ねむの花が咲いていた。「新しい化粧筆で、ひとはけ紅を刷いたような花」と表現した、石垣りんさんの小文がまず思い出される。独り暮らしのアパートのベランダで苗木を鉢植えにしたら、知人に「喬木を三階の窓で育ててどうするのか」と言われ、叱られたようなおかしさを感じたとある。仕事で夜ふかしした早朝、ベランダに出て葉が開き始めるのを見つめるというりんさんを想像したものだ。時代を超えて聞こえてくる先人の声を聞き取る。『焔に手をかざして』も時々ページを開く好きな一冊。 月変わりを口実に、文庫化を待っていた『栞と嘘の季節』を未読の本に加えた。『華の碑文』を後に回せば、出番はそう先ではない。 レジ待ちをしているとき…