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こにしき(言葉、日本社会、教育) このページをアンテナに追加 RSSフィード

September 17, 2016

今夏に読んだもの・見たもの


この夏、「こいつはよかったなあ」と思ったものを書くだけの記事


『最強の社会調査入門』

最強の社会調査入門

これは大変な良書だった。広義の「フィールド」との向き合い方・フィールドへの入り方の入門書という感じ。質的データ分析法に関する話が思い切って(?)省略されている点も好感が持てる。フィールドワーク質的研究場合、入門者に真に必要なのは、データ分析法に関する知識ではないと思うので。

まあもちろん、量的研究だと事情が違うんだけどね。データ分析法に関する知識が、調査の質を規定するので。分析法に関する知識がないとよい設問は作れない。

…とツイッター上で印象批評を繰り広げていたところ、編者のひとりからその通りといった感じのことを言われ、ホッとした。


先進国韓国の憂鬱

先進国・韓国の憂鬱 (中公新書 2262)

経済政策(とくに通商政策)と福祉政策という、従来は別々に論じられることが多かった2つの軸をセットに論じることで、韓国の過去20年間の政治過程を説得的に描き出す。私が教育研究者として個人的に興味を持ったのが、以上の議論は韓国の教育政策にどう関係してきたかという点。「経済政策×教育政策」というパッケージとして読み解くこともできるのか、できる(or できない)とすればそれはなぜか、という点。

もちろん比較政治学の書であり、政治理論韓国社会研究・歴史研究などに総合的に立脚した分析だが、計量分析としても学ぶところが多い。マクロ統計官公庁等の集計済み統計)の分析とミクロ統計(個票)の分析が洗練された形で接合されている。「統計ありきの分析」にありがちな強引さがなく、きれいに「接合」されているのは、著者の豊富な「ドメイン知識」(政治学および対象に関する知識)ゆえ、という点で「お手本」になる点が多い。

応用言語学では官庁統計のようなマクロ統計を使った分析は難しい面もあるので、直接的に学べない場合もあるかもしれないが(とはいえ「個票分析=計量分析」というのを自明視すべきではないが)、その接続の仕方というのは触れておいて損はないだろう。


シン・ゴジラ

面白かった。

文句なく面白い

僕の青春時代はなかなか屈折していて、エヴァンゲリオンというものを見たことがないのだが、ぜひ見てみたくなった。

September 12, 2016

「母語」は(たぶん)専門用語

先日の社会言語科学会で、台湾人の母語意識に関する発表を聞かせてもらった。

その場でも質問させてもらったのだが、「母語」という言葉流通度について簡単に書いておきたい。


「母語という言葉は、知らないし意味もわからない」

以前ツイッターで次のようなアンケートを行った(ツイッターには最近、簡易アンケート機能実装された)。

言語学を専門にしない大学生の方に質問です。「母語話者」という言葉を知っていますか。聞いたときすぐにその意味がわかりますか?

その結果が以下。

知っていて、かつ、すぐに意味がわかる40%
知っているが、意味は少し考えなければわからない13%
知らないが、なんとなく意味はわかる27%
知らないし、意味もわからない20%

回答者計230人

https://twitter.com/tera_sawa/status/737930476111994882

知らない人がおよそ半数、さらに「知らないし、意味もわからない」と答えた人が2割いるのはなかなか驚きだった。

いか自分が言語学(あるいは人文学)の語法に慣れ過ぎているということだろうか。

おそらくだが「知らないがなんとなく意味はわかる」と答えた人の一部は、「お母さんの話している言葉」くらいの意味で理解していたのではないだろうか。

日本では多くの場合「言語学の母語=母の言葉」はそれほど食い違わないかもしれないが、当然、一対一対応はしていない。

言語学では有名なスクトナブ=カンガスの「母語」の定義(正確には母語の4要件*1)も、「母の言葉」とは異なる。

もちろん「母語」は言語学用語だけではなく、人文社会系の高級語彙のひとつでもあるので、一般の人に馴染みがある人も多いだろう。ただし、その場合の「母語」には、少なくとも「第一言語」や「L1」に比べてイデオロギー的負荷がかかっている。「母語」にはロマンチシズム的な意味合いが含まれている。


* * * *


なお、このツイッターアンケートの文脈を簡単に書いておくと、今年6月ごろ、私の職場で在学生対象のアンケートを実施する予定があり、その設問の文言として「ネイティブ」「英語のネイティブスピーカー」「英語母語話者」のうちいずれかの語を使う必要があった。言語学での言葉遣いに慣れている私はなんとなく「母語話者」でOKと思っていたが、念のためチェックするために上記のようなアンケートを行った

なお、結果が「知らない」人が1割程度、「知らない・意味もわからない」人が数%だったなら、「母語話者」でGOサインを出していたと思うけれど、この結果を見て「英語のネイティブスピーカー」という語を選ぶことに決めた。字数は食ってしまったがわからない言葉を使うよりはマシだった。

September 09, 2016

ワークショップに出ても研究のメソドロジーは身につかない

研究入門者が研究のメソドロジーを学ぶためにワークショップに出たり教科書を読んだりすることは良いことだと思うが、真の意味で「入門者」である場合、ほとんど学習効果はないと思う。これは、質的研究であろうが量的研究であろうがたぶん同じこと。

その手法を使っている研究論文著作を大量に読んでないと意味わからんでしょう。インプット大事

メソッドを教える側は、大量のインプットが既にあるから、メソドロジーを上手に整理したものを見て、「わー、わかりやすい!」と感動する。で、これを見て初学者理解できると思い込む。いや普通に考えて、具体的な著作に関するインプットがないのに、方法論が理解できるわけがない。

ここからが自分が言いたかったことだが、最近大学生は、「アンケート調査」に関する具体的なインプットは結構ある。テレビでは「街角100人に聞きました」的なことはよく行われているし、小中高時代プロジェクト型学習なんかを通して「なんちゃってアンケート調査」のインプットは大量にある。

つまり、大学生は既に入学前から「(なんちゃって)アンケート調査」のインプットを大量に浴びていて、そっちの方向に水路付けられている。ひょっとすると「(なんちゃって)インタビュー調査」にも同じことが言えるかもしれない。

昨年のJASELE後にもつぶやいたが、英語教育で質的研究をやっているという人は一体どれだけ質的研究の古典的名著を読んでいるんだろうか。インプット量に疑いを持ってしまう場面が結構あった。


JASELE2015感想、殴り書き(英語教育学の発展を願いつつ)、その1 - こにしき(言葉、日本社会、教育)


僕は(専門がそっち系だから当然だが)社会学エスノグラフィーはけっこう読んでいてその点でインプットがあると思うが、反面、いわゆる「質的心理学」というものについてはぜんぜん読んできていない。

どうも英語教育学の「質的研究」というものは8割〜9割が「質的心理学」系のような気がするので、理解したいという気持ちはある。しかし、(教科書じゃなくて「古典的名著」という意味で)何を読んだら良いのか、いまいちよくわからない。