明治期において「神経衰弱」という言葉が流行していたようだということを先に書いたが、中島孤島が自らの「神経衰弱」について書いているものがあるので、ここで紹介してみる。 ゛月の半(なかば)から少し脳を痛めて、ブラブラして居る。医者に診て貰ふと、神経衰弱だ、此の暑さに東京に居てはいかんといふ。五年以前此の病気で伊豆山の温泉へ行つたことがある、一週間ばかり湯滝に打たれて居る中(うち)に忘れたやうによくなつて、それから今日まではずつと忘れて居た。(中略)東京は矢張(やはり)神経衰弱の本場だ。東京人の大部分は肺病か然(しか)らずんば神経衰弱だ。ノルダウは多くの文学者を捕へて何れも精神病者だと罵つたが、帝都…