導入 道徳や倫理の話になるとよく出てくるのが、「とにかく命が大事である」という主張だ。我々の道徳的枠組みの中心に「命の価値」を据える考え方で、例えば「何があっても人を殺してはいけない」というやつとか、「命を無下に扱ってはいけない」とし「殺した動物や魚は命に感謝して食べよう」といったやつだ。このような立場を仮に「命至上主義」と呼ぼう。 こういった考えが当たり前のように跋扈しているが、実際のところ具体的に一体何をもって「命が大事」とされているのだろうか。命の価値はどのように規定され、また我々は命に対してどのような尊重を求められているのだろうか。 哲学は当たり前とされているあらゆる前提に疑いをかけ、…