覚え書:「日本のゆくえ・現場を歩く 2016参院選/1 憲法(その1) 改憲言及『票逃げる』 自民が争点隠し」、『毎日新聞』2016年06月05日(日)付。

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日本のゆくえ・現場を歩く
2016参院選/1 憲法(その1) 改憲言及「票逃げる」 自民が争点隠し

毎日新聞2016年6月5日 東京朝刊
 
 元女優の語り口は、演劇を思わせた。

 「神武天皇のご即位から数えて2676年。歴代の天皇は国安(くにやす)かれ、民(たみ)安かれと祈り続けてきました」。横浜市中区の関内ホールで2月20日に開かれた改憲派の集会。聴衆約1100人は、壇上の三原じゅん子参院議員(51)のスピーチに引き込まれていた。

 三原氏は、自民党神奈川県連を代表して招かれていた。連合国軍総司令部(GHQ)が今の憲法を押しつけたとする見方に基づき、「憲法は国柄を示すよりどころ。日本人の手に取り戻すことは重要な課題です」と訴えた。

 自民党現職で比例代表から神奈川選挙区に転出し、来月の参院選で再選を目指している。街頭でも同じように訴えているのか。横浜市港北区日吉駅前で5月28日午後3時過ぎ、真っ赤なポロシャツを着て笑顔で道行く人と握手を交わす姿があった。

 「『3年B組金八先生』ってご存じですか」。自身がツッパリ少女を演じ、熱血中学教師(武田鉄矢さん)とぶつかり合う人気学園ドラマ(1979年放映開始)に触れ、福祉や子育て支援に力を入れてきたことを強調する。だが、30分ほどの街頭活動で憲法への言及は一度もなかった。

 安倍晋三首相は任期中の改憲に意欲的だ。自民党などの改憲勢力衆院で3分の2を超え、夏の選挙で参院も3分の2を占めれば憲法改正が政治日程に上る可能性がある。

 なぜ今、憲法を語らないのか。活動を終えた彼女に疑問をぶつけると、よどみなく言った。「選挙戦で改憲を訴えるつもりはありません。他にも訴えるべきことがあります」

 首相も国会閉会で参院選が事実上スタートした1日、記者会見で「アベノミクスを加速するか、後戻りするか。これが最大の争点だ」と語った。自民党関係者は「改憲を訴えると票が逃げる」と明かす。「改憲自民党の党是。隠しているわけではないが、今は声を潜めた方がいい。参院で3分の2が取れたら改憲に動き出す。それが政治の世界だ」

 憲法という「国のかたち」にかかわる大きな争点をあいまいにしたまま、参院選は走り出している。しかし、水面下では改憲勢力が選挙後を見据え、長い時間をかけて準備を進めてきた。【川崎桂吾】

    ◇

 安倍首相が「国民の信を問う」と位置づけている参院選が、7月10日に投開票される。今月22日の公示を前に争点を点検する。 (2面に「識者に問う」)
    −−「日本のゆくえ・現場を歩く 2016参院選/1 憲法(その1) 改憲言及『票逃げる』 自民が争点隠し」、『毎日新聞』2016年06月05日(日)付。

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日本のゆくえ・現場を歩く:2016参院選/1 憲法(その1) 改憲言及「票逃げる」 自民が争点隠し - 毎日新聞


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覚え書:「書評:横須賀、基地の街を歩きつづけて 新倉裕史 著」、『東京新聞』2016年08月14日(日)付。

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横須賀、基地の街を歩きつづけて 新倉裕史 著

2016年8月14日
 
◆<動く原子炉>への抵抗
[評者]吉田司=ノンフィクション作家
 神奈川県・横須賀は基地の街。特に「米軍の街」だ。アメリカの世界最大の「海外母港」で、米海軍第七艦隊の原子力空母やイージス艦が前進配備されている。イラク戦争の時、この街が選挙地盤の小泉純一郎元首相が、世界に先駆けてブッシュ支持を表明したのも当然だったかもしれない。おかげで横須賀から艦船が参戦し、空母キティーホークの艦載機は五千三百七十五回も出撃を繰り返したという。現在は緊張高まる南シナ海で、原子力空母ロナルド・レーガン等が中国を相手に「航行の自由作戦」を展開中だ。
 でもそれに対して毎月欠かさず、二十〜五十人の人たちが四十年間にわたり、「基地のない町を」と呼びかける草の根の平和デモを続けている。手押しのリヤカーにつけたスピーカーから反戦歌を流す「非核市民宣言運動・ヨコスカ」という市民運動。軍艦出撃には平和船団の小舟で抗議したり、原子力空母配備反対の住民投票請求のまちぐるみ運動を展開したり。この本は、その空母VS小さなリヤカーの反戦抵抗史をまとめたものだ。
 その中で今一番大事な話はこれ−原子力空母は<動く原子炉>という訴えだ。メルトダウンの事故を起こしたら、被曝(ひばく)被害は三浦半島から神奈川県全域、房総半島、東京都を直撃するだろう。直下型地震だけが首都圏のリスクではないことを本書は教えている。
 (七つ森書館・1944円)
 <にいくら・ひろし> 1948年生まれ。横須賀市民として平和運動を続けている。
◆もう1冊
 平良好利著『戦後沖縄と米軍基地』(法政大学出版局)。膨大な一次資料に基づき、沖縄の米軍基地問題の展開を追う。
    −−「書評:横須賀、基地の街を歩きつづけて 新倉裕史 著」、『東京新聞』2016年08月14日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016081402000170.html



