🌺桐壺1〈きりつぼ〉🌺 どの天皇様の御代《みよ》であったか、 女御《にょご》とか更衣《こうい》とかいわれる後宮がおおぜいいた中に、 最上の貴族出身ではないが 深い御愛寵《あいちょう》を得ている人があった。 最初から自分こそはという自信と、 親兄弟の勢力に恃《たの》む所があって 宮中にはいった女御たちからは失敬な女としてねたまれた。 その人と同等、 もしくはそれより地位の低い更衣たちは まして嫉妬の焔《ほのお》を燃やさないわけもなかった。 夜の御殿《おとど》の宿直所《とのいどころ》から退《さが》る朝、 続いてその人ばかりが召される夜、 目に見耳に聞いて口惜《くちお》しがらせた恨みのせいもあったか…