Anna Kavan 1901−68 フランス生まれのイギリスの幻想文学作家。 ヨーロッパ諸国やカリフォルニアを転々として育つ。1926年ヘロイン中毒に陥り、作品中にその影響が現れていると言われる。 代表作『氷』について、B・W・オールディスは、そのSF史の名著『十億年の宴』の末尾を「『氷』 は唯一無比の作品だ」 という、熱烈な賛辞で締めくくっている。
『氷』 山田和子(訳) <バジリコ株式会社・2008・全面改訳・新版>
氷
『愛の渇き』 大谷真理子(訳) <サンリオSF文庫・1981> 『氷』 山田和子(訳) <サンリオSF文庫・1985> 『ジュリアとバズ−カ』 千葉薫(訳) <サンリオSF文庫・1981>
年代、場所、不明。 主人公は美術館で清掃員として働くライター志望の女性。 日々、もっと執筆に集中できる生活を送りたいと願う彼女は、裕福な男性と結婚することにより、念願の環境を手に入れる。 というのは、かなりざっくりしたあらすじ。 そこからまず私が興味を抱いたのは、この本、一体なにをもって”Indelicacy”なのか。 私はタイトルが持つ意味に好奇心をくすぐられ、読んでみることにしました。 Indelicacy by Amina Cain この”Indelicacy”という small quiet book、個人的にはとても好きな1冊でした。 Amina Cainはアメリカの作家ですが、とても…
アンナ・カヴァン『あなたは誰?』読み終わる。 「あなたは誰?」と、無数の鳥が啼く― 望まない結婚をした娘が、「白人の墓場」で見た熱帯の幻と憂鬱。 カヴァンの自伝的小説、待望の本邦初訳作品が登場! 今までに読んだアンナ・カヴァンの本の中で一番好みだと思ったわたしは異端でしょうか?? (全著作は読んでいなくて、読んだのは、『氷』、『ジュリアとバズーカ』、『アサイラム・ピース』の3作ですね。) この本もどうしようもない不安感と閉塞感、悪夢の迷宮にずっと囚われているような、それでいて皮膚から汗がじんわり滲み出てしまうような不快感も変わらずにあり、おまけに舞台が人を狂わせようと啼く鳥たちに囲まれた熱帯の…
『氷』【古書】 アンナ・カヴァン:著/山田和子:訳/ 筑摩書房/2015年3刷/文庫版 ¥450-(税込) bullock-books.stores.jp 前回はバラードの『結晶世界』でしたが、あの本を読んでいるとまっさきに思い出すのがこちら。アンナ・カヴァン『氷』です。 序文をSF作家のクリストファー・プリーストが書いているのですが、そこではバラードもカヴァンも”スリップ・ストリーム”というカテゴリーに入れられています。 その辺りの話はぜひプリーストの序文で。 氷がすべてを飲み込み、世界が終わりをむかえていく破滅の物語。 SF的な論理的整合性はなく、むしろ観念的な物語のように見えます。 主人…
タイトルの「見たこともないような美しく冷酷なものに、からめとられる」というのは、川上弘美さんによる解説の中にある言葉なのですが……言い得て妙。文庫版『氷』の帯にも使われているのですが、ずばりこの作品の異様さ、麻痺するような美しさ、残酷さが言い表されている絶妙な表現だと思います。 アンナ・カヴァンの『氷』……いや、この作品、本当にすごくて……私のこれまで読んできた本の中で、明らかにこの作品だけ頭抜けて異質。私の知る本すべてをジャンルごとにカテゴライズしたとき、『氷』は『氷』だけで一つのカテゴリーにせざるを得ない。それくらい、この本に似ている本というのを読んだことがない。 あらすじを簡単に述べると…
アンナ・カヴァン「アサイラム・ピース」(山田和子訳)のちくま文庫版の感想。 本書の章立ては次の通り: 母斑 上の世界へ 敵 変容する家 鳥 不満の表明 いまひとつの失敗 召喚 夜に 不愉快な警告 頭の中の機械 アサイラム・ピース アサイラム・ピースI アサイラム・ピースII アサイラム・ピースIII アサイラム・ピースIV アサイラム・ピースV アサイラム・ピースVI アサイラム・ピースVII アサイラム・ピースVIII 終わりはもうそこに 終わりはない 「鳥」までの短編は、理不尽さや息が詰まるような空気感を共有してはいるけれど、明らかな連続性はない。ところが「不満の表明」から様子が異なってく…
