今日は吉田豪ちゃんみたいなことを

TomoMachi2005-06-19

毎月第三日曜日にエルセリートの日系食料品「八百屋さん」の前で開かれる日本の古本市に行った。
ここイーストベイに住む日本人や日本からの留学生が寄付した本を売っているのだが、とにかく落合信彦の本が多いので笑う。
ただ、どれも70〜80年代までの本だ。
十年以上前、日本からアメリカに来る人たちの間でノビーの影響力がいかに強かったのかがわかる。


さて、今回見つけたのは、1970年9月発行の三島由紀夫対談集『尚武のこころ』(定価400円)。
これは今は文庫か何かで読めるのかな?


版元は日本教文社。ここは「生長の家」(国粋主義的な宗教団体)の出版社。
対談相手は、小汀利得日本経済新聞社社長で国家公安委員。ビートルズに武道館を使わせてたまるかと発言したのがいちばん有名か)、中山正敏日本空手協会主席師範。大山館長の宿敵)、鶴田浩二高橋和巳石原慎太郎林房雄堤清二セゾングループ会長)、野坂昭如村上一郎(軍や日本精神の評論家。75年に日本刀で自刃)、寺山修司
しかし、こんな本がなんで今頃、このイーストベイで出てきたのか?
アメリカでは三島関係の珍しいものが手に入る。
彼が自分で製作監督した映画『憂国』のビデオもロサンジェルスのエロ本屋で手に入れ、ハッパやりながら観たら、切腹した青年将校がはらわたを自分でほじくり出すシーンでバッドトリップしてしまった。


三島はこの本で、『憂国』で国に殉じるのをエロティシズムとして書いたら右翼の人に怒られた、なんてことを言ってるけど、この本が出た2ヵ月後に究極のセックスとしての切腹をするわけですな。


この本で一番面白かったのは石原慎太郎との対談。
三島は「石原さん、今日は守るべきものの価値について話がしたい」と切り出す。
三島 君、今の日本はナショナリズムがどんどん侵食されて、みんな左翼に取られちゃうよ。
石原 そんなもの取られたっていいんです。僕は世界の中で守るべきものは自分しかないな。
三島 自己放棄に達しない思想は卑しい思想だ。
石原 (でも)「盾の会」では、まだクーデターはできない(でしょ)。
三島 まだ自民党代議士の石原慎太郎もたいしたことない(笑)。
石原 今の反論はちょっと弱弱しかったな(笑)。天皇というものは伝統の本質じゃないもの。形(表象)でしょ。
三島 (憤然と怒り)君、どうして(本質じゃ)ないなんて言うの(!) 歴史、研究したか? 神話を研究したか?
石原 三島さん、ヘンな質問しますけど、日本では(天皇制を捨てて)共和制になることはありえないですか?
三島 ありえないって。そうさせてはいけない。あなたが共和制を主張したら、おれはあなたを殺す(!)
石原 いや、そんなこと言わずに(笑)。
三島 今日は幸い、刀も持っている(!)(居合い抜きの稽古の帰りで、三島氏は真剣を持参していた)。
石原 ぼくは(可能性の話をしただけで)共和制にしろなんて考えたことはないですよ。
三島 命が惜しいからそう言うだろうけど。


ここで慎太郎、逆襲!


石原 ぼくだって飛び道具を持ってるからな(!)
三島 今、そこに持ってないだろ(!)


つまり、三島は石原を日本刀で斬り捨てようとして、石原はそれに飛び道具(当時やっていた猟銃のことか?)で対抗するというシュート状態なのだ!(ガキのケンカみたいでもあるが)


石原 でも、ぼくは天皇を最後に守るべきものと思ってないんでね。
三島 思ってなきゃしょうがない。今に目が覚めるだろう。
石原 いやいや。やはり真剣対飛び道具になるんじゃないかしら(笑)。


日本刀対銃の戦いか? 三島と石原は『マトリックス』以降のアクション映画を先取りしていた?


石原 しかしぼくは少なくとも和室の中だったら、僕は鉄扇で三島さんの居合いを防ぐ自信を持ったな
三島 やりましょう。和室で(!)


なんかもうほとんど週プロとか読んでるみたい(しかし、なぜ鉄扇? なぜ和室?)
わはははは、やれやれ! 殺しあえ!
ところが急にカームダウン。

三島 でも、君とおれと(殺しあって)二人死んだら、さぞ世間はせいせいするだろう(笑)。喜ぶ人がいっぱいいる。早く死んじゃったほうがいい
石原 (それを)考えただけでも死ねないな

で、この対談の直後に三島は「早く死んじゃった」が、石原は死ななかった。
オイラは十年以上前、『宝島30』で、小林よしのり先生との対談を企画して一緒に石原慎太郎の事務所を訪ねたことがある。その前日に、慎太郎の孫が亡くなったので、対談はキャンセルかと思ったが、慎太郎氏はまったく何事もなかったようにニコニコと待っていた。事務所の窓からわずか数メートル離れたところには、まだ真っ黒に焦げたまま放置されたホテル・ニュージャパンが建っていた。
対談の最後に、どういう文脈だったか慎太郎が「他の人が死ぬと『自分は生きてるんだ』ということを実感できるね」と、爽やかに言ったのが印象に残っている。