別の意味での盛り上がり方

まあ夏のオリンピックに比べて冬のオリンピックの場合、事前の盛り上がり方が低調というのは常の事かも知れないけれど、平昌五輪は通例以上に盛り上がりに欠けるのではないか。そもそも拙blogでもこれまで殆ど言及してこなかった*1。12月に日本に帰ったとき、羽田空港で平昌五輪のキャンペーンをやっていたので、韓国でオリンピックやるんだと思い出し、年が明けてから上海で、平昌五輪のオフィシャル・Eコマース・スポンサーになったらしい「天猫」がオリンピック関係のポスターを掲示していて、ああもうそろそろなんだ、と感じた。
でも、別の仕方で盛り上がっているようだ。きわめて朝鮮半島的なスタイルによって。
朝日新聞』の記事;


北朝鮮、正恩氏写真を燃やされ激怒 五輪「慎重に考慮」
ソウル=牧野愛博2018年1月23日22時27分


 北朝鮮祖国平和統一委員会は23日、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長のポスターを燃やすなどした韓国市民の集会を非難する報道官談話を発表した。朝鮮中央通信が伝えた。平昌(ピョンチャン)冬季五輪を巡る今後の措置について「慎重に考慮せざるを得ない」と警告し、五輪参加の撤回もちらつかせた。韓国政府は対応に苦慮している。

 集会は22日、ソウル駅前で開かれた。平昌五輪への北朝鮮参加を巡る韓国政府の対応を批判し、正恩氏のポスターを焼いた。

 北朝鮮の祖国平和統一委は談話で、集会に対して「特大型の犯罪行為」と非難。「問題視せざるを得ないのは、放任した南朝鮮当局の振る舞いだ」とし、韓国政府の謝罪と再発防止を求めた。「五輪参加の北南合意が破綻(はたん)するなら、全責任は保守一味と南朝鮮当局が負う」と警告した。

 韓国警察当局は、集会が無届けだったとして、違法行為として捜査している。だが、この捜査も北朝鮮への配慮とも受け止められ、韓国内では、平昌五輪の参加について「北朝鮮に譲歩しすぎだ」とする意見が膨らんでいる。

 韓国大統領府は23日、「(平昌五輪ではなく)平壌五輪だというレッテルを貼るのは理解できない」とする声明を発表し、南北対話路線への世論の理解を重ねて求めた。一方、平昌五輪の開幕前に北朝鮮で行う南北合同行事の韓国事前調査団は23日、金剛山地区などを視察した。

 また、北朝鮮は23日夜、三池淵(サムジヨン)管弦楽団の韓国公演について2月8日に江原道江陵(カンウォンドカンヌン)で、11日にソウルでそれぞれ行いたいとの考えを韓国側に伝えた。南北合同チームを結成する女子アイスホッケー選手12人らを1月25日に訪韓させる考えも示した。(ソウル=牧野愛博)
https://www.asahi.com/articles/ASL1R5147L1RUHBI019.html

時事通信

北朝鮮、五輪参加の撤回示唆=韓国団体の集会非難
1/23(火) 16:50配信 時事通信


 【ソウル時事】朝鮮中央通信によると、北朝鮮の対韓国窓口機関、祖国平和統一委員会(祖平統)は23日、韓国の保守系団体が22日の集会で、金正恩朝鮮労働党委員長の写真や北朝鮮国旗を燃やしたことを強く非難する報道官談話を発表した。

 文在寅政権にも「妄動を黙認した」と矛先を向け、「(平昌)冬季五輪に関連した今後の措置も慎重に検討せざるを得ない」と参加撤回もあり得ることをほのめかした。

 北朝鮮は先に、非核化対話の必要性に言及した文大統領の発言に反発し、不参加を示唆したばかりで、五輪開幕を前に文政権への揺さぶりを一段と強めそうだ。

 祖平統の報道官談話は、保守系団体が北朝鮮視察団のソウル駅到着に合わせて集会を開き、「蛮行を働いた」と糾弾。「重大な妄動を放任した」と韓国当局の対応も批判し、謝罪や関係者の処罰、再発防止策を要求した。 
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180123-00000086-jij-kr

「去勢」など

高山義浩*1北朝鮮の医療で何がおきているのか 脱北した医師との対話から」http://www.huffingtonpost.jp/yoshihiro-takayama/north-korea-medical_a_23338753/


最近北朝鮮の医療事情に疑問を喚起するような出来事がけっこうある。例えば38度線を越えて韓国に帰順した北朝鮮兵士の体内から「大量の寄生虫*2が発見された事件*3。原因は不明だけど北朝鮮で昏睡状態に陥り故国に帰された直後に死亡してしまった米国人大学生で囚人のオットー・ワームビア氏*4
ここで高山氏が「対話」している李泰荕氏は「公立病院の院長」だったということだが、何時頃「脱北」したのか、今何処で何をしているのかを含む個人情報は明らかでない。
少し抜書きしてみる。


―― 北朝鮮感染症疫学に注目している。これは難民を受け入れる側として、きわめて重要な情報となる。ところが、その実態がよく見えないでいる。そもそも、北朝鮮について信頼できるレポートは存在するのか?*5

少なくとも、WHOなどが公表している北朝鮮ファクトシートを信じるべきではない。なぜなら、これらは北朝鮮政府が提供しているが、その統計資料が正しくないからだ。より多くの食糧と薬品の支援を受けようとすれば患者数を増やし、支援がないとみれば北朝鮮の印象が悪くなるので人為的に減らしている。国連が手にしているものは、偽った疫学情報に過ぎない。

私自身、国連やユニセフから支援物資を受けるために、偽った数字を提出していた。幼稚園児たち数十人を連れてきて、病院食堂で食べている映像を撮って、支援物資を消費していると報告したこともある。そもそも、北朝鮮において支援物資の透明性など期待するべきではない。

金正日の指示は、ただ、「ぼんやりと、有利なことだけ見せろ」というものだった。こうして、国家全体で国連まで騙していたんだ。


―― 感染症以外の保健医療統計も信用できないということか?

