『全員で稼ぐ組織 JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書 』に学ぶ

稲盛和夫氏によるJAL再建は、あまりにも鮮やかでした。戦後最大の倒産と言われたJALを、たった3年弱で奇跡のV字回復・過去最高益に導いた。破綻したJALの大きな問題の1つは、「当事者意識のなさ」だったようである。破綻状態でも幹部らは「国が助けてくれる」と考え、エリートだった社員たちは「赤字でも国民に必要な会社なのだから何とかなる」と考えていたようだ。経営者でなくても、自分や周りの人のモチベーションをいかに上げるか、というヒントが見つかる。本書『全員で稼ぐ組織 JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書』は、ひと言で言うと、「アメーバ経営の教科書」だ。では、アメーバ経営とは何かと言うと、京セラの創業者である稲盛和夫名誉会長が編み出した経営管理手法である。だが、その根底には「京セラフィロソフィ」という京セラの哲学がある。実は、「京セラフィロソフィ」という哲学が、京セラのアメーバ経営を支えている。そのため、本書にも単に「アメーバ経営」の手法のみに言及しているのではなく、「アメーバ経営」の言及と同じくらい、「京セラフィロソフィ」についても言及している。JALの再生で一躍注目を集めた「アメーバ経営」ではあるが、本書によると、最初は社員の「フィロソフィによる意識改革」からスタートをしている。この根底には「人生と仕事の結果は、考え方と熱意と能力のかけ算で決まる」という考え方がある。この考え方が面白いので以下に紹介したい。
・人生と仕事の結果は、考え方(マイナス100〜プラス100)と熱意(0〜100)と能力(0〜100)のかけ算で決まると1章で解説しました。この三つの中で最も重要な要素は考え方です。なぜなら考え方だけは変数がマイナスの場合があり得るからです。能力が高く熱意もある人材がそろっているJALがなぜ経営破綻したのか。それは考え方がマイナスだったからです。能力と熱意がいかに高くても、考え方がマイナスであれば、結果はマイナスです。フィロソフィは、考え方の部分を根本から変える処方箋で、ここがプラスになれば、もともと能力と熱意はあるので、劇的にすばらしい結果が出るはずだと確信していました。(P88)
・やがてメンバーの間から、「JALの企業理念を作り直そう」という声があがりはじめました。そこで当時の大西賢社長(現会長)が中心となり、幹部社員を選出して、JALの企業理念とJALフィロソフィの策定に取りかかりました。 現在のJALグループの企業理念は
  JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、
  一、お客様に最高のサービスを提供します。
  一、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。 となっています。(P90〜P91)
<ポイント>
・ 「数字」と「人間力」が両輪
 京セラでは、「アメーバ経営」で全社員が経営者感覚と採算意識を持つようになる仕組みを持っている。そして、「京セラフィロソフィ」の教育を徹底、社員の人間力を高めることで道を外れないようにし、またリーダーの影響力を強めている。数字だけを追い求めると問題が起きる。逆に「社会に貢献」「社員の幸福が一番」などとキレイ事を言っているだけでは経営は成り立たない。その両方が必要だ。(p4)
・社員全員が経営に携わるために
 アメーバ経営とは、京セラの創業者である稲盛和夫名誉会長が企業経営の実体験から編み出した経営手法で、「経営は一部の経営トップのみが行うのではなく、全社員が関わって行うべきだ」という考え方が貫かれています。この経営手法の最大の特徴は、採算部門の組織を5?10人という小さな単位(アメーバ)に細分化し、それぞれがまるで一つの会社であるかのように独立採算で運営することです。各アメーバの売上、利益、経費などの収支は、月が終わると直ちに集計され、全社員にオープンにされます。これにより、経営者はどの部署がどのくらい儲けているか一目瞭然でわかるようになり、社員も自分がどれだけ利益に貢献できたかを知ります。その結果、社員一人ひとりが利益を意識し、それを生み出す意欲と責任を感じるようになるのです。各アメーバにはリーダーがいます。その人物がメンバーの知恵を結集しながら経営者のごとく収支の舵を取り、「売上を最大、経費を最小に」を合言葉にメンバー全員で経営目標を達成するー。これが、アメーバ経営が目指す全員参加の経営の姿です。( P14)
・社員全員が経営者感覚を持つ仕組み「アメーバ経営
 アメーバ経営の最大の特徴は、会社組織を「アメーバ」と呼ばれる小集団組織に分け、各アメーバのリーダーがまるで経営者のように小集団組織の経営を行う。仕組みを支えるのが、経営数値を正確かつリアルタイムに把握する部門別採算制度です。自分たちの努力の結果がすぐに数字に表れるーーここが、アメーバ経営のキーポイントと言える部分。「目標値」と「現在値」が数字で明確に見えるからこそ、その「差異」を縮め、なくしていくにはどうしたらいいか考えることができる。この差異が明確になると、人は努力を始めものである。
