須雅屋の古本暗黒世界 このページをアンテナに追加 RSSフィード

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

2025-01-01 ご案内

◎当分の間、日記を書く時間と気持ちの余裕が生まれそうに(生み出せそうに)ありません。

まあ、単なる怠け者なのでしょうけど。

代りと申しましてはなんですが、恥ずかしながら、以前書いた詩のごときものや散文、それにたまには新作などもUPしてゆこうかと考えております。

あんな奴もいたよなと思いだされることがりましたら、時々はこの場所を覗いて頂ければ嬉しく存じます(2018.5.2)

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◎さとう三千魚さんのサイト「浜風文庫」に掲載頂きました

「入院記」です。http://satomichio.net/?p=17254

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◎『北方ジャーナル』2018年9月号発売中。

http://hoppojournal.sapolog.com/e471654.html

〇スガの連載「よいどれブンガク夜話」第107夜は

植草甚一植草甚一日記』――「サッポロの古本屋は何もない」です。

挿絵は笹木桃氏。雑誌表紙絵は鈴木翁二氏。

〇蘇我すが子さんの連載エッセイ「古本屋女房の“古本的日常”」第56回は「涼を呼ぶおはなしをしよう 」であります。アーサー・マッケンの長篇、そかられ内田百里涼司咾墨辰呂箸鵑如帖帖

『北方ジャーナル』はセイコーマートにも置かれています。Amazonでも購入できます。

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◎月刊誌『O.tone』vol.112号(あるた出版)の特集は「聖地、焼鳥屋。」。

スガもエッセイ「ある焼鳥屋のこと」を書きました。お読み頂ければ嬉しく存じます。Amazonでも購入可。

www.alter.co.jp/

www.alter.co.jp/otone.html

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吉田類責任編集『旅人類』vol.3「函館・青森あたり」が2017年3月25日に発売されました。

スガも『太宰治「津軽」を旅して』を書いております。

あるた出版発行、オールカラー、144頁。価格は本体800円+税。

http://sakeo.shopdb.jp/2017/04/vol3.html

http://www.alter.co.jp/blog/info/205.html 

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◎二冊目の本が2015年4月15日に出ました。 

☆「さまよえる古本屋 ― もしくは古本屋症候群」

 というタイトルです。

 版元は大阪の燃焼社さん。281頁。

 定価は1800円(税込み/1944円)です。


http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-88978-112-0.html

(下の方にスクロールすると、「目次」や「あとがき」の半分ほどがご覧になれます)

○amazonでも販売中でございます。

http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4889781129/hnzk-22

○日記、エッセイ、小説に、漫画まで入っているという、盛り沢山の中身です。どうぞよろしくお願い申し上げます。

(☆弊店でも句入りサイン本を販売中。

 先払いになりますが、お申し込みは古書すがや=須雅屋へ)

sugayaster@gmail.com   古書すがや(須雅屋)

さまよえる古本屋: もしくは古本屋症候群

さまよえる古本屋: もしくは古本屋症候群

☆下記、札幌市内の古本屋さんにても販売されております。サイン本です。

 アダノンキさん(南1西6 第2三谷ビル2F)

 弘南堂さん  (北12西4)

 南陽堂さん  (北8西5)

 じゃんくまうす(ネット販売のみ info@junkmouse.net)

 *すでに品切れの場合もありますので、

  もしもお目当で行かれる場合は

 (極稀なケースとは存じますが)

  事前に各店に在庫をお確かめ下さいませ。

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☆こちらが初めての本です。

 論創社さんから2012年12月30日に発行されました。

『貧乏暇あり 札幌古本屋日記』

335頁。定価1800円(税込み/1944円)。

☆弊店では現在、在庫切れですが、amazonほかでご注文頂けます。

  http://www.amazon.co.jp/dp/4846012050/    

貧乏暇あり―札幌古本屋日記

貧乏暇あり―札幌古本屋日記

f:id:nekomatagi:20130526181923j:image

(作画:笹木桃)                    

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◎友人の店のサイトに寄せた雑文です。

池波正太郎エッセイに触れてみました。

http://www.halfsugar.biz/category/essay/

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◎SUGA'S WORKS (作品など)

http://tb.antiscroll.com/profile/s3515

◎「季刊びーぐる 詩の海へ」21号の特集頁に寄稿させて戴きました「吊るされる男の始末について」をUP致しました。

(2014.4.9)

http://tb.antiscroll.com/novel/16905

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2018-07-15 坂下の図書室までの旅  (詩)