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覚え書:「書評:日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか 矢部宏治 著」、『東京新聞』2016年08月14日(日)付。

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日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか 矢部宏治 著

2016年8月14日
 
◆9条も骨抜きの実態
[評者]三上治=評論家
 刺激的な標題である。戦後一貫して戦争への反対を続けてきた、そして今もしている私たちに、既に日本は十分に「戦争のできる国」になっているぜ、という警鐘をこめているのだ。「戦争のできる国」への動きに反対する運動の中でも、現代までの日本の具体的な軍事態勢がどうなっているかは気になることだったが、本書はその実態を明らかにしている。それを知ることはやはり驚きだ。
 戦後の日本の「戦争」は、一言でいえばアメリカ軍の要請による自衛隊の海外での参戦だった。歴代の政府は憲法九条と立憲主義を盾にそれを拒んできた。しかし、その代償にアメリカの戦争に追随し、裏で秘密裏に戦争態勢の構築を進めてきた。この実態がアメリカ軍の指揮(隷属)下にある自衛隊も含め明るみにされる。戦後の新旧の安保体制や日米同盟の歴史を含めた史的裏付けも豊富であり、戦後史としても興味深く読める。
 アメリカが日本の基地を自由に使用できる基地権。創設された自衛隊アメリカ軍の指揮下にある指揮権。これを支える政治体制としての日米合同委員会。その三つを軸に「戦争のできる」日本の態勢の現状をあぶりだす。それらの全貌を国民はほとんど知らされていない。日本は独立国家であり、憲法九条もある。「戦争のできる国」を疑問視もできるが、それを上回る説得力が本書にはある。
 (集英社インターナショナル・1296円)
 <やべ・こうじ> 1960年生まれ。書籍情報社代表。著書『戦争をしない国』など。
◆もう1冊
 豊田祐基子著『「共犯」の同盟史』(岩波書店)。岸内閣から安倍内閣まで、日米同盟をめぐる密約の歴史を検証する。
    −−「書評:日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか 矢部宏治 著」、『東京新聞』2016年08月14日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016081402000171.html








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覚え書:「書評:死の虫 ツツガムシ病との闘い 小林照幸 著」、『東京新聞』2016年08月14日(日)付。

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死の虫 ツツガムシ病との闘い 小林照幸 著

2016年8月14日
 
◆命懸けた研究者のリレー
[評者]森健=ジャーナリスト
 明治期、新潟や山形、秋田の米どころでは、夏は死を恐れる季節だった。草むらである虫に刺されると、局部周囲が黒褐色に変化。やがて全身が赤い発疹に覆われ、高熱を発し、高確率で死に至る。原因はツツガムシだった。本書はこの「死の虫」の解明に取り組んできた医学者、研究者の数世代にわたる闘いを描いた年代記である。
 舞台は明治、大正…と時代を下っていくが、明治の話はケダニ地蔵や「虫送り」の風習など民俗学のような趣がある。治療法がない時代、祈ることしかできない厳しい実態。だが、各地での風習から、病態、発生時季、病の分布特性の見極めにつながっていく。
 一方、中央からは西洋医学を伝えたベルツや北里柴三郎らが研究の先鞭(せんべん)をつけたのち、数人の研究者が新潟や山形など現地調査へと進んでいく。病原体の特定、病気と微生物の因果関係の発見には、微生物を見出し、分離するなど一定のルール(コッホの4原則)が必要だが、ツツガムシ病研究はそんな近代医学の歩みが体現されている。
 研究は東大医学部、伝染病研究所、千葉医科大といった組織がしのぎを削り、一歩一歩謎が解明されていく。病原体の分離と特定、ツツガムシの生態、亜種や新種の発見…。研究の過程では、複数の殉職も出ており、まさに命がけだったこともわかる。
 この研究で興味深いのは、親子二代三代と研究者の家族間で受け継がれていたことだ。中央の研究者でも地方の医師でも、研究内容や人の輪が親から受け継がれ、深められる。その強いつながりには、この研究にかけた人たちの責任意識がうかがえる。そこにはツツガムシ病の学名命名が誰になるかなど研究者としての功績争いもあった。
 著者はこれまでに数々の医科学研究のノンフィクションを記しているが、それらの作品もこの今作を進めるために必要だったと言う。百年を越える死の病との闘い。本書にはその重みがあますことなく伝えられている。
 (中央公論新社・1728円)
 <こばやし・てるゆき> ノンフィクション作家。著書『朱鷺(トキ)の遺言』など。
◆もう1冊
 ソニア・シャー著『人類五〇万年の闘い』(夏野徹也訳・太田出版)。人類の命を奪ってきたマラリア原虫の生態と進化を解き明かす。
    −−「書評:死の虫 ツツガムシ病との闘い 小林照幸 著」、『東京新聞』2016年08月14日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016081402000172.html