 稲盛氏がアメーバ経営を生み出したキッカケは、京セラ設立3年目、新入社員が自分のことばかり考えて昇給など要求し、経営者の思いを理解していなかったことにあるといいます。
会社を大きくすること、売上を伸ばすことが、ひいては社員の生活向上につながる。社員も経営者と同じ考えで経営に参加してもらわなければ企業経営はうまくいかない、と稲盛さんは痛感するようになった。(P.32)
JAL再建を打診される
 私は2010年1月から、JALの管財人代理、そして副社長として2年間、稲盛さんとともに経営に携わりました。JALという会社に入ってみての率直な感想は、素直で優秀な社員が多いな、というものでした。と同時に、「どうして優秀な社員がたくさんいるのにこんなことになってしまったんだろう」という思いがよぎりました。2009年12月初旬ごろ、稲盛さんは政府と企業再生支援機構から、「JALの再生を引き受けてほしい」と要請されていたようです。再生支援機構は、再建を担う経営者として、運輸関係ではなく異業種の経営者で、内外に知名度が高く創業経験があり、なおかつ大企業の経営経験があるという3条件を満たす人が適任と考えていました。そして、その三つを兼ね備えている人物といえば、稲盛さん以外には考えられなかったといいます。しかし、当初、稲盛さんは「航空業に関しては素人であり、私の任ではない」と断りつづけていました。12月中旬、京セラ本社で会議があり、私も出席していました。会議のあと、稲盛さんに呼び出され、「JALの再建を頼まれている。もし引き受けたらついてきてくれるか?1週間後に返事をくれ」と突然言われ仰天しました。京セラの業務とはまったく関係のない異業種の会社の再建など引き受けないほうがいいのではないか。私は正直そう思いました。しかし、稲盛さんが行くなら、答えは決まっています。12月下旬、私は返事をするために、京セラの東京の事務所に行き、稲盛さんと会い、こう言いました。「名誉会長がいらっしゃるなら、お供させてください」1月初旬から、再生支援機構などといろんな打ち合わせがあり、最終的に2010年1月13日、稲盛さんは「自分の力は及ばないかもしれないが、全身全霊で再建に当たりたい」と決断されました。そして、2月1日に、稲盛さんと私と、稲盛さんの秘書として長年勤めていた大田嘉仁さんの3人がJALに初めて出社し、経営再建がスタートしました。(P78〜P79)
人間力アップを目指す「フィロソフィ」の教育
 京セラグループでは、全従業員に「京セラフィロソフィ手帳」を配布し、さまざまな機会をとらえ、この手帳を活用してフィロソフィの浸透を図っている。たとえばこんな話があります。ある商品を1セット申し込まれたお客様に対して、「1か月後の展示会でこの商品は特別価格で販売されます。もしよろしければ、 その際に購入されてはいかがでしょうか」と弊社の販売担当者が正直に伝えたところ「大変いい情報をいただいた。ありがとう」とお客様に感謝されました。そしてお客様な展示会に来場され、なんと2セットを購入された。(P.72)
最近になってついにその詳細が一般向けに公開されました。
JALのV字回復の背景に、アメーバ経営+フィロソフィ教育
 JAL再生を成し遂げた稲盛氏は、2013年3月にJAL取締役を退任。マスコミなどから「破綻前のJALに後戻りすることはないのか」などと何度も質問を受けたそうである。これに対してJAL植木社長は「もう元に戻ることはありません」と断言。こんな言葉を残している。もしかすると違う人でも再建できたのかもしれません。ですが、少なくとも今のJALはなかったということは確信をもって言えます。よく 「名誉会長が来られて三年でこの会社と社員の何がいちばん変わりましたか」と聞かれます。一言で答えるならば、「採算意識が高まった」と言えばわかりやすいと思います。ですが、私は、何より社員の心が美しくなったことがいちばん変わったことだと感じています。それがすべてにいい影響を及ぼしているのです。(P.83
アメーバ経営で生きている会社になった
 航空事業というのは、季節によって売上の変動が大きく、7?9月の旅行シーズンで大きく稼ぎます。逆に底となるのが2月です。JALでも創業以来、2月は黒字になったことがない。そこで私は、「2011年の2月は黒字にできないかもしれないけれども、2012年の2月は黒字にしよう」と言ったのです。それを聞いたある部長は、「森田さん、そんなことができたら奇跡ですよ」と言いました。ところが、アメーバ経営で組織改革を実施した直後の2011年2月に、黒字を達成することができました。奇跡が起こったのです。JALにおけるアメーバ経営の導入で何が変わったのかということについて、JALの大西会長が2013年2月22日の日本経済新聞のインタビューに次のように答えています。会長の大西賢はアメーバを「収支管理を徹底させるための仕組み」と見ていたが、導入してみてその威力に驚いた。「キミたち実は勝っていたよ、と2カ月後に試合結果を教えられても、ちっとも燃えない。3万人の団体戦では自分が貢献できたかどうかもわからない。しかし10人のチームで毎月、勝敗がわかると、『やったあ』『残念だった』と社員が一喜一憂する。かつてJALは泣きも笑いもしない組織だったが、アメーバ経営で生きている会社になった。」JALの経営改革の成功は、フィロソフィとアメーバ経営の実践によりもたらされました。稲盛さんを筆頭にJALの全社員が経営に関心を持ち、利益とサービスの向上を目指し、それぞれの持ち場で改善・改革に取り組んだ小さな結果の積み重ねが大きな成果として結実しました。まさに全員参加の経営が、JALを大きく変革したのです。
