覚え書:「文化の扉 今ウケるバブル文化 自由に生きる女性・寛容さ、社会にあった」、『朝日新聞』2017年05月14日(日)付。

Resize7192

        • -

文化の扉 今ウケるバブル文化 自由に生きる女性・寛容さ、社会にあった
2017年5月14日


バブル文化<グラフィック・高山裕也>
写真・図版
 日本がバブル景気に沸いた1980年代後半から91年ごろ、華やかな衣装で自由を謳歌(おうか)する女性に象徴される「バブル文化」が栄えた。最近、当時を再現するアイドルが現れるなど復活の兆しがある。何が魅力なのか。あの時代の功罪とは。

 お立ち台で踊っていた女性のようなボディコン姿の地下セクシーアイドログイン前の続きル「ベッド・イン」の益子寺かおりさん(31)と中尊寺まいさん(29)。懐かしの縦長8センチシングルCDなどを発売後、昨夏アルバム「RICH」でメジャーデビューした。

 自分たちで作詞した歌は「触れあう指 ラブストーリー 突然に」「現実など見せないで 女優(アクトレス)のままで 抱いて」とバブル期の香りが濃厚だ。

 しかし、バブル期はまだ幼少だったから、当時のテレビドラマをビデオで見るなど、バブル文化は後から学んだという。

 「アッシー、メッシー、舘ひろし」などバブル期の事象をネタにするお笑い芸人の平野ノラさんも38歳だ。

 ベッド・インの2人は、「女性が自らの欲望も隠さず強く自由に生きられた時代。でも今は浮かないようにと周りの目を気にする。私たちはあの時代に敬意を抱いている」と話す。

 女性に贈る定番だったティファニーのオープンハートも人気が再燃。同社広報部によると、同社で働く女性を主人公にした昨年のTBSドラマの効果もあり、昨年の販売数量は前年の2倍超になったという。

 今年2月に始まった「プレミアムフライデー」も東京都内のホテルが高級車メルセデス・ベンツで六本木での「夜遊び」に送り出す宿泊プランを用意するなどバブル消費の気配がある。

     *

 バブル文化は若者の恋と切り離せない。CMでは遠距離恋愛の切なさを描いたJR東海の「シンデレラ・エクスプレス」が、映画では「私をスキーに連れてって」がヒットした。

 『バブル文化論』を著した哲学者の原宏之さんは「86〜91年ごろの好景気を背景とした大衆文化」とバブル文化を定義。90年にバブル経済は崩壊するが、91年にディスコ・ジュリアナ東京が誕生している。

 マスメディアの影響力が強く特にフジテレビが牽引(けんいん)した、と原さんはみる。警察と学校がそれぞれ舞台のドラマ「君の瞳をタイホする!」「愛しあってるかい!」は恋愛という非日常を軽妙に描いた。プロデュースした大多亮常務は「ドラマの主題で低い地位にあった恋愛を中心に据えるのは挑戦だった」。

 大多さんは91年の「東京ラブストーリー」もプロデュース。恋人に「カンチ、セックスしよっ!」と呼びかける赤名リカ(鈴木保奈美)に世の男性はほれ込み、女性は共感した。「リカはいびつで不器用で孤独。でも前向きに生きていく。だから視聴者も感情移入したのでは」

     *

 バブル時代の功罪は何か。今年1月、ドラマの原作漫画の25年後を描いた『東京ラブストーリーAfter25years』を発表した柴門ふみさんは「ずっとあこがれだった欧米文化を取り込み、作品に結実。コンプレックスも消化できたのがバブル期」と話す。ただ文化が画一的で、東京に偏在していた面もあるという。「ワンレンなど皆が同じファッションだった。ネットもなく地方では見たい映画は来ないし本も限られていた」

 原さんは「メディアの指南を頼りに誰もが分かるブランド品に殺到する。バブル文化にはある種の貧しさがつきまとった。ただ、狭量な空気があふれる今より、寛容さが社会にあった。だから当時の社会と文化を人は懐かしく思うのでは」と話す。(赤田康和)

 ■無駄を遊べた時代 作家・演出家、鴻上尚史さん

 あれほどのバブル景気は二度と来ない。今から見ると不可能な世界。芸人やアイドルがバブル文化をネタにするのは、そういう不可能さを揶揄(やゆ)するのが面白いからでしょうね。

 消費者の側はみんなお金があったから面白いものを探す貪欲(どんよく)さがあった。作り手にとっては色んな試行錯誤ができ、無駄を遊べる時代だった。未来に希望が持てる時代だったから、ハッピーエンドじゃなくても良かった。感動的なシーンに笑える歌を流すとか、そういう両義性や不条理さを楽しんでもらえた。

 作・演出をしていた劇団「第三舞台」は何万枚ものチケットが15分で完売。異常な人気沸騰ぶりに実は困っていました。劇場に来るだけで舞い上がっている観客がオチを聞かずにフリのところで笑っちゃう。ビールと焼き鳥を片手に見る客も。作り手としてはむしろ手応えが感じられない。冷めた気分でした。