 坂下の図書室までの旅    須賀章雅


春はまだ

だが冬はようやく過ぎて

そしてあかるさは増しつつ

あちらこちらから雪融けの水の音が聞こえて

手袋やらゴミ袋やら犬の落とし物やら

冬の残した遺留物の現れ始めた、ちょっと

生臭い匂いもする坂道を私は下ってゆく

有島さんに関する本を紙袋に入れて


公園の樹々からのカラス共の鳴き声も

食べ物を探して広場を歩くハト達の身ごなしも

うす曇りの空に凧のように浮かんでいるトンビの姿も

どこかいくぶんの安堵を感じさせ


訪ねて来る者もなく

何処へゆく場所もない私は二週に一度

坂の底にある図書室までを歩き

十冊ほどの本を袋にまた陋屋へと戻る


有島さんはなぜ死んでしまったのか?

ぶらさがった二つのカラダが私の頭から離れない

昔、この街には有島さんが住んでいた

若く美しい夫人と暮した川沿いの家の庭には

春になると桜が満開だったことだろう

漁師町に住む青年が自作の絵を携え

前ぶれもなく訪ねて来たこともあった庭のその桜

あの桜の子孫たちはいま何処にいるのだろうか?


あ!あれは数少ないわが友人だったサトウくんの父上ではないか!

(彼は遠くへ行ってしまったが)

「どちらさんでしたっけ?」

怪訝そうな父上は私を思い出してくれたのかどうか定かではないが

「明日は友達とイシカリさ、釣に行きます」と教えてくれる

昨年倒れて入院されていたと聞いている父上には

ひと月前に同じこの路上で遭って以来ではあるが


自ら死を選んだ人は謎を残すというけれど

まだ生きている人だって謎ばかりだ、ふっと

私もあちらへ行きたくなることがある、でも

私がいなくても春の水は春に流れるが

私がいるから春の水が春に光るのだろう


何処へゆくお金も

釣に誘ってくれる友だちも

一緒に死んでくれる女もいないが

図書室で次に借り出す書物は決めてある


有島さんを訪ねた「漁夫画家」に会うために

前ぶれもなく漁師町の傾いた家を訪れた

八木さんの本にしようと決めてある、そして

ドスト氏の髯のような雲の浮かぶ測量山のムロランへ

落葉松の原始林が途切れなく続くカラフトへ

赤い裸電球とベッドの他には何もない木賃宿のハルピンへ

娼婦たちを訪ねて暗い一郭のトウキョウへと

ちょっと出かけてみるつもりなのだ

春はまだごく浅いけれど
















https://tb.antiscroll.com/novels/s3515/14298

 2011年2月28日作。『びーぐる』11号投降欄掲載。

2018-07-14 死んだ男  (詩)

死んだ男             須賀章雅


その男は語ったものだ。

翌秋に来る妻の十三回忌についての計画を百回も。

下の息子の披露宴における彼の挨拶がいかに秀逸であったかを千回も。

とめどなくのたくるアルコールの蛇の円環話法が続いたものだ。

それから上の息子ついての批評を一席ぶち始めたものだ。

ああ、また始まった。

その度にコップ酒透かして男を見ながら思ったものだ。

兄はよく彼を殺さないものだと。


少年のころ豚舎で働いていたことがあるそうだ。

客船でボーイをやっていたことがあるそうだ。

コック見習いに励んだことがあるそうだ。

一生出世とは縁のなかった男である。

牛乳工場でボイラーマンを長く勤めた。

定年後は土木工事に行かされた。

そしてまた豚舎で働かされた。

豚に噛まれるとけっこう痛いと嘆いていた。

何をやらせても不器用な奴だった。

その点については下の息子が受け継いだと云われているそうだ。


だが男は計ったように大晦日の夜に死んでみせた。

後には何も遺さぬと宣言し晩年大蕩尽をやってのけ真実そうなった。

それは男がしてのけた唯一の大仕事であったかもしれない。


柩には花々と酒パック一ヶに擦り切れた松本清張集。

葬式には男の兄弟係累親類縁者ただの一人も来なかった。

読経で僧侶が口にした戒名に笑いこらえた。

私からの香典は兄さんが立て替えてくれたものなんだが。

もう父も知っているとは思うのだが。


火葬場へのバスの外はこの地方天地開闢以来の前も見えぬ猛吹雪。

何処へ連れて行かれるのかも分からぬ不安の中。

父の哄笑が聞こえてきた。


小男の父の骨は存外太くて立派であった。

骨を拾いながら兄と語り合った。

樺太の抑留生活で鍛えられているからなあ。

飢えのあまりミミズを喰ったんだって。

賢明院さん。

あちらではどうか賢明にやってくれたまえ。


酒の好きであった男である。

歌の好きであった男である。

一生出世とは無縁であった男である。

小説なども少しは読んだ男である。

そうして、二〇〇五年十二月三十一日に死んだ男である。











https://tb.antiscroll.com/novels/s3515/11382

 2006年作。

2018-07-13 あるあかるいゆふぐれについての詩 

 あるあかるいゆふぐれについての詩         須賀章雅


わたしの詩は不純だ......

