🌸不気味な院に赴いた源氏【源氏物語 43 第4帖 夕顔9】 呼び出した院の預かり役の出て来るまで留めてある車から、 忍ぶ草の生い茂った門の廂《ひさし》が見上げられた。 たくさんにある大木が暗さを作っているのである。 霧も深く降っていて空気の湿っぽいのに 車の簾《すだれ》を上げさせてあったから源氏の袖も そのうちべったりと濡れてしまった。 「私にははじめての経験だが妙に不安なものだ。 『いにしへも かくやは人の 惑ひけん わがまだしらぬ しののめの道』 前にこんなことがありましたか」 と聞かれて女は恥ずかしそうだった。 「『山の端《は》の 心も知らず 行く月は 上《うは》の空にて 影や消えなん』…