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旧版こにしき(言葉、日本社会、教育)※2018年4月、新ブログに移行済み このページをアンテナに追加 RSSフィード

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May 12, 2018

April 23, 2018

リサーチパラダイム(実証主義、批判的リアリズム、解釈主義)の教科書

The Foundations of Research (Macmillan Study Skills)

The Foundations of Research (Macmillan Study Skills)

読んだ。

イギリス大学院の社会科学系リサーチメソッドの授業では定評があるというこの教科書。

かに目からうろこが落ちる箇所が多かった。


その理由の大きな部分は、ときに大胆なまでに「言い切り」をしている点。リサーチメソッドの教科書ではしばしば、「必ずしも常に正しいとは言えないが◯◯」とか「△△は一般的には××と近いとされているが例外もある」のような奥歯に物が挟まったような物言い出会う。そういう微妙表現以外に記述できない場合もあれば、実際は断言して差し支えないのに著者の勉強不足ゆえ断言できなかったという場合もあるだろう。


同書は、以下に示すように、リサーチパラダイムを考えるうえで重要分岐点についてかなりはっきりと「断言」をしている。そして(私は科学哲学素人なので正直自信はないんだが)いちおう妥当な言い切りには見える。

明示的な「断言」をしているからこそ、図式化(以下、参照)に対する過度の怯えもない。


以下、私の専門分野の社会言語学・応用言語学を念頭に置く。

本書が、この業界メソドロジー本と大きく異なるのは、リサーチを基礎づける認識論存在論 (ontologies and epsitemologies)を丁寧に論じている点である

そして、認識論・存在論に、理論、メソドロジー(メソッドに関するメタ理論)、具体的なメソッドをセットにすることで、リサーチパラダイムと呼び、統合的に論じている。


もう一点。実証主義でも解釈主義でもない、ポスト実証主義(あるいはクリティカルリアリズム)という立場を導入している点もユニークである。

応用言語学では、たいてい実証主義と解釈主義の二分法で議論していて、しかもその二分法に対して「必ずしもクリアには線が引けませんよ云々」と奥歯に物が挟まった物言いをする。

一方で、本書は三分法を用い、かなりクリアに既存の立場を整理する。

たしかに、三分法にするとすっきりする。既存の教科書が曖昧にぼかさざるを得なかったのは、二分法に固執していたからではないかとも思えてくる。

(ちなみに、ここの「ポスト実証主義」という用語は混合研究法業界の用語と間逆なので注意が必要。ややこしいことに、混合研究法業界では「ポスト実証主義」はいわゆる「実証主義」の意味で使われる。)


とはいえ、本書は博士論文執筆のための手引書でもあるので、前半は「リサーチに対する心構え」みたいな話が続く。

認識論・存在論の話は4章以降。もう少し具体的に言うと、4章がその概要。続く、5章・6章がこの議論を前提にしたリサーチパラダイムと理論の説明


本書の根底にある考え方は以下。リサーチの哲学的前提(存在論・認識論)は、リサーチャーが「選びとる」ものではあるが、セーターのようにその時の気分で自由に選びとれるものではない。むしろ、皮膚のようなものとして考えるべきである (Marsh and Furlong, 2002)。


ためになる「言い切り」の数々

...‘ontologyis logically prior to ‘epistemology’ and the two concepts must be kept apart, although, as we shall see, they are inextricably linked. (p. 60)

Ontology is often wrongly collapsed together with epistemology, with the former seen as simply a part of the latter. Whilst the two are closely related, they need to be kept separate, (p. 67)

認識論と各パラダイムの対応関係

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リサーチの段階

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リサーチパラダイムと各分野の対応関係

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「理論」のグラデーション

「理論」という言葉の使われ方は社会科学ではまじでカオスで場合によってはケンカすら起こる(そこ行くと、自然科学での「理論」は非常に幸せ境遇にいる)

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クリティカルリアリズムの学術系譜

[T]he work of Karl Marx, Sigmund Freud, Theodor Adorno and Herbert Marcuse. This paradigm has also been influenced by the Frankfurt School in Germany (see Neuman 2000: 75-81). (p. 85)

April 14, 2018

D. ブロックの新刊『政治経済学と社会言語学』

David Block (2018). Political Economy and Sociolinguistics: Neoliberalism, inequality and social class. Bloomsbury.