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死の虫 - ツツガムシ病との闘い
小林 照幸
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覚え書:「日本のゆくえ・識者に問う 2016参院選/1 憲法 政権に三つの欺き ノンフィクション作家・菅野完さん」、『毎日新聞』2016年06月05日(日)付。

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日本のゆくえ・識者に問う
2016参院選/1 憲法 政権に三つの欺き ノンフィクション作家・菅野完さん

毎日新聞2016年6月5日 東京朝刊
 
=北山夏帆撮影
 参院選では憲法に関して「三つの欺き」がある。

 安倍晋三首相は憲法改正を目指しているが、選挙では経済政策「アベノミクス」や消費増税延期が与党の主張の前面に出て、憲法はかすんでしまうだろう。これが一つ目の欺きだ。

 二つ目は、選挙で憲法が争点にならなかったとしても、改憲勢力参院で3分の2以上の議席を占めれば、首相が「民意を得た」と改憲に向けて動き出すだろうということ。これは2014年衆院選自民党公約に小さく書き込んだだけの「安全保障法制の速やかな整備」に、翌年から積極的に取り組んだのと同じだ。

 三つ目は、改憲の狙いが護憲派が想定する9条ではないということ。今後、災害時などに首相の権限を強化する「緊急事態条項」の創設や、伝統的家族観をうたう「家族条項」などがクローズアップされてくるはずだ。有権者やメディアはこうした欺きを指摘しなければならない。安倍政権は憲法の何を変えようとしているのか。選挙の前に手の内を明かせと言う必要がある。

日本会議」動く
 緊急事態条項や家族条項が出てくると私が考える根拠は、「日本会議」の動向にある。

 日本会議宗教右派や有力保守団体を糾合する形で1997年に設立された。会員数は約3万8000人とさほど大きくないが、国会議員懇談会には超党派の約300人の議員が所属し、地方議員連盟には約1800人が参加している。保守勢力の思想的支柱として影響力は大きい。日本会議が数年前から強調し始めたのが、二つの条項だ。

 「今の憲法連合国軍総司令部(GHQ)に押しつけられたもので、日本の国柄が反映されていない。だから憲法を変えなければいけない」というのが日本会議の主張の柱だ。これは首相や自民党憲法観にも通じる。

 日本会議のコアメンバーは70年安保の時代に右派の学生運動をしていた人たちだ。左派の運動が、「政治の季節」が終わった70年代以降、下火になっていったのに対し、彼らは署名やデモ、地方議会への請願といった民主的な手法を駆使して、草の根の運動を続けてきた。中には政権の要職に就いたり、社会的発言力のある学者になったりした人もいる。政治的無関心が広がり、無党派層が増えていく中で浮上してきた日本会議が、集票力や資金があるわけでもないのに一定の影響力を持ち得たのは、「地道な市民運動」の成果といえる。

 ただ、仮に改憲勢力参院で「3分の2」を得たとしても、改憲案が国民投票で否決されたら、また時計の針が巻き戻されるという恐怖感も彼らにはある。

 護憲派には、改憲に向かう今の流れを不安視する人がいるかもしれない。もし改憲を阻止したいと思うのなら、改憲派に負けない規模で市民運動を展開するしかない。「選挙に行っても何も変わらない」というシニシズム冷笑主義)に陥ってはいけない。地道な運動が社会を変えうることは日本会議が証明している。重要なのは情熱だ。

記者ひとこと
 日本会議はメディアで特集記事が組まれるなど大きな注目を集めている。最近は「安倍政権の黒幕」という評価まである。菅野さんは丹念な調査でその実像に迫った。

 日本会議は今、憲法改正国民投票を見据えた「1000万人署名活動」を主導している。仮に国会が改憲案を発議しても、国民投票過半数の賛成を得なければならないため、首相は慎重に手続きを踏む考えを繰り返し表明してきた。参院選の結果は予断を許さないが、世論の醸成に日本会議が果たしている役割は小さくない。【聞き手・川崎桂吾】=つづく

 ■人物略歴

すがの・たもつ
 1974年生まれ。サラリーマンのかたわら執筆活動を開始。膨大な資料を基に今年4月、「日本会議の研究」(扶桑社)を出版した。
    −−「日本のゆくえ・識者に問う 2016参院選/1 憲法 政権に三つの欺き ノンフィクション作家・菅野完さん」、『毎日新聞』2016年06月05日(日)付。

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日本のゆくえ・識者に問う:2016参院選/1 憲法 政権に三つの欺き ノンフィクション作家・菅野完さん - 毎日新聞





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