目次: 1. 逃避 2. 静かの海 3. 他人について 4. 夕暮れ 5. 春の夜 6. 私について 7. 帰る場所 1. 逃避 蘇我駅にて外房線に乗り南東へ下っていくとえも言われぬ自然の風景が広がっていた。名も知らない低い山塊が点在しその合間を埋めるように民家が寄り合って建っている。薄曇りから漏れる微かの陽光に照らされた春の野山には遠く車窓からでも目を奪われる新緑があったが、さてこの素晴らしくも微妙の時候についていかに瞬間を切り取って称えることができるだろうかと考えつつ、そんな私の思い悩みなどとはまったく無関係のまま季節は絶えず連続的に移ろってゆくのだと思うとひとり取り残されたかのような少し…