【文徒】2017年(平成29)年1月6日(第5巻2号・通巻931号)

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1)【記事】 まとめサイトをめぐる混乱状況。『はちま起稿』をDMMが買収するも「問題がありそうだから」とすぐに転売
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】まとめサイトをめぐる混乱状況。『はちま起稿』をDMMが買収するも「問題がありそうだから」とすぐに転売(岩本太郎)

昨年末のDeNA騒動をきっかけに湧き起った「まとめサイト」の問題点をめぐる議論は、その後もネット上での「あそこもやってる」「あそこの記事も怪しい」といった告発合戦を随所で誘発しつつ今なお収まる気配もなく続いている。
そうした中、以前から何かと物議を醸すことの多かったまとめサイト「はちま起稿」が、動画配信サービスなどを運営するDMM.comの経営傘下に昨年初め以来入っていたことが明らかになった。報じたのはソフトバンク系のITmediaが運営するネットニュースの『ねとらぼ』。12月上旬頃よりDMM.comおよび『はちま起稿』元管理人の清水鉄平に取材を重ねた末、28日付で以下のように報じたのだ。
《はちま起稿については以前から問題のあるサイトとして知られており、DMM.comがこれを買収し、さらにその事実を隠していたとなると、今後ステルスマーケティングや企業コンプライアンスなどの問題から、大きな騒動に発展する可能性もあります》
《インターネット上では以前から「はちま起稿のIPアドレスを調べるとDMM.comラボの名前と住所が出てくる」「DMM.comのサービスが落ちるとなぜかはちま起稿も落ちる」など、両者の関連を疑う声がありましたが、これがあらためて証明された形となります。DMM.comが買収していたのは2016年1月から同年10月までで、現在は株式会社インサイトに売却済みと発表されています》
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1612/28/news088.html
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1612/28/news105.html
参考までに『はちま起稿』についてこれまでどんな問題が指摘されてきたかを補足しておくと、最近では昨年10月21日に報じた「【超悲報】ニンテンドースイッチのPVのスカイリム映像、無断使用だった」という記事が、その後に『BuzFeed』が任天堂の広報などに取材した結果デマであることが発覚した件(『はちま起稿』もほどなく当該記事を訂正し謝罪)がある。
https://www.buzzfeed.com/tatsunoritokushige/matomematadema?utm_term=.dcE8bLbvm#.ow6WLkLqY
また、以前には反差別の立場からヘイトスピーチに抗議をしてきた、いわゆる“カウンター”陣営からも悪評がよく持ち上がっていた。当時のカウンター側の中心人物で、現在はエストニアに留学中の木野寿紀も『ねとらぼ』による上記報道を受けて《2017年こそ悪質まとめサイト「はちま起稿」の閉鎖を》と題した記事を自身のブログに綴っている。
http://www.from-estonia-with-love.net/entry/copyright07
ただ、これも上記の通りDMM.comは昨年10月には『はちま起稿』をインターネット広告会社のインサイト(渋谷区道玄坂)に事業譲渡したことを公表している。
これについてブロガーの山本一郎DMM.com会長の亀山敬司にインタビューした記事を30日付でYahoo!ニュースに寄稿しているのだが、この中身を読む限り、何とも締まりのない舞台裏の様子が浮かんでくる。亀山が言うには、『はちま起稿』の買収話は1年ほど前に同社の役員から「ゲームメディアのサイトを買いたい」との話が持ち掛けられたのを受け、亀山自身はそれがどんなサイトか把握しないまま役員決済にてOK。買収の件を特に隠すこともなかった一方でプレス発表もしなかったそうだ。売却したのはDeNA問題を受けてか? との山本の問いに対してはこんなふうに答えている。
《いや、そのことがある前に、「はちま起稿」を買ったという話しを知人にしたとき、「これDMMさんが持っているのヤバくないですか?評判悪い」と言われたので、俺としては驚いて「そうなんだ」と。
それで信用できる経営者の何人かの人に聞いてみたら、他の人たちからも「それは手放したほうがいいんじゃないの」と言われすぐに担当者を呼んで、「損切りでもいいのですぐ売却して」と指示をした。(略)今回は100パーセント私の責任。ご迷惑をおかけしている大勢の皆様にも謝罪したい。私がOKを出したわけなので、知らなかったという逃げは通じないし責任は私にある。 (略)
清水鉄平という管理人には数回話したことがるけど、まだ20代半ばで「はちま起稿をどんな感じ
今回の件で、はちまをそのまま放置せずに、DMMとしてきちんと教育して、やんちゃなやつをちゃんと大人に教育させていたら、こんなことにもならなかっただろうし、その点も含めて、私の全面的な落ち度だと思っている》
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yamamotoichiro/20161230-00066087/
DMM傘下時代の『はちま起稿』が起こした問題についても亀山は《調査結果を待って、責任はすべて私が引き受ける》と述べているが、こうした「いつの間にか誰かが自社系列下のメディアで、自分の知らないうちに悪さをしていた」というパターンはDeNA騒動のそれにも通じるところがある。2017年も引き続きこの種のネットメディアの不祥事でネット上が盛り上がるというケースが続くことになるのだろうか。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎上記のような「まとめサイト」批判の矛先は「NAVERまとめ」を運営するLINEに対しても向けられていることは昨年末にも紹介したが、そのLINEが12月28日付で《「NAVERまとめ」に関する昨今の報道を受けての当社見解について》と題したプレスリリースを公表している。
https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2016/1619
http://japan.cnet.com/news/service/35094431/

