奥泉光氏の新刊『虚傳集』(2025年、講談社)を読んだ。帯には「嘘も語れば実となる」とあるが、安土桃山時代から江戸時代にかけての空想上の人物を、あたかも実在した人物であるかのように語る、ユニークな趣向の歴史小説だ。 「嘘の語れば実となる」が謳い文句の『虚傳集』 取り上げられる人物は、剣術家、印地打ちの名人、仏像の彫刻家、からくり制作などを行った医師、幕末の志士の5人。いずれも歴史に残るような事績は行わず、無名のまま歴史のなかに消えていった人物たちとされ、彼らの生きざまを、ほとんど取り上げられることのない僅かな史料から掘り起こしたというたてまえの作品集だ。書き方はあくまでも堅実な歴史小説のスタイ…