜひ開きたいのが、「隣人祭り」です。
中部紫雲閣」の隣は嘉手納基地ですが、騒音問題などで米軍と近隣住民の仲は良好とは言い難いとのこと。ならば、わたしたちが「隣人祭り」を開催して、近所の方々もアメリカさんも一緒に招待したいと考えています。
それによって、両者の関係が少しでも良くなれば、こんなに嬉しいことはありません。


                 「天下布礼」の旗を持って


わが社のミッションは「人間尊重」です。それは「礼」ということでもあります。
サンレーグループは、人間尊重思想を世に広める「天下布礼」によって、人間関係を良くするお手伝いをしたいと願っています。
「礼」といえば、沖縄は「守礼之邦」と呼ばれます。
本来、琉球王国宗主国であった明に対して忠誠を尽くすという意味だったそうです。
しかし、わたしは沖縄が「礼」すなわち「人の道」を守る王国であることを示している思っています。なぜなら、沖縄ほど「人の道」を大切にしている場所はないからです。



かつての日本社会には「血縁」という家族や親族との絆があり、「地縁」という地域との絆がありました。日本人は、それらを急速に失っています。
その結果、「無縁社会」なるものが到来してしまいました。
では、わたしたちが幸せに生きるためには、どうすべきか。
何よりも、先祖と隣人を大切にすることが求められると思います。
沖縄の人々は、日本中のどこよりも先祖と隣人を大切にします。



大切にするのは先祖と隣人だけではありません。
「いちゃりばちょーでい」という言葉は、「一度会ったら兄弟」という意味です。
沖縄では、あらゆる縁が生かされるのですね。
まさに「袖すり合うも多生の縁」は沖縄にあり!
「守礼之邦」は大いなる「有縁社会」でもあるのです。 
すべての日本人が幸せに暮らすためのヒントが沖縄にはたくさんあります。
わたしは、この沖縄から日本を再び「有縁社会」にしたいです。


                    おきなわの力。守礼の心。


2005年8月15日、終戦60年周年の日、わが社は「琉球新報」に広告を出しました。
「おきなわの力」「守礼の心」というコピーで、沖縄から世界へ平和のメッセージを発信。
世界遺産である首里城の「守礼門」が初めて民間企業の広告で使われたそうです。
来年、沖縄が本土復帰してから40周年です。
再来年、サンレー沖縄も40周年を迎えます。
今年から「守礼之邦」に本社を移転したサンレー沖縄は、「守礼企業」をめざします。
わたしは、沖縄より東北の地へ向けて、次のような短歌を詠みました。
「くじけずに なんくるないさ言ふこころ いま沖縄(うちなー)が大和(やまと)を救ふ」  


2011年4月22日 一条真也

東京自由大学イベント

一条真也です。

スターフライヤーの夜行便に乗って、東京に到着したところです。
明日、中野で開催されるイベントに参加するためです。
NPO法人東京自由大学が13年の活動の総力を結集して、「シャーマニズムの未来〜見えないモノの声を聴くワザ」というシンポジウムを開催するのです。



ブログ「東京自由大学講義」にも書きましたが、わたしも同大学には縁があります。
ちょうど3ヵ月前の1月22日には特別講義をさせていただきました。
同大学の理事長の鎌田東二氏によれば、明日のイベントでは、震災で亡くなられた方々への鎮魂の思いと未来への想像力・創造力のありようを問いかけるとのこと。
基調講演予定者の佐々木宏幹先生(81歳)は、被災地宮城県気仙沼曹洞宗の寺院のご出身です。シンポジウムの詳細は以下の通りです。



NPO法人東京自由大学2011年度特別企画シンポジウム
   「シャーマニズムの未来〜見えないモノの声を聴くワザ」
日時:4月23日(土)13:00〜17:30
会場:なかのZERO 小ホール(西館) *JRまたは東京メトロ東西線中野駅
南口から徒歩8分
参加費:当日3500円 前売3000円 (学生は当日2500円 前売2000円)

第1部:The Butoh13:00〜13:45
   「モノ降りしトキ」大物主の神を祀る日本最古の聖地・三輪山の麓で育った麿赤兒の原体験を元に、鎮魂の思いとともに・・・
   舞踏:麿赤兒(舞踏家・大駱駝艦主宰)&大駱駝艦
   音楽:新実徳英(作曲家・桐朋学園大学院大学教授)
       鎌田東二

第2部:シンポジウム14:00〜17:30
基調講演:「シャーマニズムのちから」佐々木宏幹(駒澤大学名誉教授)
パネルディスカッション:パネリスト:小松和彦国際日本文化研究センター教授)
                   鶴岡真弓多摩美術大学教授)
                   松岡心平(東京大学教授)
                   岡野玲子(漫画家)
           コメンテーター:麿赤兒新実徳英大重潤一郎
                司会:鎌田東二



このブログを読まれている方で、関東周辺にお住まいの方は、明日ぜひお越し下さい。
こんな豪華メンバーは、もう2度と集まらないかもしれません。
日本人の「こころ」の方向性を変える画期的なイベントになる予感がします。


                  「ムーンサルトレター」第69信


なお、先程、新しい「ムーンサルトレター」がUPされていました。第69信となりますが、ここでもTonyさんが明日のイベントにかける意気込みを熱く語られています。
明日、みなさんと「なかのZERO」小ホールでお会いできることを楽しみにしています。


2011年4月22日 一条真也