◎『WIRED日本版』編集長の若林恵による年頭のエディターズノートは「『「ニーズ』に死を:トランプ・マケドニアDeNAと2017年のメディアについて」。まもなく大統領に就任するドナルド・トランプの支持者向けの偽ニュースで大金を稼いだ東欧マケドニアの若者と、日本のDeNA騒動でその存在が注目を浴びた《フェイクニュースサイトを乱発する企業》は、その動機においても、手法においても《なんら変わらない》と看破しつつ以下のように述べる。
《それがそれ自体として一方的に悪いわけではない。読者も喜ぶ、広告クライアントも喜ぶ、自分たちも儲かる。三方よし。結構じゃないか。件の会社は、わざわざ会長が出てきて「愕然とした」なんて言って謝罪したそうだが、おそらく、本人たちは実際のところ何を謝罪していたのかよくわかっていなかったかもしれない。だって、みんな喜んでるわけだし。何が悪い、ってなもんじゃないのだろうか、実際は》
《デジタルテクノロジーが手を組むことによって生み出されたこの奇怪な現象の奇怪さは、それを批判したところで批判がまったく意味をもたないという点にある。
何せ相手は閉じた系のなかでウィンウィンの関係にあるのだ。である以上、その系のなかにいる人間は、外部に耳を貸す義理もなければ義務もない。いや、市場という外部の信任を得ている以上、それは「正義」ですらある。そこでは議論はおろか、対話すら成立しない》
http://wired.jp/2017/01/03/needs-dont-matter/

◎12月21日の日本電子出版協会(JEPA)主催「電子出版アワード2016」の授賞式・大賞選考会の終了後に行われたパネル討論の模様を、フリーライターNPO「日本独立作家同盟」理事長でもある鷹野凌がレポート。パネリストは落合早苗(O2O Book Biz代表)、高瀬拓史(イースト㈱EPUBエバンジェリスト)、中島由弘(フリーランスエディター)で、司会は同アワード選考副委員長の井芹昌信。同年の電子出版トレンドや今後の動向についての闊達な議論が行われた。最初に発言した落合は、トーハン発表ベストセラー上位20作品中17作品の電子版がすでに配信されていることを挙げつつ「もはや電子出版は出版社が当たり前に取り組むべきことになってきた」と解説。一方で無料マンガアプリや投稿サイトとの連動など複数のビジネスモデルを組み合わせて収益化していく動きも見られるなど、出版社も「本を売ってなんぼ」ではなくビジネスの幅を広げつつある、と指摘した。
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/1037103.html

◎女性ファッション誌の研究で知られる甲南大学教授の栗田宣義が『サイゾーウーマン』のインタビューに登場。記事のタイトルは「モテ系・赤文字系が凋落、『mer』はヒット! 2016年の女性誌動向5大トピックを徹底分析」だが、栗田によれば《『ku:nel』は復刊で赤文字系に?》であるらしい。
《復刊後は女性ファッション誌とカバーの作り方が同じになりました。各号ごとコンセプトのキャッチは、創刊から一昨年の休刊あたりまでは短い。「お宅訪問」「装いの花束」とか、10字未満で、これは情報誌と同じ。しかし、最近は、15文字程度に増えていて、赤文字系の形式と同じ。つまり、ファッション誌では凋落気味の赤文字系の戦術をうまく「横取りした」形です。
 ただ、内容はライフスタイル誌です。マガジンハウスはライフスタイル誌で会社を支えてきた伝統があるので、「ku:nel」で半世紀越しにチャレンジしているのかなとも思う》
https://www.cyzowoman.com/2017/01/post_123661.html