それがどうにもにわかに悲しくなり

憂悶の情もだし難く脳乱し

まだこんなに大気の明るい夕まぐれ

訪れた美しいヒラメキ

浮き上がれわたしよ

とりあえずアルコオルに相談してみよう

だが飲む前に見よ、現実を!

たちまち計画の不可能生が頭をもたげるのである

酒の一滴、銅貨一枚この家には存在しないのだ

しょうがない、仮眠でもとるとしようか

とつぶやく横から

まあ遠慮すんなよ

春まで冬眠してろって!

すかさず妻がすすめてくれるのだ

遅い桜も終わってまもない

ようやく初夏を迎えた今日

まだ大気も明るいこんな夕暮れ時に……










https://tb.antiscroll.com/novels/s3515/11334

 2004年作。

2018-07-01 家路  (詩)

   家路               須賀章雅


黄昏

丘の上から鐘が鳴る

望楼から六時を知らせる鐘が鳴る

「家路」をたどる鐘の音が空に響きわたり町を流れてゆく


帰ろう

  帰ろう

家路へと


立ちずさむわたしの耳に子供たちの歌が聞こえてくる

(あれは あの声は 何処から来るのか?)


《遠き山に日は落ちて

《星は空を散りばめぬ


あの日わたしはあの人とあの家を出た

家は荒れて傾いていた

波打つ根太の床は朽ちかけていた

家は生活もろとも沈みかけていた


あの人はいつも隅の机の前に座り続けて白い紙に向かっていた

飽きると時に肩車でわたしを宙に浮かせたり

せがまれて煙草を吸いながら唇を丸めて煙りの輪を作ってくれるのだった

あの人には稼ぎがなく辺りではデクノボーと呼ばれていた


あの秋の午後おそらく……

わたしを連れて家を出たあの人は海へと向かった

浜辺に座ってわたしの頭をなぜながら海を見つめていた

わたしの頼みに煙草を銜えたがマッチの火はすぐに消えた

風が強く海は荒れ騒いでいた

「怒っている海」という題の詩があるのだよ

砕け散る波を見ながらあの人はそう呟いた


そうしてそれからあの人とわたしは駅に近いM病院前のD劇場に入った

町に二つある映画館の一軒だった

あの人はカンビールをわたしはラムネを飲みながら

へんになつかしく温もりのある暗闇に沈みつつ

固く擦り切れたシートで人いきれの中

最近のニュースと予告篇の長い付録の後に

消毒液臭い「座頭市」が始まるのを待った


次にわたしはスルメと格闘していた

あの人はポケット瓶のウィスキーを飲んでいた

座頭市が女の人を按摩していた

周りは街道沿いの悪党ばかりだった


いつのまにかわたしはうとうとしていたらしい

「およしなさいよ。無駄なこと。」

瞬間、座頭市の仕込み杖から飛び出した刀がキラメクや

ズバッズバツ、と流れ斬り

ばたばたと悪党どもが倒れていた

隣の席には誰もいなかった

「アアいやな渡世だなぁ」と座頭市が嘆く

ボクはちょっと職業を探してきます

そう云い残してあの人は劇場から出ていった

と親切なモギリのオバさんが教えてくれた


あの人はそれきり帰らなかった

いつかそうなるのをわたしは知っていた気もする

あの日あの後あれから戻る家のないわたしは

「家路」の鐘の流れる真っ赤な夕焼けの中

映画館の前であの人を待っていた


そして今日も白いものが混じった髪のわたしに夕闇の中

丘の望楼から鳴りわたるあの鐘の音が聞こえてくる

廃屋となった劇場の前でふるえながらあの人を待っている

家のないわたしに「家路」の鐘の音が聞こえてくる


帰ろう

  帰ろう

家路へと


《いざや 楽しき夢を見ん

《夢を見ん







堀内敬三による訳詞の引用あり。







https://tb.antiscroll.com/novels/s3515/11574

*2007年『詩学』4月号投降欄掲載。