受継ぐべきはなにか。我われは受継げたのか。 一部から神格化に近い讃仰を受けてきた柳宗悦を、美意識・芸術観にまつわる思想問題として広く一般読者の前に持出した功績は、鶴見俊輔にあったかと思う。が、鶴見もまた、取扱う分野のじつに幅広い人だったから、その後も柳ばかりを論じてはいなかった。 長くしかも粘り強く柳宗悦を検証し続けたのは、美術研究の水尾比呂志だった。『美の終焉』は、柳美論の核心を現代に継承し、時代に合わなくなった側面を修正するに、今なお重要さを失っていない業績かと思う。柳が「用の美」と称んだ美論への批判にたいする反批判として、真善美のほかに「能」という四番目の価値基準を設定してはどうかという…