◎TBSの動画ニュースサイト『News−i』が12月27日、ハワイを訪問した安倍首相の動静を伝えるニュース中でのハワイ州知事による「真珠湾訪問を決めた安倍首相には刺激を受けます」との発言部分に、誤って「真珠湾攻撃を決めた安倍首相には刺激を受けます」との翻訳表記を被せてしまい、1月3日付で「お詫びと訂正」をしたとのこと。
http://getnews.jp/archives/1584591

◎アニメ制作現場の“超絶ブラック”ぶりは既に十数年か数十年前から何十回何百回と言われてきたことだが、ここに来てその実態はいよいよのっぴきならないところまで来たらしい。昨年秋に表面化した富山県のアニメ制作会社におけるケースでは月給が手取りで7万円以下なんてケースもあったそうだ。アニメ監督で日本アニメーター・演出協会の理事も務めるヤマサキオサムは『ビジネスジャーナル』の取材に、《アニメ業界には、いまだにしっかりした人材育成や雇用形態の保証がなされていない、という構造的な問題が存在します》と語る。
《割合としては、アニメ業界に入ってくる人のうち10人に1人ぐらいしか残らないのが現状です。若いアニメーターがどんどん辞めていくので、全体的に高齢化も進んでいます。年代的に一番多いのが僕らで、だいたい40代後半から50代。かつて『宇宙戦艦ヤマト』(日本テレビ系)や『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)を観てアニメ業界を志した世代です。あと10年もたてば多くが60代になってしまうわけで、いよいよアニメ制作の未来は厳しくなるかもしれません》
http://biz-journal.jp/2017/01/post_17614.html

◎人気のお笑いコンビ「ラーメンズ」の小林賢太郎が、これまで行ってきたラーメンズ全17公演のうち、映像ソフト化されているコント映像100本をYouTubeで公開した。これによる広告収入は日本赤十字社を通じ、各地の災害復興に役立てられるという。
https://www.youtube.com/channel/UCQ75mjyRYZbprTUwO5kP8ig
http://www.oricon.co.jp/news/2084035/full/

◎FMラジオ局が古民家を活用して開いたゲストハウスが外国人から人気を集めているそうだ。福井県鯖江市のNPOによるコミュニティFM局「たんなん夢レディオ」が同局放送エリア内の越前市若松町にある古民家を用いたゲストハウス「ラヂヲ横丁〜なつかしや〜」を昨年7月にオープン。地元のNPO会長が若い頃「海外で親切にしてもらった恩返しに」と企画したものだという。オープンから約半年で約40人が利用したとのこと。「たんなん夢レディオ」は以前から市民参加による番組作りに意欲的に取り組んできた局として知られ、この「なつかしや」も宿泊施設としてだけでなく、地域の交流拠点としても活用していく意向のようだ。
http://tannan.fm/contents/natsukasiya.html
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/society/112206.html

◎「買取対象外の“恥ずかしい本”は大手スーパーのポイントや割引券に! 不用品処分方法大研究【書籍・雑誌編】」と題して、『週刊プレイボーイ』が“売るのも近所に捨てるのも恥ずかしい”エロ本やヲタ本の処分方法を読者向けに紹介するのは親切なことだと思う。最近は「カスミ」「ベイシア」などの大手スーパーにも「古紙回収ボックス」が設置され、持ち込んだ雑誌の重さがポイント換算されて買い物割引にも適用される特典もあるのだとか(ただし今のところ関東近県のみらしい)。
https://twitter.com/shupure_news/status/816112008084877312
http://wpb.shueisha.co.jp/2017/01/03/77469/?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter

