ゆっくり通読する晩年は来ないもんだろうかと念じていた本がある。そんな時期がやって来ることはない。 若き日、北村透谷に眼をつけていた時期がある。読返せば、今でも懐かしいし感心する。教えられる。 諸家の透谷研究にも眼を通したいとの念願を立てた時分もあったが、しょせん私ていどの学識では無理と諦めた。集めかけた書もだいぶ前に手放した。わずかに残ったのは勝本清一郎業績と平岡敏夫業績だ。 平岡敏夫さんとは、同人雑誌がらみの酒席で、一度だけお会いしたことがある。遥かに目上の先達だから、私から声をおかけする場面はなかった。素朴でユーモア溢れるお人柄で、旧知の同学がたから槍玉に揚げられたりする、昨今の若者言葉に…