akehyon-diary

2018-01-14

[]日本の無戸籍者

タイトルが示す通り、日本において無戸籍の人が被る問題とその原因、そして戸籍とは何か、なぜ戸籍で差別が起きるのか、それから、蓮舫氏で話題になった多重国籍や重婚問題まで、幅広く論じられている。特に印象に残るのは、樺太から引き揚げてきた人の苦労に焦点を当てた第4章で、これはほとんど国家による棄民と言える。同時に第3章では、お金持ちなどが手段を駆使して(本籍を移したり、別の家に入ったり)、徴兵逃れをしていた事実にも焦点を当てている。

著者は記者県議、代議士などを歴任。5児の母で、自らの離婚再婚と戸籍問題についてもきちんと触れている。

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2018-01-07

[]復刻版教科書 帝国地理 大正7年

タイトルにもある通り、大正7年に刊行された文部省検定済の中等教育程度の地理教科書をほぼそのままの形で復刻したもの。中身は日本地誌が中心だが、朝鮮台湾樺太も含まれる。順序としては、まず帝国の中心の関東地方に始まり、続いて奥羽(東北)、本州中部中部)、近畿中国四国九州台湾北海道樺太朝鮮という順序で記述される。時代を反映して、差別的用語があったり、軍事拠点記述があったり、興味深いところが多い。例えば朝鮮族について、「藁葺(わらぶき)の小屋に住し、遊惰安逸に日を送る者多く」などと書いている。

 巻末には、「重要都市村落人口一覧表」が載っているが、これがまた興味深い。例えば「東京府」の項目では、東京市205.0、澁谷町6.3、八王子市3.1、王子町2.9、千住町2.6、南千住町2.3、品川町2.3、となっていて(単位は万人)、後に東京23区に編入された町が未だ独立した自治体だったことが分かる(八王子以外)。神奈川県は、横浜市39.8、横須賀市8.5、小田原町2.1、浦賀町1.8、鎌倉町1.1、秦野町1.1で、後に政令指定都市となる川崎が書かれていない。埼玉県は市がなく、川越町の2.5万人が筆頭で、以下、熊谷町2.1、大宮町1.5、浦和町1.1、秩父町1,1で、川口がない。栃木県では宇都宮市5.4の次に来るのは足尾町3.3である福島県は、若松市4.2、福島市3.4、郡山市2.2、平町1.7で、今ではいわき市、郡山市福島市会津若松市という人口順位から、ちょうど逆転している。青森市人口が既に弘前市を超え、八戸町を大きく上回っているのはやや意外だった(青森市明治以前は何もない寒村で、弘前八戸の間をとって県中央県都を置いたという経緯だから、短時間に相当に人口を増やしたことになる)。同様の経緯の宮崎町は、都城町の人口を上回っていなかった。山形県は、山形市に次ぐのは米沢市で、酒田町や鶴岡町を大きく上回っている。福岡県では、北九州市構成することになる門司小倉八幡若松は既に市となっているが、戸畑については記述がない。鹿児島県は、鹿児島市の次に書かれているのは、後に鹿児島市に編入される谷山村である沖縄北海道は区制をとっており、那覇区5.6、首里区2.4、札幌9.7、函館10.1、小樽9.3、旭川区6.3、室蘭区3.1などとなっている。九州で一番人口が多いのは福岡市でなく長崎市である

人口の多い順に並べると(抜けがある可能性もあるが)、東京市205.0、大阪市139.6、京都市50.9、名古屋市45.2、神戸市44.2、横浜市39.8、広島市16.7、長崎市16.1、金沢市13.0、呉市12.8、仙台市10.4、などとなる。

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2018-01-03

[]消えたシモン・ヴェルネール

フランス映画で、フランス高校生たちが主たる登場人物タイトル通り、まずシモン少年失踪し、続いて、何人かの生徒も消えてしまい、クラスメイトたちはその謎について語り合う。「桐島、部活やめるってよ」的な話かと思ったが、そういうわけでもなかった。