北朝鮮の統計、すなわち死亡率、出生率、年齢別人口構成、男女比率、子供や老人人口統計のすべてが機密情報である。これらを正確に知る者はいないはずだ。とりわけ、社会主義金正恩の偉大さに傷がつく恐れがあるものは、すべてが隠されてしまう。淋病、梅毒などの性感染症はその代表で、公式統計など発表されるはずがない。これは北朝鮮の保健医療を理解するうえでの基本だ。


―― 北朝鮮の医師の診療能力はどうか? 維持できていると思うか?

病院に薬もなく、患者は市場で薬を買って治療している。あるいは、自宅での民間療法で勝手に治療し、悪化してやっと医師のもとにやって来る。つまり、若い医師たちは、治療するタイミングもその結果も学ぶことができないでいる。

病院では、簡便な検査だけが行われている。たとえば、ウイルス性肝炎を疑っても血清検査を行うことはできず、GOT,GPTの上昇で推定しているのが実情だ。白血球数は測定できても分画は測れない。赤血球数もみれない。淋病、梅毒などの診断検査も行われていない。よって、医師は典型的な臨床症状で診断せざるをえない。

能力を維持できないのではなく、発揮できないでいるんだ。そして、もちろん失われていく。北朝鮮の医療から、科学的な診断と治療は完全に消えたと私は思う。


―― 法定感染症の患者について、適切に隔離は行われているのか?

北朝鮮では、感染症は治療が難しく、致死率が高いが、伝染経路の遮断は容易である。それは、独裁国家という特性から「命令」で患者を隔離できるからだ。感染経路を遮断することは、適切である以上に積極的に行われている。

たとえば、北朝鮮において治療することができないエイズ患者は、ある離島に完全隔離している。障害者は強制的に去勢している。人権無視の国家なので、党が指示すれば無条件で何でも実施することができる。感染症の予防にも党が介入している。

けっこうあっさりと語られているようだけど、これがいちばん衝撃的だった。過去においてはスカンディナヴィアの社会民主義国家においても日本においても、障碍者に対する不妊手術(断種)が行われていたことが告発されている*6。でも、「去勢」すなわち男性器の切除というのは聞いたことがないよ。
なお、李氏は「経済の崩壊」ということを幾度も語っているのだけど、これは21世紀になってからの核兵器を巡る経済制裁によって惹き起こされたものではなく、それ以前の1990年代に起こったことである。

Ursula K. Le Guin

空飛び猫 (講談社文庫)

空飛び猫 (講談社文庫)

彼女の『空飛び猫』を12月に読んだのは偶々のこと*1


「「闇の左手」「ゲド戦記」のアーシュラ・ル=グイン氏が死去」http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1801/24/news071.html
Carolyn Kellogg “Ursula K. Le Guin, award-winning science fiction writer, has died at 88” http://www.latimes.com/books/jacketcopy/la-et-jc-ursula-k-leguin-20180123-story.html
Gerald Jonas “Ursula K. Le Guin, acclaimed for her fantasy fiction, is dead at 88” http://www.sfgate.com/bayarea/article/Ursula-K-Le-Guin-acclaimed-for-her-fantasy-12519529.php
“Ursula K Le Guin: US fantasy author dies at home in Oregon” http://www.bbc.com/news/world-us-canada-42798654



作家のアーシュラ・K・ル・グインさん*2が現地時間1月22日にオレゴン州ポートランドの自宅にて他界。享年88歳*3
最近再読した*4鎌田東二『「呪い」を解く』でも「魔」や「魔境」の問題として参照されていたのだが(p.195ff.)、代表作の『ゲド戦記』は読んでいない(汗)。いちばん印象深かった作品は『闇の左手』と『所有せざる人々』。最初に読んだのは、エッセイ集『夜の言葉』で*5、そのときには、左翼(アナーキスト)でしかも中世社会と道家思想(荘子)が大好きなんて、俺と共通点がありすぎ、と思ったのだったサンリオSF文庫が廃刊になったときに、ル・グインの作品を、あちこちの書店を巡って、買い漁ったという記憶がある*6。『ロカノンの世界』、『辺境の惑星』、『幻影の都市』。なお、彼女の父上は文化人類学者のアルフレッド・クローバーで*7、自身も人類学を学んだ。また、母親であるシオドーラ・クローバーの人類学的ノンフィクション『イシ』に序文を寄せている。

「呪い」を解く (文春文庫)

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辺境の惑星(サンリオSF文庫)

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幻影の都市 (1981年) (サンリオSF文庫)

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イシ―北米最後の野生インディアン (同時代ライブラリー)

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