東京・目黒にある、和風モダンなホテル、結婚式場、レストラン、美術館等の複合施設。
和洋折衷の独特な様式は、宮崎駿監督のアニメーション「千と千尋の神隠し」中に登場する、湯屋の従業員宿舎のモデルとなったことでも有名。
昭和3年、春。創業者の細川力蔵が、東京芝浦に純日本式料亭「芝浦雅叙園」を創設。のち、昭和6年、江戸名所のひとつでもあった目黒に広大な土地を購入、「目黒雅叙園」を創設した。廊下だけでも数百メートル、延坪八千余坪、部屋数二百余室。絢爛豪華な東洋一の美術の殿堂として賑わいを見せた。
雅叙園(料亭)の門をくぐると、そこは、「さりげない」とか「人知れず」は蒸発してないのだから、何が起きても驚いてはいけない。<便所>と札のかかるドアをあけて中に入ると、映画のセットに踏み込んだような場違い感に気の弱い女性なら進めなくなる。僕だって足が止まった。室内だというのに、池があって錦鯉が泳いでいるのだ。海や湖に便所島が浮かぶ趣向になっているのだ。朱塗りの橋や島作りがなんとなく竜宮城を思わせる。
となると日光東照宮と遊郭からことは始まる。日本の伝統の中で派手で大衆受けする建築は、この二つによって育てられてきたわけだが、しかし差がある。専門語を使って言うなら、日光はネオバロック的であるのに対し、京の角屋から始まる遊郭建築は数奇屋造り(茶室風の建物)の変種の内に納まっている。わかりやすく言うと、日光は、彫塑的なにぎやかさだが、遊郭の方は絵画的な華やぎが生命。
(以上、藤森照信「建築探偵 神出鬼没」から引用)