 視点となる人物は、ジェレミーアリス、ラビエ、そしてシモンと変わる。そして、前の場面では謎だったことや伏線が、跡から解かれていくおもしろさはある。ただ、最大の謎である大本シモン失踪真相がしょぼいというか、とうてい推理できないような事柄だったので、全体としても感慨が薄くなってしまった。

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2018-01-02

[]ヴァナキュラー・モダニズムとしての映像文化

早稲田大学長谷正人教授による映像論集。書き下ろしがないのが残念ではあるが、著者が各所で書いた17本の論文エッセイがほぼそのままの形でまとめられている。ヴァナキュラー(土着的な)モダニズムというのは、元はミリアム・ハンセン用語法だそうだ(読んだかもしれないが気づかなかった)。写真映画・テレビなどを幅広く扱っている。中でもやはり、小津安二郎論が心に残った。蓮実重彦による表層批評が落ちこぼしたもの、例えばその中に聞き取れる「GHQ占領政策への批判」を、丁寧に拾い上げている。また、高倉健論や山田太一論も必読だろう。長谷教授山田太一の中に読み取るのは、「理性の公共圏」からはみ出してしまう、弱い人間たちの「愚痴共同体」だ。

[]統計学の日本史

名著「基本統計学」などで知られる統計学者が、歴史の方へと歩みを進めた。福沢諭吉、大隈重信、杉亨二、阪谷芳郎などが論じられるが、中でも、森鴎外が加わった、「統計」という用語法に関する論争が詳しく紹介されていてとても面白い

[]デザインド・リアリティ

われわれが生きる「デザインされた世界」を、店員によるオーダー処理や、コスプレ、プリクラ童貞などをテーマにして心理学的に考察する。

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2018-01-01

平成30年となりました。本年もakehyon-diaryをよろしくお願いします。

[]枕草子のたくらみ

この本は素晴らしかった。清少納言といえば、知的で天真爛漫といったイメージを私は持っていたが、本書で描かれる清少納言はまったく違う。何よりもまず中宮定子を支えるために枕草子執筆、著者が精緻に読み解くところでは、清少納言は有名な歌人家系に生まれた重圧に苦しみ、自らを見掛け倒しのえせ者と自覚していた。そして、中宮定子および、定子出身である関白家(藤原道隆家系)の名誉を守ることが第一なのだけれど、それだけではなく、覇権を握った藤原道長をも怒らせないように配慮しつつ、慎重に筆を書き進めている。そのおかげか、枕草子は歴史の風説に耐え、今でも読み継がれる古典となった。

[]変貌する法科大学院と弁護士過剰社会

著者は弁護士かつ、愛知大学の法科大学院の教授を勤める。その経験から、法科大学院がいかに失敗したのか、そして、どのように改革すればよいのか、説得力のある提案が語られる。しかし、中坊さん(弁護士会長時代に法曹人口増加に舵を切った)って、功より罪の方が多かった感じだな。また、弁護士の能力低下も著しい様子だ。

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2017-12-30

[]ビッグデータ・リトルデータ・ノーデータ

データ研究への活用主題で、特に第6章「社会科学におけるデータ学問」は、インターネット研究に多くの紙幅が割かれていて有益である。ただ、有名な「マタイ法則」を「マシュー法則」と訳してはダメだ。

[]いかにして民主主義は失われていくのか

新自由主義が民主主義を掘り崩すさまを描き出す。特に第4章で、イラクの戦争と旱魃の乗じ、それまで自立的に行われてきたイラク農業に対して、米国のアグリビジネスが襲い掛かり、結局モンサントの種子がなければ農業を営めなくさせてしまうさまは衝撃的というほかない。また、第6章で論じられている、アメリカ公立大学で、教養教育が掘り崩され、職業教育の方にシフトせざるを得ない状況に追い込まれていることは、日本大学にとってもまったく他人事ではない。

