私は日本茶、特に煎茶が好きである。これは育ちの影響があると思う。育った家では1900年生まれの祖母が台所を仕切っていたので、紅茶も焙じ茶も飲まず煎茶ばかりが出されていた。少年時代を過ごした昭和三十年代には、紅茶もまして珈琲も飲む機会は希有であったのである。 暫くすると学生時代から通い始めていた京都で、まずは中京区寺町通二条上ルの「一保堂」へ足を踏み入れた。少なくとも明治か大正時代から変わっていない店の造りに圧倒されて、何を買ったか覚えていない。うながされるまま、宇治茶をありがたく買い込んで帰宅したのであった。 そして、横浜へ引っ越しして駅前の三越百貨店の地下に行くと、そこに「一保堂」があって驚…