『柳宗悦蒐集 民藝大鑑』全五巻(筑摩書房、1981) 多大な影響を受けた思想家のひとりに、柳宗悦があった。宗教哲学の人であり、美学の人だ。白樺派にあって、小説も書かず歌も詠まず句も作らず、画も描かなかった、ただ一人の人だ。にもかかわらず美の鑑定者・美意識の提唱者としてつねに仲間の中心的存在として、白樺派の背骨を形成した一人である。 一般的には、宗教哲学や美学のエッセイストとして知られることはほとんどなく、民芸の蒐集家とされ、また民芸運動の創始者・実践者とされる。だいいち今日用いられる「民芸」(民衆的工芸品)という語は、とある蒐集旅行の車内で、柳と河井寛次郎と濱田庄司とが額を寄せて発明した語であ…