(P114〜P116)

<偉人記念館>
徳富蘇峰記念館http://www2.ocn.ne.jp/~tsoho/museum.html
 徳富蘇峰記念館は、蘇峰の晩年の秘書を務めた塩崎彦市が、蘇峰の13回忌にあたる昭和44年に二宮の塩崎邸内に建築した。塩崎は早くより蘇峰を敬慕し、戦前より秘書として身辺に侍して蘇峰の逝去に至るまで苦楽を共にした。その誠意に対し蘇峰は、書簡・蔵書・揮毫・原稿・遺品の多数を塩崎に託しました。塩崎は、蘇峰の遺業と精神が新しい時代の青年によって研究されることを願い、託された多くの近代史の資料を公開する目的で記念館を建設した。塩崎亡き後は、遺族が「財団法人徳富蘇峰記念塩崎財団」を設立し、神奈川県で17番目の博物館になり、平成25年12月、公益財団法人に移行致した。
 ・徳富蘇峰宛書簡 約4万7千通(差出人数・約1万2千人)明治・大正・昭和三代にわたる政治家、軍人をはじめ、各界の要人・文化人・学者が蘇峰に宛てた書簡
勝海舟新島襄伊藤博文陸奥宗光山県有朋松方正義大隈重信森鴎外坪内逍遥吉野作造斎藤茂吉夏目漱石山本五十六東条英機松岡洋右徳富蘆花中江兆民与謝野鉄幹・晶子・高浜虚子大谷光瑞・安達峰一郎・新渡戸稲造桂太郎・溥儀など
 ・サンケイ新聞記事より 「漱石、鴎外、博文…偉人の書簡展示 神奈川・二宮の徳富記念館」(2014.2.17)
 『徳富蘇峰記念館(神奈川県二宮町)で特別展「手紙ってアートだ!!」展が開かれている。明治、大正、昭和期に活躍した言論界の巨人、徳富蘇峰(1863〜1957年)に宛てた政治家、文豪、芸術家ら25人の貴重な書簡31点を展示している。12月7日まで。夏目漱石が原稿用紙につづった珍しい礼状、蘇峰が創刊した国民新聞に原稿をボツにされた理由をただす森鴎外の手紙。伊藤博文による宴会の誘いや、満州国皇帝時代の愛新覚羅溥儀が蘇峰に政治上の助言を請う書状もある。「近現代史の大物で能筆家でもある書き手の人柄がにじみ出ており、アート作品としても楽しめる」と同館学芸員、塩崎信彦さん。また、企画展として「各界名士が書いた年賀状」展も開催中。蘇峰と並ぶ明治期の言論人、陸羯南俳人高浜虚子らが差出人の20点を陳列。4月13日まで。』

<本の紹介>
・聞く力(文春新書)http://www.amazon.co.jp/%E8%81%9E%E3%81%8F%E5%8A%9B%E2%80%95%E5%BF%83%E3%82%92%E3%81%B2%E3%82%89%E3%81%8F35%E3%81%AE%E3%83%92%E3%83%B3%E3%83%88-%E6%96%87%E6%98%A5%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E9%98%BF%E5%B7%9D-%E4%BD%90%E5%92%8C%E5%AD%90/dp/416660841X
・京セラフィロソフィ」(稲盛和夫 サンマーク出版http://www.amazon.co.jp/%E4%BA%AC%E3%82%BB%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AD%E3%82%BD%E3%83%95%E3%82%A3-%E7%A8%B2%E7%9B%9B%E5%92%8C%E5%A4%AB/dp/4763133713
・全員で稼ぐ組織 JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書http://www.amazon.co.jp/%E5%85%A8%E5%93%A1%E3%81%A7%E7%A8%BC%E3%81%90%E7%B5%84%E7%B9%94-JAL%E3%82%92%E5%86%8D%E7%94%9F%E3%81%95%E3%81%9B%E3%81%9F%E3%80%8C%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%90%E7%B5%8C%E5%96%B6%E3%80%8D%E3%81%AE%E6%95%99%E7%A7%91%E6%9B%B8-%E6%A3%AE%E7%94%B0-%E7%9B%B4%E8%A1%8C/dp/4822250202

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