紹介されているこの洋書も気になります。

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2017-12-26

[]はじめて地理学

タイトル通り、地理学入門書。主として大学生向けだと思うが、意欲ある高校生にも進められる。ただ、内容は自然地理学に偏していて、人文地理学については手薄。

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2017-12-23

[]22年目の告白 私が殺人犯です

1995年阪神大震災の年に起きた残虐な連続殺人事件の犯人が、時効を迎えて自ら名乗り出て、告白本を書き、それを出版社が大々的に売り出す。しかし彼がテレビに出演すると、今度は真犯人を名乗る人間が、動画投稿サイトに、犯人にしか撮れなかったと見られる反抗の一部始終を録画した動画投稿する・・・という設定のミステリー。主演は藤原竜也だが、伊藤英明や仲村トオルもいい演技をしている。

[]今度は愛妻家

鬼子母神のそばにスタジオを構える写真家の夫(豊川悦司)は、口うるさい妻(薬師丸ひろ子)に怒られてばかり、時に浮気の虫も騒ぎ出す。とうとう妻は腹に据えかねて、離婚を口にするが、実は妻はすでに一年前に・・・。はっきり言って2時間10分は長く感じられた。また、人間関係の設定もあざとい。半分の時間にすれば佳作になったかもしれない。

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2017-12-20

[]母性ディストピア

宇野常寛氏の長編評論。宮崎駿、冨野由悠季、押井守のアニメーションが核だが、現代の日本社会そのものを「母性ディストピア」として厳しく批判する言辞がその前後にあり、特に、情報社会批判としても読める。

右派、左派の両方をバッサリと一刀両断にするのは、小気味良いと言えば言えるが、あらゆることがらを母性的なものの支配として切り捨てるのは、粗雑な印象も受ける。言及はないが、あらゆるものを幻想とした、岸田秀の「唯幻論」を思わせる。だったらどうするの?ということだ。

細かなことだが、355ページで、「愚鈍」という言葉を、蓮實重彦とほぼ間逆の使い方をしているのも、残念といえば残念だ。要約すると押井守について、もしも彼が愚鈍作家であれば、映像の世紀にとどまり続け、旧時代の傑作を作れただろう、と書いている。宇野は蓮實の文章から学べることは多いのではないかと思う。蓮実は「愚鈍」を、「凡庸」の反対語だとした(凡庸さについてお話させていただきます)。ここで宇野が「愚鈍」といっているのは、蓮実の言葉では「凡庸」のことである。

[]テヘランから来た男 西田厚聰東芝壊滅

 西田厚聰氏の名前は前から知っていた。東大大学院政治学を学んでいたが、やはり東大大学院で学んでいたイラン人の奥さんとともに学究の道を去り、東芝に人より約10年送れで入社。その類まれな能力努力のし上がり、特にパソコン部門頭角を現す。そして遂に社長へ。

 しかし本書で光が当てられるのは、こうした光の部分ばかりではない。社長のとき後継者として、原子力技術者だった佐々木則夫氏を後継者に抜擢。佐々木氏は評判の悪い人だったが、西田氏は意に介さず、「地位が人を作るだろう」と楽観視していた。しかし、地位は人を作らなかった。佐々木氏はまったくダメな経営者で、西田氏とも対立するようになる。

 また、西田氏のころから、粉飾決算というか、利益を出すために不自然取引に手を染めるようになる。そして、大変な事態を招いていることはニュースなどで報じられている通りだ。

 いったい何が悪かったのか?優秀で努力家の西田氏が、晩節を汚す結果になったのはなぜか?その答えは端的な形では本書に書いていないけれど、結局、「利益という数字」に踊らされてしまったということだろうか?株主中心の資本主義悪弊か。

 

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2017-12-05

[book}動員のメディアミックス

大塚英治氏が代表で行われた共同研究おたく文化と戦時下・戦後」の集大成的な論文集。良くも悪くも雑多な印象を受ける。

[]ロボット

MITマサチューセッツ工科大学出版局が出している、エッセンシャル・ナレッジシリーズの一冊で、ロボットについて広範囲に書かれているが、訳者が専門外らしく、あまり訳はよくない。たとえば、222ページでは、「メカニカル・ターク」を「メカニカル・タルク」としている。

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