◎イギリスとアイルランドで展開中の大規模キャンペーン「本屋で本を買おう」。イギリスの出版社で構成する協会「パブリッシャーズ・アソシエーション(Publishers Association)」と書店の協会「ブックセラーズ・アソシエーション(Book Sellers Association)」の共同企画で、運営は大手広告会社M&Cサーチ。ロンドンとパリを拠点に活躍するジャーナリストの清水玲奈が『DOT Place』でレポートしている。
http://dotplace.jp/archives/27015

◎欧米で「いままでにない 新しい『役職』を作った広告会社」での実例を『DIGIDAY』が紹介。「CPO(Chief People Officer)」「編集長」「客員起業家」「カルチャーエディター」「データサイエンティスト」の5つだそうだ。
https://shar.es/1DzcPG

◎昨年末、大雪で飛行機の運行がストップした北海道の新千歳空港で中国人旅行客が騒いだというニュースはテレビでも報じられたが、これに対して意外なところからの異論が。千葉県内を走る第三セクター運営のローカル鉄道「いすみ鉄道」社長の鳥塚亮はもともと大韓航空ブリティッシュ・エアウェイズといった航空会社での勤務などを経た後に、赤字で廃線も取りざたされていた同鉄道の社長公募に応じて就任し、観光鉄道として立て直しつつあるという人物だ。彼はこの件についてのメディアの報道を「また、中国人か」「中国人はどうしょうもない」という世論向けの報道だと思うとしつつ、次のように述べる。
《私がそう思う理由は、中国人が「なぜ」騒いだか。その「なぜ」の部分がまったく報道されていないからです。(略)少なくとも、入管や税関はどういう取り扱いをしたのか。航空会社はどういう取り扱いをしたのか。元業界人としてはとても気になるのですが、最初のTBSのニュースを見る限りは何も記されていません。(略)それはどうしてか?
おそらくメディアの人たちの情報源が空港当局者だからでしょう。
空港当局者、つまりオーソリティーは、きちんと旅客をケアしなかった側ですから、そういう人たちにぶら下がり取材をして、そのままニュースにするようだと真実や原因は解明されないのですが、速報性にこだわるばかりそうなるのでしょうね》
http://isumi.rail.shop-pro.jp/?eid=2722
鳥塚は《日本も同じで「中国人が悪い!」という人たちは、だいたい40代以下の人たちで、60代以上の人たちは中国人のやっていることを見てもバッシングなどできません》と述べていて、そこは少々乱暴な言いきり方だと私は思う。ただ確かに往年、日本の観光客が海外に出た際の振る舞いが問題視されたことなどを今の若い世代はあまり知らないだろう。また、これは空港より鉄道での話だが、1970年代には高崎線で通勤電車の遅れに怒った乗客が電車や駅を破壊する「上尾事件」のような出来事が日本でもあった。
https://www.youtube.com/watch?v=aPC_rRCXmDk

◎今年の箱根駅伝に出場した母校の応援のため沿道まで駆り出された、筆者(岩本)の旧知の大学職員の日記より。あの応援にもいろいろ面倒な制約があるようだ。
《未だに気に入らないのが、通行人の邪魔になるから大学の旗を振ってはいけないという陸連の通達。でも、読売新聞の旗はガンガン振られてます。会場でばら撒いてますから。あと最近知ったのが、あそこで大学の宣伝みたいな行為をするなって。願書配った大学があるんですかね(笑)。あのですね、大学が駅伝に力を入れてる時点で、大学の宣伝をしてるんだけど》
http://sinzinrui.blog.fc2.com/blog-entry-3733.html

◎正月恒例の宝島社による新聞広告の今年のテーマは「世界平和」。真珠湾攻撃と広島への原爆投下の写真に「忘却は、罪である」とのコピーを配した作品を1月5日の新聞6紙(朝日・読売・毎日・産経・日経・日刊ゲンダイ)の全国版)に同時掲載した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000477.000005069.html

テレビ朝日は来る4月改編から、土日の21時台に1時間の大型ニュース情報番組「サタデーステーション」「サンデーステーション」を新設するそうだ。同局における週末の顔ともいうべき長寿番組の「土曜ワイド劇場(土曜プライム)」と「日曜洋画劇場(日曜エンターテインメント)」の処遇についてはどちらも「検討中」であるとのこと。
http://m.mantan-web.jp/article/20170104dog00m200020000c.html

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

「評価は後世の人々が決めること」などとうそぶくよりも、100年後の人々にアピールできるキャッチコピーを考えるほうが楽しい。