9月に読んだ本の感想です。 ちゃんと読み終わったのは3冊。 週末だけだとなかなか読書時間の確保が難しい…。 〇 「レイチェル」ダフネ・デュ・モーリア レベッカが面白かったので、こちらも読みました。あとはまだ読み終わってませんが短編集の「人形」もちょこちょこと読み進めています。 モーリアの作品は本当に物語のまとめ方がうまいというか、終わり方が美しいんですよね。 本作も、これって…本当はどうなんだ?という真実がわからない部分があるのに、結末はすっきりとした読み口。 レベッカとはまた違った、不穏で魅力のあるレイチェル、素敵でした。 〇 「歪み真珠」 山尾悠子 国書刊行会刊行の山尾裕子作品はほんとに装…
旅行にまつわる雑多な日記です。 購入品中心かも。 ホテルの内装、シックで好みでした。赤いカーテン良いですね。 気になっていた黒澤文庫というブックカフェ。時間の都合であんまりゆっくり出来なかったのですが、とても居心地が良くて読書が捗りそう。 ブラックローズというコーヒーのカクテルを注文したのですが、ラム酒きいてて美味しかった。 誠品生活で買ったゴッホのアイリスのブックマークと、丸善で買った「アサイラム・ピース」(アンナ・カヴァン)。 アサイラム・ピースは帰りの新幹線で夢中になって読みました。 誠品生活のP.Seven 茶香水で買った香水。 華やかな香りです。 お土産のお菓子たち。 いろんなお店に…
【あ】アーモンドの樹(ウォルター・デ・ラ・メア)アイオワ野球連盟(W・P・キンセラ)愛しているといってくれ(マージョリー・ケロッグ)愛の果ての物語(ルイザ・メイ・オルコット)青い花(レーモン・クノー)赤い高粱(莫言)赤毛のサウスポー(ポール・R・ロスワイラー)悪魔なんかこわくない(マンリー・ウェイド・ウェルマン)悪魔に食われろ青尾蠅(ジョン・フランクリン・バーディン)悪魔の収穫祭(トマス・トライオン)悪魔のベッド(ジャン・レイ)悪魔はぼくのペット(ゼナ・ヘンダースン)悪夢の化身アシスタント(バーナード・マラマッド)明日に別れの接吻を(ホレス・マッコイ)熱い太陽、深海魚(ミシェル・ジュリ)あっぱ…
連休の最終日。3日間毎朝ふだんと同様の時間に起き、総務課の者に言われたことを思い出しては腹が立ち、気がかりな仕事のことを思い出してはお腹が痛くなっていた。働き始めてからの2年間で身体ごと造りかえられたよう。 伽倻琴散調の旋律が甦える。曲がった左の人差し指に力を入れて絃を押えると、界面調の微妙な音が膝の上から滲み出た。だがまだ押え方が足りないと思いなおす。チニヤニジョ、チュンモリ、チュンジュンモリ――。旋律を追っていた私の目に白い蝶が映った。闇の中に白い蝶が飛んでいる。蝶は確かに暗い断層の中を翻えっていた。私は立ち上がり蝶の方に向かって歩いた。瞬く。すると蝶はすっと闇の中に消え、また小さくその姿…
シルヴィア・プラスの再読を始めた。『ベル・ジャー』から始まり短篇集に進み、いまは詩集を読んでいるが、このひとの詩は多彩な顔ぶれに訳されているので違いを楽しめる。ただまあ、叶うことなら全詩集の個人訳が刊行されてほしい気もする。 あるのはこの白壁 その上に空はおのずと広がる―― 果てしないみどり まったく手が届かない。 天使たちは漂い 星も 冷淡 これが私の媒体。 太陽は光を滴らせ この壁に溶けてゆく。 今度は灰色の壁 引っ掻かれて血まみれ。 逃れるすべはないの? 背後の階段は螺旋状に井戸へと続く。 この世界には樹も鳥もいない あるのはただ酸味だけ。 この鮮紅色の壁はしなり続ける 赤いこぶしが 開…
7月になったので、今年(2023年)の1月から6月までに読んだ本の中でのベスト10冊です。2023年に出版された本限定というわけではありません。下記になります。 2023年上半期に読んだ本ベスト10冊 ケイト・ザンブレロ『ヒロインズ』 moyoco.hatenablog.com moyoco.hatenablog.com 雛倉さりえ『森をひらいて』 moyoco.hatenablog.com トム・デミジョン『黒いアリス』 moyoco.hatenablog.com 奥山景布子『やわ肌くらべ』 moyoco.hatenablog.com フランシス・チャ『あのこは美人』 美容整形、生い立ち、学…
はじめに 評価は次のように行います。 まず、総評。S~Dまでの5段階です。 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース。 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。 D…読むだけ時間のムダ。ゴミです。 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレ…