 公開中のハリウッド映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」の原作漫画『攻殻機動隊』が生まれたように、世界に発信されるアニメやマンガが生まれた時代でもありました。

 <楽しむ> 『気まぐれコンセプト完全版』(小学館)はホイチョイ・プロダクションズによる4コマ漫画を1981〜2015年の35年分まとめた。バブル文化とその後の日本を笑いながら「追体験」できる。柴門さんの『東京ラブストーリー』は25年後の続編と共に小学館刊。

 <調べる> 原宏之さんの『バブル文化論 〈ポスト戦後〉としての一九八〇年代』は慶応大学出版会刊。80年代の社会と文化を知るには『1980年代』(斎藤美奈子成田龍一編著)がおすすめ。大澤真幸白井聡高橋源一郎の各氏らが鼎談(ていだん)などで登場。

 ◆「文化の扉」は毎週日曜日に掲載します。次回は「切手収集」の予定です。ご意見、ご要望はbunka@asahi.comメールするへ。
    −−「文化の扉 今ウケるバブル文化 自由に生きる女性・寛容さ、社会にあった」、『朝日新聞』2017年05月14日(日)付。

        • -


http://www.asahi.com/articles/DA3S12936447.html


Resize7070


Resize6647

覚え書:「書評:<ものまね>の歴史 石井公成 著」、『東京新聞』2017年07月30日(日)付。

Resize7193


        • -

<ものまね>の歴史 石井公成 著

2017年7月30日
 
◆笑い芸の原形たどる
[評者]下川耿史=風俗研究家
 テレビタレントのコロッケらの人気からも分かるように、日本でものまねは一つの独立した芸として認知されている。
 そのルーツはどこにあるか。本書によると、釈迦(しゃか)が生まれたのは紀元前五世紀頃だが、その誕生祝いでものまねが演じられた。以後、中国や朝鮮、日本などでは仏教をベースとした笑いの芸として、ものまねが発達してきたという。
 伝承された法話の中には、ニワトリの鳴き声の上手な盗賊がいて、彼の鳴きまねを本物と間違えた門番が門を開けたため一味が逃走したといった話もあり、修行者が慎むべき戒律の一つとされたが、ものまねはその壁を越える形で次々と新しい笑いの芸を生み出してきた。この傾向は日本ではとくに顕著で、平安時代に始まる猿楽や南北朝時代狂言も、ものまねの中から芽生えた笑いの芸である。
 江戸時代の初期にスタートした歌舞伎は、ものまね芸の頂点の芸だと著者はいう。その頃、<おくに>という若い女性が乱世のアイドルだった<かぶき者>をまねした踊りを創始して大評判となった。元禄時代になると、庶民の間に仏像めぐりが流行したが、歌舞伎の世界はさっそく仁王様や不動様の目を剥(む)いた姿を取り入れて人気を博した。これがいわゆる「見得(みえ)」の原形となったのである。
 神仏や生き物を巧みにまねる芸能の今に伝わる興味深い源流と開花が分かる。
吉川弘文館 ・ 1944円)
<いしい・こうせい> 1950年生まれ。駒沢大教授。著書『聖徳太子』など。
◆もう1冊 
 釈徹宗著『落語に花咲く仏教』(朝日選書)。宗教と芸能の歴史をたどりながら、落語に展開された仏教の要素を紹介。
    −−「書評:<ものまね>の歴史 石井公成 著」、『東京新聞』2017年07月30日(日)付。

        • -




http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2017073002000200.html



Resize6648


覚え書:「書評:ゼンマイ 戌井昭人 著」、『東京新聞』2017年07月30日(日)付。

Resize7194

        • -

ゼンマイ 戌井昭人 著

2017年7月30日
 
◆魔術的な時への誘い
[評者]清水良典=文芸評論家
 かつては縁日や祭に見世物小屋が立って、おどろおどろしい看板で怪しく誘惑したものだ。そんな風物がまだ健在だった一九六七年に、フランスから日本にやってきたグランギニョールすなわち見世物興行一座「ジプシー魔術団」に、「ハファ」という不思議な女がいた。頭にリンゴを載せて歩くうちに体が小さくなっていった。さらに小鳥のさえずりのような声で意思を通じたという。当時一座の運転手をしていて彼女と深い仲だった男が、現在七十七歳になっていて、彼女の行方を捜しにモロッコへ行こうとしている。その同行を頼まれたのが三十七歳のフリーライターの「わたし」である。
 ハファから貰(もら)ったネジを巻くだけのゼンマイの小箱を、男は今も魔除(まよ)けになると信じて大事にしている。巻けばジリジリと音を立てるこの小道具が、本書の物語的な時間を一貫して支えている。驚異と官能の混じった世界に、扉を開けて誘う呪文のささやきのようだ。
 幻の女ハファへの男の深い思い入れは、現代の私たちが手放してしまい、二度と出会えないかもしれない魔術的な時間への郷愁に満ちている。そしてすっかりバネが緩んで持ちが短くなったゼンマイは、遠い幻の母の形見のようだ。本書を読み終わったあと、異世界の呼び声は私たちの心の内でジリジリと小さな音を立て続けることだろう。
集英社 ・ 1404円)
<いぬい・あきと> 1971年生まれ。小説家・劇作家。著書『どろにやいと』など。
◆もう1冊 
 戌井昭人著『まずいスープ』(新潮文庫)。父が失踪した後の母や家族を描いた表題作をはじめ、三篇の作品集。
    −−「書評:ゼンマイ 戌井昭人 著」、『東京新聞』2017年07月30日(日)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2017073002000201.html








