暦の上では夏立つころおい。体感ではようやく春。弘法も歩き出さむ風情にて。 金剛院さまご境内では、春の花はおおむね出番を了え、全域の緑色が深くなった。というよりも、緑のあまりの圧力に息苦しいほどだ。緑に負けじと強い花色を発しているのは、ツツジとシャクナゲくらいだ。それに牡丹の咲き残りがひと株。 お二人の庭師さんが、植込みの手入れをなさっていた。 「ご苦労さまです」 黙って会釈だけして過ぎればよいところだが、なんとなく声を掛けたい気分だった。 簡略な墓掃除と合掌とを済ませ、いつもの関係墓・関係仏・関係塚にも合掌して歩き、さてと境内を眺め回すと、職人がたの作業はますます佳境に差しかかっているようだ。…