タイトルにあるとおり、社会言語学における政治経済学(political economy)の意義・位置づけを論じた本。ただ、ふつうの社会言語学の本かと思って手に取った人はまず面食らうだろう。言語の話があまり出てこないのだ。とくに、2章・3章・4章・5章には、本当にほとんど出てこない。

なんでこうなっているかというと、第1章の最後の方に理由が書いてあって、それはまあ納得がいく理由ではある(ジャケ買いした人は気の毒だが)。

曰く、「社会言語学で、政治経済学関連の概念最近よく言及されるようになってきたんだけど、みんなすごくルースに使ってるよね」(ただし「例外はあるよ!たとえば・・・」という気配りは忘れない)。で、「そんな雑な話をするより、まずは政治経済学を古典に遡ってみる。その上で現在まで理論的に跡づけるほうが大事だよね!」と強調する。

こうした事情から、いわば「理論編」に相当する章――政治経済学の歴史に関する2章、新自由主義についての3章、階級格差・不平等に関する4章、そして、新自由主義的が人々のメンタリティに与える(負の)影響について論じた5章――では、ほとんど言語の話が出てこない。6章で、「階級闘争語り」のディスコース分析を扱い、ようやく言語が脚光を浴びる。

ちなみに、既存の応用言語学・社会言語学で政治経済概念がかなりゆるふわで使われているという点は私も同感。当該文献をほんとうに読んでるか怪しい「権威引用」みたいのは結構見る。あるいは博士課程のときにコースワークをやっつける際、大急ぎで読んだ「古典文献」を、あやふや記憶で引用した、みたいな。


あふれるマルクス

著者のスタンス一言で言うと、「マルクス推しである(ちなみに、私は著者とツーショット自撮りを撮った仲である――どんな仲だ)。

全章を通じて「マルクスに帰れ/還れ」ということを訴えている。わざわざマルクスをdisっている文章を引用して再反論するという熱の入れぶり。

これは、いわゆる(いや、いわゆらない?)"social turn" 以降の応用言語学における、ポスト構造主義アプローチ独占状況への明確なアンチテーゼでもある。もちろんポストモダン概念を全否定しているわけではない。というより、今までのポモ系批判的応用言語学が(十分に理論的考察をせぬまま)マルクス主義系の理論・概念をdisってきた事に対し、「そーゆーことはやめよーよ」と言っている。

ちなみに、仮想敵である「ポモ系応用言語学」は本書の暗黙の前提になっているので、詳しい説明はあまりない。「ポモ系応用言語学?なにそれ?」とか「応用言語学は言語学の下位領域なんだから、政治経済とか関係ないんでは・・・」などと疑問に思う人には、本書が論じていることはさっぱりわからないと思うのでお薦めしない。そういう人には、より導入的な啓蒙書である Alastair Pennycook Critical Applied Linguistics: A Critical Introduction. をお薦めする。

参考
批判的応用言語学の「批判的」に関する誤解 - 旧版こにしき(言葉、日本社会、教育)※2018年4月、新ブログに移行済み

Contents
  • Preface
  • 1. A short history of political economy in sociolinguistics
  • 2. Political economy: Background and approach
  • 3. Neoliberalism: Historical and conceptual considerations
  • 4. Stratification, inequality and social class
  • 5. The neoliberal citizen: conceptualisations and contexts
  • 6. Inequality, class and class warfare: Discourse, ideology and 'truth'
  • Epilogue
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