Resize6649


ゼンマイ
ゼンマイ
posted with amazlet at 17.09.04
戌井 昭人
集英社
売り上げランキング: 170,563

覚え書:「書評:長編マンガの先駆者たち 小野耕世 著」、『東京新聞』2017年07月30日(日)付。

Resize7195

        • -

長編マンガの先駆者たち 小野耕世 著

2017年7月30日
 
◆戦後の複雑な流れ 伝える
[評者]清水勲=漫画・諷刺画研究家
 著者は私と同じ昭和十四(一九三九)年生まれで共に東京育ち。少年期の長編マンガ読書体験をもとに、作品のマンガ史的意味と作家に対する思い入れを語っている。とくに著者が昭和二十年代前半における長編子どもマンガのリアルタイム読者であったことは、戦後マンガ創成期の複雑な実像を若い世代に伝える意味を持っている。
 著者の父・小野佐世男(させお)は漫画家・挿絵画家だったから献本・献誌がおびただしく、普通の家庭よりマンガを見ることに恵まれていたようだ。なかでも著者は雑誌マンガを豊富に読める環境にあったように思える。たとえば、本書の松下井知夫は、当時の私はほとんど見たことのない作家であった。逆に謝花凡太郎(しゃかぼんたろう)は私の好きな作家だったが、本書では触れていない
 共に熱中したのは横井福次郎だろう。三章分も使って熱く語っている。代表作は「ふしぎな国のプッチャー」「冒険ターザン」など。マンガに「カッコ良さ」があり、超人気となった。昭和二十三年末、三十六歳で早世したとき「七十社以上の出版社と仕事をしていた」という。手塚治虫が脚光を浴びる直前、最も輝いていた人であった。
 本書でちょっとわかりにくいのは、「長編子どもマンガ」と「長編大衆マンガ」の流れである。前者のスタートは大正六(一九一七)年、岡本一平が児童雑誌『良友』に連載した「珍助絵物語」。それを継いだのが、弟子の宮尾しげを(「団子串助漫遊記」など)であり、「のらくろ」に代表される講談社マンガ、「火星探険」に代表されるナカムラマンガである。「長編大衆マンガ」は大正七年の近藤浩一路「漫画坊っちゃん」(新潮社)からスタート、岡本一平「人の一生」(『婦女界』大正十三〜昭和四年連載)を経て、「現代連続漫画全集」につながる。
 長編マンガが活動写真、映画(トーキー)、アニメと共に二十世紀の一大エンターテインメントになっていく出発点を、本書は詳細に紹介している。
岩波書店 ・ 3672円)
<おの・こうせい> 漫画評論家。著書『アメリカン・コミックス大全』など。
◆もう1冊 
 四方田犬彦著『漫画のすごい思想』(潮出版社)。佐々木マキ岡田史子つげ義春タイガー立石らの漫画が何を訴えてきたかを探る。
    −−「書評:長編マンガの先駆者たち 小野耕世 著」、『東京新聞』2017年07月30日(日)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2017073002000202.html


Resize6650


覚え書:「折々のことば:750 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年05月11日(木)付。

Resize7196

        • -

折々のことば:750 鷲田清一
2017年5月11日

 バラをかけがえのないものにしたのは、きみが、バラのために費やした時間だったんだ

 (サン=テグジュペリ

     ◇

 心通わせたバラに思いをはせつつ、「『なつく』って、どういうこと?」と問う王子に、キツネは「ほかの誰ともちがうきみの足音が、わかるようになる」ことだと言う。人が誰かの思いの宛先であり続けているということ、つまり、自分は誰かに気遣われている、忘れ去られていないという感覚が、その人の存在を代わりのきかないものにする。「星の王子さま」(河野万里子訳)から。
    −−「折々のことば:750 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年05月11日(木)付。

        • -


http://www.asahi.com/articles/DA3S12931210.html





Resize7071

Resize6651


星の王子さま (新潮文庫)
サン=テグジュペリ
新潮社
売り上げランキング: 591