// 徹頭徹尾、作中の「私」にとって大切な何かが切実さを滲ませる筆致で綴られており、読者の私は主人公とそれを共有できないので、目まぐるしく移り変わる情景に置き去りにされたままページをめくる。 そう、ずっと置き去り。 何かがその人物にとって大切なことだけは伝わるが、どんな風に大切で、また、いかにしてそうなったのかは語られず、示唆もされない。 アンナ・カヴァンの《氷》(山田和子訳)を読んでいた。 白い魔にほぼ閉ざされた世界の物語といえば、カヴァンと同じ英国出身の作家・セローの「極北」が私には身近だけれど、趣は全然違う。 いや、そもそも……と《氷》の内容を回想した。 原題も"Ice"なので言葉から受…
ランキング参加中読書 昨日とは打って変わって涼しいわね。 ちゃんと今日は動く格好フル装備で行くわ。 アームカバーではなくて上きちんと着ていきます。 氷アンナ・カヴァン バジリコ 2008年06月 < 楽天ブックスで探す Amazonで探す hontoで探す 紀伊國屋書店で探す 図書館で探す by ヨメレバ 少女と、世界の終わりと。 感想 おわりに 終 少女と、世界の終わりと。 どこまでも救いようのない世界。 戦争はありとあらゆる場所で起き、 天変地異も起きてありとあらゆるところが氷で覆われます。 どうあがいても差し迫ってくる世界の終わり。 一人の男はなぜか少女を追っていました。 だけれどもその…
楽天の購入履歴を遡るとだいたい月に1回のペースで古本を3~6冊まとめ買いしているのに気づく。 冊数に幅があるのは送料無料ラインに合わせるための調整である。 沖縄県とかいう地域で生まれ育つと「○○円以上で送料無料(沖縄県・離島を除く)」という言葉に何度歯ぎしりをしたか数え切れぬ。 運送業の人に充分なお給料と健やかな労働環境があらんことを願っています。これだけは言っておく。 でも浅ましいこと言うけど自分の出費は少ない方が良いじゃないですか正直。 そういう訳で送料無料になるようにと1回の買い物で数冊の古本を買いこむ。 まぁ一冊だろうが送料無料にしてくれる大変ありがたい本屋もあるのだけど、余程早めに欲…
買い物のついでにスターバックスへ行った。 モバイルオーダーで注文したストロベリーフラペチーノをいただく。 レジで注文する時にカスタマイズをお願いするのはなんとなく緊張するのだけど、その点モバイルオーダーはありがたい。 フラペチーノの類を飲む時、たいてい「ホイップクリーム少なめ」で頼んでいる。 ホイップクリームは重い。脂質が過積載。私の胃には耐えきれない。 でも「ホイップクリームなし」はちょっともったいない気がしてしまう。貧乏性である。だって別に「クリームなし」にしたってその分割り引かれる訳ではないんだもの。 そういう訳で「ホイップクリーム少なめ」と「チョコソース追加」でオーダー。美味しい。でも…
りこさん(@pistolstar_1742)がやっているのを拝見してやってみたくなった。 happyend-prologue.hatenablog.com 正直、100冊を選ぶのは苦心した。読書をしているわりにはそれほど影響を受けていないのかもしれないと感じるくらいには。 しかし、ここに挙げた100冊は間違いなく僕の人生に影響を与えたものであるし、人生の羅針盤になっている。だから同じような素材に集中してしまっているから、面白みはないのかもしれない。いわば「いかに生きていくべきか」という問題が中心にあるからだ。 室生犀星の詩に『初めて「カラマゾフ兄弟」を読んだ晩のこと』があるが、これらの100冊…
そこには花もない。春の風の吹き込む窓もない。あるものと言えばなにもない。薄茶色のカーペットの上を行ったり来たりする。ただヒソヒソ話のつもりなのか、空っぽの空間に響き渡る。部屋にずっといるのよ。全然出てこない。ただ歩いてる。一歩にも満たないその距離と重さが彼女の重心となる。唯一の紙に文字を書くことのできる固い台である小さな窓口で手紙を書く。そこはまだ部屋の中なのだけど。愛というには稚拙なラブレター。目標体重に達したら温泉旅行に行きたい。彼女はその部屋でダイエットしようとしていた。綺麗になるために。一度だけ行った温泉旅行が一番の思い出だったのかもしれない。疲れ切った男と、押し黙る彼女。静まり返った…