文藝春秋の新刊  2001・9 「ベネチア」 ©大高郁子

水の都ベニスですが、画中に水は見えず、ゴーレムのような重そうな人影が見えるだけ。水路はどこにあるんだろうか。
この街、レンガ造りなのだろうか。塩野七生の著書なんぞでアドリア海の真珠たるベネチアの史実などいくつか知ったものですが、それらのエピソードとこのイラストとが合致するかどうか、ちと分からない。赤が街を覆っているんですね。ゴンドラは何処?

文庫チラシコレクション 新潮文庫 2007年11月チラシの紹介

新潮文庫 今月の新刊

Yonda?DVD「パンダが本を読んだお話」より“落ち葉”
“美しくない日本”フェア * 今月の新刊
佐藤優
国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて *文庫決定版 毎日文化賞特別賞

柳田邦男
壊れる日本人 ケータイ・ネット依存症への決別

保坂正康
自伝の人間学

“官能☆☆☆☆☆”フェア * 今月の新刊
杉本彩
インモラル

内田春菊
最近、蝶々は 上・下

櫻木充 早瀬まひる 白銀純 山崎マキコ 睦月影郎 内藤みか 鹿島茂
官能小説傑作選 七つの甘い吐息

新潮文庫 * 今月の新刊
谷村志穂
蒼い乳房 文庫オリジナル

豊島ミホ
日傘のお兄さん

田口ランディ
アンテナ 新装決定版

高山文彦
水平記 松本治一郎と部落解放運動の100年 上・下

池上彰
ニュースの読み方使い方

最相葉月
東京大学応援部物語

黒川鍾信
神楽坂ホン書き旅館 日本エッセイスト・クラブ賞

井形慶子
3つに分けて人生がうまくいくイギリスの習慣

西川治
世界ぐるっと朝食紀行
ブライアン・フリーマントル 二宮馨=訳
殺人にうってつけの日

ジュンパ・ラヒリ 小川高義=訳
その名にちなんで 映画化

人生で二度読む本 新潮文庫名作復刊シリーズ
井伏鱒二
駅前旅館

有吉佐和子
一の糸

企画・デザイン 大貫卓也
マイブック 2008年の記録

裏面=11月のヨンダ?
謎多き影の参謀 瀬島龍三氏、逝く。“決定版評伝”が、いま売れています!
TV・映画化作品
ライラの冒険
新潮新書 10月の新刊



新潮文庫チラシ07年12月は《こちら》にあります
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今野敏「朱夏」─ネタバレ読後感

朱夏―警視庁強行犯係・樋口顕 (新潮文庫)

朱夏―警視庁強行犯係・樋口顕 (新潮文庫)

呆れるほど弛緩した小説。読みやすかったという事実は否定しないが、でもTVドラマ程度のストーリーテリングで薄っぺらな印象しか読後に残らない。
プロローグの狂言回しでしかないコンビニ強盗。全体の事件の犯人たる地域課の警官・安達が足払いをかけ犯人を捕らえてから「誉められたのは2度目です」と登場する。登場の仕方が悪いわけではないけれど、ドラマとしてならコンビニ強盗・警備部長脅迫・樋口の妻誘拐事と3つの事件をもっと絡めるべきでなかったか。チンケなコンビニ強盗がいて、尊大な自尊心の犯人安達がいて、主人公である優秀な警官樋口がいるほうが、時代を俯瞰できたのではないかなと。
いや、ちょっと矛盾するけどこの誘拐犯の立ち居地が、読み終えて依然すっきりしない。《樋口を警官として一目置く安達巡査が一種のゲームを挑んだ。誘拐した樋口の妻に、警備部長を狙撃する立会人となることを要求するために。》とまあ、それが小説の骨子なんだろうが、でも狙撃の計画が成功した後に樋口の妻は殺すつもりか。やっぱり誘拐の理由がわからないなあ─立ち会わせたいだけなら、「激高仮面」の脅迫状を置いたウィークリー・マンションに誘拐した妻を手錠で縛りつけ、テレビをつけっ放しにしておけばいいのだし、いや、それよりかんたんで樋口宛に脅迫状を送り、「さあ、ゲームの始まりです」なんて挑戦状付きで行動すれば充分よかったようにも思える。
「自尊心だけが大きく肥大した甘ったれ」と、犯人・安達を規定し、ついでに最近の若者は…みたいな括り方で小説全体の骨子が貫かれているのだが、こりゃそうとうなステレオタイプだ。氏家という主人公の仕事仲間が、個人的な捜査の相棒を務めるわけだが、2人の作戦タイム中、ファミレスで酒を飲み浮かれる高校生の集団に一括するシーンが出てくる。これにはげっそりだぜ。
警察小説を読むとき、わたしなりの試金石というか古典として「マルティン・ベッグ」並みならいいんだがなあという期待感で読み始めるわけだが、もうベッグ的なストーリー・テリングでは時代遅れなのだろうか?
たがの緩みかけた社会の中で、スウェーデンの優秀な警官たちも多くの案件を抱え社会の矛盾に呆れ苛立ち、ほつれてぐしゃぐしゃになった人間関係を根気よく調べてゆく。警官という職業の陰鬱さを彼らは素肌で実感し、スウェーデンの優秀な警官たちは苦悩する。
警官(元警官だが)が犯人ならベッグ・シリーズなら「唾棄すべき男」か。犯人の絶望的な心情を深く察したベッグは、単身ビルの屋上によじ登ったが小さな齟齬から犯人に胸を撃たれバルコニーに宙吊りになる。
無能な指揮官マルムの命令を無視して、胸襟を開きあったコルベリとラーソンとがミッションに取り掛かる。犯人の銃口が自分の胸に向いているのにラーソンは仁王立ちの姿のままで反撃をしない。ああ、だからプロフェッショナルの仕事振りがベッグ・シリーズでは丁寧に描かれ、「朱夏」のほうでは若者を萎縮させて溜飲を下げるだけ─この差は絶望的だぜ。
タイトルにネタバレとは記したが、夢の中で氏家が違和感を持ち犯人像を特定するなんてんだからそちら関係でのスリリングさとは無縁。とってつけたように“不審なワゴン車”や“学生時代に使っていた部屋”なんかが出てくる。上・下2巻みたいなミステリが好きなわけではないし、ディティールに拘泥したからといっていい小説になるわけではないにしても、欲求不満だけが残る小説で終わらせてはいけない。
巻末に記してあったが、この小説、前世紀98年の刊行だそうだ。読んでないけど新潮社からは「隠蔽捜査」シリーズが今世紀出ているわけで、そろそろ文庫化だろう。世紀を跨いで今野敏ストーリーテリングが一層上昇しただろうことを、夢見てはいる。